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東京学生演劇祭vol.6の感想
東京学生演劇祭を観ました。2020年の今回は配信という形での開催。いつもは3劇団で1公演ですが、今回は1劇団につき1500円のチケットを買わなければいけません。ただし、劇団によっては1ステージ目2ステージ目2つの動画を見れたり、CMが観れたりでとてもお得でした。
各劇団の感想を書きます。観た順番で書きます。
① てぃっしゅ(桜美林大学)
『ロココ』
[脚本・演出] テヅカアヤノ(てぃっしゅ) [出演] 大村琴音(てぃっしゅ) 古川路(てぃっしゅ) 樋口舞 島田理央 [照明]佐藤茜 [音響]おにぎり海人(かまどキッチン) [舞台監督]伊藤里奈 [演出助手]澁谷千春(てぃっしゅ)/大野創(アーバン野蛮人・浮遊のカンキ 船) [制作]佐藤栞
友達の誕生日パーティーの準備をする女性たち。祝われる本人は家族について問題を抱えていて・・・。
まず見てびっくりするのが舞台からはみ出ている。本来は客席になっているスペースで演劇をやっている。あとは4劇団で唯一、撮影しているカメラを小道具として扱っている。なので、無観客じゃなかったらどう言う演出でこれをやっていたのか気になる。あと、開演前の前説があるのもいい。飲み物の御用意をと書くところも洒落ている。パーティーに参加している気分を味合わせるためだろうか。
基本的に準備と本人2つの話が同時進行しているのだが、準備のパートの最中に祝われる本人は舞台を右から左へ走り続ける。誕生日会へ向かう姿か、焦燥感を表現しているのか。この演出が上手くいっているかどうか正直微妙だけどもこういう無駄に運動量の多い演出大好き。
舞台がパーティー会場へと段々飾り付けられたり、俳優が友達と母親を2役演じてスムーズに場面が変わったり、風船の破裂だったり、観客を飽きさせない演出の手数が多い。パーティー会場の飾りつけが2・3多かったら舞台の変貌がもっと大きくなったので更に楽しかったのかなと。
パーティーの楽しさと本人の複雑さ、そのアンバランス感覚が上手く描かれていて役者陣も皆好演。40分の間に手数の多い演出で見どころたっぷり。満足する一作。
2 演劇ユニットWillow's(明治大学)
『私はどこから来たのか 私は何者か 私はどこへ行くのか』
題材 / W.シェイクスピア「ジュリアス・シーザー」二幕一場より 構成・翻訳 / 木川流(Willow’s) 【出演】 高橋拓己(Willow’s) 木川流(Willow’s) [舞台監督]野口瑛里華 [演出助手]太田佳佑 / 豊田あずみ [照明]谷本文夏 [音響]野口瑛里華 [制作]仲村美祐 [広報]菅原渉隆
シェイクスピアの『ジュリアス・シーザー』の練習をする演出家と俳優。劇の時代背景を伝えるため現代史に例えて解説をする。
最初から最後まで稽古風景を見せて終わる。演劇というより公開稽古である。1ステ目と3ステ目で台詞が違い、即興も混ざっているだろう。だけどもそれを40分観れてしまうのは技術力だろう。単独ならともかくコンテストという場において普通の演劇をやるのではないという意気込みは立派で、私はこういう場違いな感じを愛しているので素敵だと思う。
ただの稽古の風景ではあるがその裏側から現代史が透けて見えるという構成は、若干『東京ノート』の親戚みたいな雰囲気があって脈々と繋がる現代口語演劇の歴史の子孫という感じもする。解説が非常に分かりやすく、レクチャーパフォーマンスとしても楽しめる。
ただ、透けて見えるだけで終わる。『ジュリアス・シーザー』と現代史は繋がるねぇ、それで?という感じ。もしここから妄想でも何でもよいので得体のしれない何かが浮かび上がってきて『ジュリアス』が更に深くなればこの作品も面白くなったんじゃないかなぁと思う。
難しいことに挑戦して堂々と敗れた、誇るべき作品だと思う。
3 複合創作ユニットwakka(早稲田大学)
『kamuy wakka|日輪』
[脚本・演出]齊藤航希(複合創作ユニットwakka) [役者] 阿部えれに(オトズレ) 宇都出一真(怪獣同盟) 齊藤航希(複合創作ユニットwakka) 中嶋真守(街の星座) 山口もね(街の星座) [舞台監督]田村将 [演出助手]カナオカ 高月大和(明橋文学) 長谷川浩輝(快晴プロジェクト) 山口もね(街の星座) [照明]小嵐健翔 [音響]幸村希美(劇団くるめるシアター) [制作]中城家 [宣伝美術]律 [企画制作]複合創作ユニットwakka
