演劇ショーケース『劇的な葬儀』の感想
会場:おんがくのじかん(3/23~26)
今最もヤバイショーケースを作る演劇プロデューサー平井寛人(尾鳥ひあり)によるシリーズ劇的の第二弾。
三鷹のライブバーおんがくにじかんを舞台に今回も彼が招集した6劇団に加え日替わりでOPを務めるミュージシャン達(ババカヲルコ、三浦コースケ、Okubo Mitsuki、金子駿平)の10組によるショーケース。
当日限定で無料生配信も行われた。
最終日に見に行ったので感想を書く。
(オープニングアクト)金子駿平
シンガーソングライター。しっとりした曲を、ほんのりハスキーが乗った歌声で歌う。そこに、演劇イベントだからこその照明演出でより印象深く。
昼と夜で曲目を変えたのだがどれも良い曲ばかりでジーンと響く。サビの声の張り上げで、彼独特な泣きそうな声が響いてより曲の深みが増す。特に、劇的な葬儀というイベントだから死にまつわる歌として歌われた「たけちゃんのうた」が個人的ベスト。亡き人への思いを表現力豊かな歌詞にのせて歌われる。
コップクラフト
『場の精霊からの手紙』
演出:湯川拓哉、脚本:山本悠、歌詞制作:緒方壮哉
コップクラフトに届いた場の精霊を名乗る存在からの手紙。彼は時間を大切にしてほしいと訴えていて。
多摩美で活動していた湯川、山本が上演のための団体として立ち上げた。
無邪気な場の精霊を中心に、ドキュメンタリータッチで描く不思議な話。精霊を演じる金子満咲が大谷育江系統の声で元気よく演じるので脳内ではチョッパーみたいな元気な男の子のイメージ。でもキャラ演劇になりそうな時に湯川による手紙が届いた当時の再現が挟み込まれる。湯川が感情を排した演演技をするので、熱さと冷たさが奇妙なコントラスト。道徳的なメッセージを伝えるも悲しみと怖さが漂い、ラストに「あ」たったの一言で作る奇妙な余韻。あれって憑依されったって事?
さかさまのあさ
『あのね、あの刻、あの夜の音。』
作・演出:宮田みや
気づいたら謎の場所にいた女。そこで愛という偽名を名乗る女と出会い、ここは使われなくなった言葉たちによる死語の世界と教わる。自己紹介する愛に対して、女は自分が誰だか分からないと言い始め。
ファンタジックな童話的世界を得意とする劇団。
死語の世界という設定の面白さ、オーソドックスでファンシーな演劇で今回の中では最も万人に好まれる。なのだが、後半になって徐々に物語が加速し始め、後半の盛り上がりは今回の参加劇団ではトップの勢いだった。正直この劇団が絶叫芝居をするとは思わなくてびっくりした。話の展開自体は物珍しいわけじゃないが、会場の構造を有効活用し的確に演出を決めてくる。終盤の横から光に照らされる愛の神秘的な恐ろしさ。この劇団は優しいだけじゃない、残酷さも兼ね備えているのである。ただ、ラストに死語という設定が生かされなかったのは不満。愛の本当の名前が明らかにされないから消化不良だった。そこが上手く仕上げていたら大傑作になっていたので惜しいなぁと。
令和座
『ゲルニカの聖水』
作・演出浅間伸一郎
履歴書を持ってバーの面接にやって来た女。しかしそこは怪しげなオーナーと異常な状況が存在する店だった。
何だコレ!面白い!
