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やみ・あがりシアター『あなたがわたしにくれるもの(がたり)』 の感想

作・演出/笠浦静花(会場:王子小劇場)

目覚めた男は財産も記憶もなく、トイレットペーパーしかない。男は天国から追い出された天使や美食を探すバズ・ライトイヤーと出会う。一方、漫画に隠された指示に従う女は喧嘩別れした革命家コンビや眠れる姫など奇妙な人々と出会う。

俳優とスタッフのamazonほしいものリストを上演数日前に公開。観客はプレゼント機能を使って差し入れ。この差し入れは劇中必ず登場しなければいけなくて、これにより物語の展開が変わる実験作の発表会。なお、上記のあらすじは初日の時点で主役演じる佐藤昼寝(昼寝企画/ex.中野坂上デーモンズ)への差し入れがトイレットペーパー1個しかないからだそう。

企画上、練習期間はほぼなくて日によって変化する即興性が強い作品。要は長いエチュード。実力者たちのお遊びを見る公演。
が、そこは実力派の笠浦静花。伏線回収等の物語の骨格をきちんと作り上げ、そこに愉快なアイデアを多数投入しエンターテイメントの強度を持たせている。演劇としての面白さはある程度のラインを超えていて、ほぼエチュードでここまで持って来れるのはすごいと思う。

話は、姫だと思ったのが蝉で1週間で死ぬ彼のために恋人を探そうとする。しかし、金のない彼らは窃盗をしたのでアマゾンへ逃げるとはちゃめちゃな展開へ。
ジャングルでは野生のハンガーがあって、それが客席にもあるよと観客全員で大捜索。
最後、手を拭かないといけなくなり、男の唯一の財産であるトイレットペーパーがついに開封される。財産は無くなっても、男には仲間という宝が手に入ったと。そして蝉はみんなに看取られて亡くなる。

俳優陣は手練れが集まっているのでワチャワチャしながらキメるところは決める。
安東信介(日本のラジオ)、ラジオの出演作から闇のイメージだったが差し入れが調理グッズばかりで、料理好きなんですねとほっこり。
最後は、役者が貰った差し入れを読み上げるがたくさん貰った女優陣に対して昼寝さんがトイレットペーパーとだけ読み上げて終わって大爆笑。いや笑っちゃいけないのか。

この公演、2日目は革命家コンビの片割れを演じる小林桃香が欠席。ということは彼女のキャラだけでなく彼女のアイテムも使えない。どっしりと構える気の強い彼女はこの演劇では相方との友情エピソードを担当。これが無いとはどうするか気になったので小林桃香欠席回を見る。これは変化を見る企画なのでリピーター無料なのだ。

話の大筋は変わらないが、人間関係が変わる。端栞里は完全に別人。革命家ではなくファンシー王国の(自称)姫という設定に。彼女は王国民を増やすために旅に出るのだが、これで作品が更に深みを増す。登場人物たちは彼女の王国の国民に無理矢理されるのだがそれが絆として作品をまとめるのだ。

新しく加わったのはそれだけでない。初演ではあまり意味のなかった天国を追放された天使という要素が大きく書き込まれる。
開封済みのトイレットペーパー(初演で開けたからね)を天女の羽衣のように纏ったら戻れないか思案したり、天国に許しを乞いたり。
 これによってラストが大変身、みんなに看取られて蝉が死ぬというラストを初演通りに行うが、なんと天使が天国への帰還が許されるという見たことないシーンが追加。トイレットペーパーを纏うと今度は空を飛べた。天使が戻ってみるとそこには亡くなった蝉が。

新たな伏線回収して後味が180度変化。
昼寝さん、差し入れが増えていて良かったねの思い。
トイレットペーパーの使い方が変わり別の伏線回収で、見事。でも私は初演でやった、終盤になってみんなのために初めて開封する方が謎の感動があって好き。
安東さん演じ方がギャグみを増してキャラクターの魅力が更に増す。
小劇場のお楽しみ会、脱力しながら見れるが2度観ても面白い。
お楽しみ会の顔をしながら、そこには確実に笠浦静花の演出技術が存在しており自分はこの縛りでここまでの面白さ出せるのかと、ふと思い。

笠浦さんは以前サマースクールで上演した『こうきょうがく』も、一般の中高生と共にわずか3日で作ったにも関わらず素晴らしい青春演劇だった。

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