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行方不明展 の感想
(会場:三越前 福島ビル)
行方不明、と言っても様々なケースが存在しており
身元不明 「ひと」の行方不明
所在不明 「もの」の行方不明
出所不明 「場所」の行方不明
真偽不明 「記憶」の行方不明
4つのセクションにおいて、展示される様々な行方不明の遺留物。
ホラー作家・梨 X テレビ東京ディレクター・大森時生(『祓除』『イシナガキクエを探してます』) X ホラーカンパニー・株式会社闇というホラー界の異能たちによる展覧会。
会場中に並べられた様々なものはビラから、大量の吸い殻の入ったペットボトル、数々の映像、果ては電話ボックスまで。一目見て不気味な物から一見変哲のないものまで。そこに書いてあるキャプションを読むことで異様な価値をそこに見出す。
行方不明といえど、ただ人がいなくなっただけでなく、いなくなったが記憶がおぼろげなのでだった気がしますと書き連ねられている探し人のビラ。
写真がないので様々な写真やイラストを切り貼りしたセルフモンタージュ(きれいに切り貼りされておらずぐちゃぐちゃになっている所が余計不気味)。
買った記憶もないのに、なんであるのかが分からない香水や子供用の三輪車も物が存在している理由が行方不明として展示される。
場所の不明って何だと思うが、これは存在しない土地にまつわるもの、存在しない土地のチラシ、存在しない光景を映す双眼鏡など。
やがて展覧会は、異世界への逃走願望が行方不明の核ではないかと語り始めエレベーターや電車を使った異世界へ行く方法の実践ビデオ(電車版は、このビデオだけが電車に取り残されていたという)や、失踪するためのハウツービデオが展示される。
とある監視カメラは一方通行の道を向かう姿をとらえるが帰ってくるところは映らず。また家族で公園を散歩中、撮影をしていた母親だけ突然見知らぬ部屋に落ちるビデオ(公園の地下にそんな部屋がある訳ない)。
願望があるにしろないにしろ、異世界はすぐそばにある。
そして、何かに出会うことを呼びかける展示も現れる。出会ったにも関わらず現世に留まることを選びまた連れてってくれと何かに世にかける手紙。それは一体何なのか、それに遭遇していく選択をしてしまった人だけが真に行方不明となるのか。
そして真偽不明 「記憶」の行方不明では身元不明の人物が語られる。これこそ行方不明の末路、向こう側の人にとっては我々がいるこの世界こそが彼岸なのだろうか。
展覧会なのであらゆる物品やビデオが展示されているが、それがインスタレーションのよう。とある廃墟を訪れたときに一瞬だけ見知らぬ世界が映るビデオが展示される。そのすぐそばには巨大な土山だったり、トイレにはビニールプールが置かれていたりと入っただけで異常が伝わる部屋もあるが、やはり空間全体での異様な雰囲気が独特な空間芸術を作り上げている。
最後まで展示を見て終わり、と思ったら最後の展示スペースが壁が二重構造になっていて。壁と壁の間にテディベアが挟まれている。気づかず通り過ぎてしまうかもしれないが異常はすぐそばに。
そして、別の壁と壁の間にはQRコードが。一体何かと読み取った。来場アンケートだった。
1階と地下で別れていてどっちから見ても大丈夫だが、様々な行方不明を紹介した後にその正体が異世界だと考察する構成が物語を感じ、演劇は空間芸術だと思っているので、じゃあこれもある意味演劇だなと思った。
この展覧会にはオープニングとプロローグがあり、オープニングは作家・梨が様々な人の行方不明譚を聞いて回るドキュメンタリー映像。
そして、有料配信された映像「正体不明」。
映画監督の近藤亮太(『ミッシング・チャイルド・ビデオテープ』)が監督している。
オープニングとエンディングを映像作品として発表するのは大森がディレクター務めた『祓除』(テレ東開局60周年記念イベントとして上演)でも同様の構成をとっており、本編だけでは完結せずこの映像を見ることで完成する。
まぁ、有料イベントでそれはどうなんだよと思うし、こういう手法は嫌いなのだが、面白いしYoutubeでの無料公開なので許してしまう。
今回は、映像も有料なのだが展覧会という手法上展示だけできちんと完結しているのであくまで特典映像といった感じ。
内容は、これまでのドキュメンタリー方式とは違って展覧会で再会した男性二人の話。行くところしか映ってない監視カメラをはじめとして幾つかの展示と絡めた真実が明かされる。消えたはずの男と、その男と喋っている自分。そして行方不明はすぐそばに寄ってきている。
展示を物語に再構成するアイデアは面白く、フェイクドキュメンタリーの展覧会でフィクションを幕引き役に持ってくことで大きな物語として完結させる目論見はわかるが、正直この映像は成功していない。行方不明展にあった正体不明の不気味がこのショートフィルムによって凡庸なホラーに変化してしまっている。この展示に明確なオチなんかいらないのに。
なので、本来はエピローグとしてこの映像は位置付けられているはずなのだが、そういう意味で私はあくまで特典映像だと思っている。
展覧会だけで完璧に完結している。
ホラーを展示で行うというのはお化け屋敷のようになりがちだが、それを真綿を占めるような不気味さで作り上げた、最高の空間芸術。