前回も出演していた劇団は、前回と同じ怪しげなバーの物語。前回ほどでなくてもセリフ少なく、空気で作品が進行する。ただノワールだった前回に対して、今回はどんどん不可解な展開になっていき異常な世界に巻き込まれる女性の不条理譚。出演者3人の内、守谷直子がハキハキした演劇らしい演技をする。が、おらんだ&いらいざがタダモノではない存在感でまさに異世界の住人と迷い込んだ主人公のよう。男女の愛憎を描いているのにどうなるのか何処に行きつくのか想像がつかず、自分は何に巻き込まれているのかと主人公と観客の思いが一つになる。ラストの絵画のようなビジュアル。奇妙と神々しさが混じる不可思議。
ザジ・ズー
『結ぼれ』
作・演出:アガリクスティ・パイソン(今井桃子、柿原寛子、木村友哉、除永行、西崎達磨)
アパートの内見に来た女。そこは事故物件という噂があり、問題のある住人たちが住む騒音だらけの物件だった。
物語はよくある怪談話なのに、どうしてこうなった。
グルーヴ地獄Vとドラムが響き、朗読が絶叫し、ティラノサウルスが暴れる。三日で1kg痩せたというほど体を酷使するカオスの濁流。演出の数々は正直何の意味もない、でもそれがどうした。爆発寸前にまで膨れ上がったエネルギーがパンパンに詰まっている。俳優というよりもパフォーマーが集まり演劇をしているといった感じ。ザジ・ズーは今回が2回目だが、前回は正統派のアングラ演劇だった。それがここまでカオスになるのかと驚いたが、作演に特徴があった。作演出のアガリクスティ・パイソンとは共同ペンネームであり、メンバー全員で制作する。つまり全員が作演が出来るので一人の好みが強く出る場合もあれば全員のやりたいことを合わせる時もあるという。そして今回は、全員の希望を合体させた作品だそう。でも、怪談話として上手くまとまっているんだよなぁ。何をどう作ったらこうなるのか。10年後全員情熱大陸とかに出てそう。
紙魚
『うにうまい』
演出:濱吉清太朗、作:山本真生(キルハトッテ)
寿司屋に来たカップル。ウニを頼むもそこは海に潜り自分で取らないといけない店だった。元水泳選手だった彼女に彼氏は追いつけず。
今若手演出家の中では特に注目されている濱吉率いる紙魚。
キルハトッテのマジックリアリズム的な物語をどのように描くか、というところで割と真っ当な演出をする。が、小技を一つ一つ効かせてくる。おんがくのじかんの構造(舞台奥にあるトイレ・縦長の空間)を使って、寿司屋から突然海に入る展開や、縦と横の動きで視覚的にドラマを作る等一つ一つは小さくてもこれが的確に効いてくる。不条理の要因である寿司屋の店主がト書きもセリフとして言うのだが、これがより物語の外部にいる神のような存在を高めている。ト書きを言葉として認識する存在がカップルに奇妙体験を与えている。この作品の不条理性を演出によりさらに高めている。ただ、奇妙なだけでなく山本の特徴である人の悲しみが見えてくる展開。コンプレックス、劣等感をしっかり描きその果てに彼氏が独自の進化を遂げる。そしてウニを使った愛の告白はラストは奇妙でユーモラスで美しい。
四日目四回目
『あいう』
構成・演出:旦妃奈乃
出会った男女はアヒルたちを使って素敵な生活を送る。彼らは劇的な生活を送ろうとするがそれに怒りを持つ存在がいて。
劇的というタイトルに喧嘩を売る作品。抽象的な展開の向こうにいるのは、安易に劇的な展開を求める庶民にたいしてそういうのは大谷翔平に任せようよと叫び続ける女。新聞の向こうも画面の向こうも劇的なものばかり、それに憧れてしまう所はあるけれどでもそうじゃなくて平凡でもいいじゃないかと。ゆったりアイスクリームでも食べよう。なんてまとめてしまうことはできるけど、ここには鬼気迫るものがある。ある意味ではメタ演劇であり、良くない方向へ行こうとする作品と作者(神)との戦いのようでもあるし、劇的なものばかりで目がくらんでいる世間を引き留めようとするメッセージにも見える。
四日目四回目は以前観たときの印象から勢い・熱量・団体芸という印象だったが本当は勢い・熱量・抽象か。そしてその抽象からは社会性が見える。そういえば東京学生演劇祭で上演した『うにこん』も抽象の果てに戦争が見えてくる作りだった。まだ底が見えない。
このイベント全体だと、前回と比べて純然たるコメディ団体がいない。優等生的なさかさまのあさが安全地帯なのか尚思いきやさかさまも大暴れする。真面目な劇団が存在しないディープなイベントとなった。これぞまさに演劇の深淵。
今ここまで刺激的なショーケースを体験できる機会はそうはあるまい。かつてのオルギア視聴覚室を彷彿とさせる。オルギアは現在の演劇業界を作った重要イベントだが、劇的もそうなりそうな予感がする。そういえば、この劇的にはオルギア軍団の一つである宇宙論☆講座の五十部さんが参加している。というのは中々縁を感じるものである。
カオスのバトンは脈々と繋がり今は三鷹のバーにあるのだ。