とある集落で一人の男が言う、ここは滅びると。だが誰もその話を聞かない。
滅びゆく人々を描く作品で今回の参加作品の中で一番ヘビーな作品。だが、作品は低体温で無機質な演出。俳優陣は出ハケはしないで舞台に立ちっぱなし。非常にミニマルな印象を受ける。それによって冷ややかな死の香りが漂ってくる。
ただ、あまりにもそれを大事にしすぎたかテンポが鈍重に感じる。これは難しい所で、早くすればいいという話ではない。この無機質を生かしたままのスピード感、BPMを1か2つくらい上げると丁度良いのではと思うがこれを芝居でやるのが難しい。こういう無機質な演出は憧れるが使いこなすのが難しい。
物語はアイヌと開拓者を描いている。セリフ自体はアイヌ語が使われたりしているが視覚的には徹底的に記号性が排除されている。これによって、人間関係の摩擦を描いた現代劇としても成立しているが、この手法が正しいかどうかは人によると。個人的には何かアイヌを象徴するワンポイントがあったほうがいいのではとも思ったがコレは好みである。生真面目に作られた作品。
4 ごじゃりまる(ベンチャー劇団)
『こうふく♡みたらしだんご』
[脚本・演出]曽我まりこ [役者] 稲石果音、君島嘉華、曽我まりこ、矢吹彩香 [舞台監督]田邊拓 [舞台美術]正岡裕二 [音響]三谷翔太、石川絢也 [照明]村上奈々子、有我朋子、屋代美紅 [衣装]加賀谷佳南、蓮見菜々子 [制作]新井慧、西尾和生、福田彩也香 [宣伝美術]三浦杏樹、松崎友利、村上今日子 [団体LINEスタンプデザイン]水野晴日 [演出助手]弓山花衣
テレビアニメのヒロインは、みたらしだんごを使って悩める女性たちを助ける。今回はとあるメディア会社で働く女性を助けようとするが・・・。
順番的に最期に見たので、今回唯一の小劇場的なコメディにほっと一息ついた。ナンセンスでパワフルな展開が続き、役者陣の暑苦しい演技も見れて楽しめた。非常にテンポ感が良くて娯楽としての演劇としての水準をきちんと超えている。
ただ、面白コメディをやるというのではなく魔法少女・返信ヒロイン物や現代社会へのアンチテーゼをするんだという意気込みを感じる。終盤の転調、ラストの無常さは良くない後味を残して成功している。
ただ、架空のテレビアニメ、みたらしだんごが武器というナンセンス設定なのに予想の範囲内で完結してしまっている。どうせならもう隕石が落ちるくらい突拍子のない結果にしちゃうか、もっと最悪のウシジマくん位生々しい結果にするか突き抜ける物が欲しかった。そうすることであのラストも更に苦くなったのかなぁと思う。コメディの体力がしっかりある作品。
という4作品。昨年のはりねずみのパジャマ・快晴プロジェクトのような圧倒的なクオリティや踊れないのに、のようなインパクトのある団体は無かったが水準は去年より高く外れと思う作品は一つもなかった。平均点がそれなりである。ショーケースとしてはバラエティ豊かで満足する内容。
ここから1番を選ぶとするならばてぃっしゅが頭一つ抜き出ている。特別賞的な何かがあるとするならば意気込みを買って演劇ユニットWillow's。今年も楽しい祭りだった。
(9月22日追記)
結果が発表されてごじゃりまるが大賞と観客賞2冠をとる完全優勝を遂げた。観客賞は行けるかもとは思っていたが、大賞までとは。圧勝するほど差が開いていたとは思えないので接戦だとは思うが意外。まぁでもこういった小劇場的コメディが評価されたのは嬉しい。
Willow'sが観客賞2位は意外。私は好きだけど観客には受け入れられないタイプだと思ったから。コメディのごじゃりまると、インプロ的アプローチのシェイクスピアという異なるタイプの2作が観客に評価されるのは健全な証拠。幅の広さこそ演劇だ。
問題はてぃっしゅだ。いつものだよ。前回の若手演出家コンクール(すこやかクラブ『ささやきの海』)、前回の学生演劇祭(快晴プロジェクト『ビューティフル』)、かながわ短編戯曲賞(天ぷら銀河の伊東翼『バナナの皮悲劇』)、そして今回。
私のイチオシが全くと言っていいほど賞に引っかからないのでもう俺に好かれると賞をとれない呪いとかあるんじゃないかと。
私の思う良い演劇と世間の良い演劇に大きい乖離があるんだなぁ。