即席麺企画『メシア』 の感想
脚本・演出/山口夏寧(会場:明治大学猿楽町第2校舎1階アートスタジオ)
猟奇殺人で死刑の男。彼の支持者と批判者はドキュメンタリー監督に呼ばれる。男を取材している内に見えた男の正体とは。
過激な内容で血糊も使うので苦手な人は気をつけてください。Rー15指定、という注意書きに興味惹かれて見に行った。
確かに、後半の男に監禁されている空間の血生臭さは良い。不快な音が響きカニバリズムが充満する。パンフレットで『ムカデ人間』のような作品を作りたいと書いてあるのもわかる。いつ殺されるのかの恐怖も、ボソボソとした語り口もあって冷徹に描かれる。
が、これは後半で作品の大部分を占めるわけではない。全体的には、男が悪人ばかりターゲットにしていたこともあり悪人であれば殺していいのかという議論が中心。尚且つ男の苦しい生活がたっぷり描かれていて青臭い。どちらかと言うと犯罪ドラマでホラー要素も弱い。正直仰々しい宣伝ほどではない。
演技も、大きな声でハキハキと喋る典型的小劇場演技だがこういうのはテンポが命。でもドラマに重厚さを出すためか抑えたテンポでやる。すると、とってもクドくなる。
即席麺企画は今回見るの2度目だが、今回は主宰ではなくスタッフが手がけた作品。前回もそうだったが基礎がしっかりしており作品としてちゃんと見れる。しっかりしているけど、お行儀がいい演劇から飛び出ていない。
演劇、特にホラーなんだから行儀悪くていいのに。『ムカデ人間』なんて行儀悪さのお手本じゃん。
と、あまり印象が良くないがとびっきりのシーンがある。
男に監禁されついに殺される、という時に監禁場所である廃工場の外からカップルの声が聞こえるのだ。暗い絶望の闇の向こうから声。
舞台裏から、微かに聞こえるこの声は一縷の希望である。この時、本当に遠くから聞こえる会話。たわいの無い、まさか凄惨な事件が廃墟で起きているとは思っていない声。
決してこの声が怖いわけでは無いが平和な声と目の前の惨劇がより立体的に浮かび上がってくる。
その空間で声を聞くという体験において、この瞬間は中々痺れた。
役者としては犯人の母親の壊れた佇まい、ドキュメンタリー監督の眼差しが印象に残った。