若手演出家コンクール2022感想
若手演劇人三冠のトップバッター。四人の演出家が短篇を上演して競う。
全部見たので感想を書きます。
春陽漁介(劇団5454)『宿りして』@東京
突然パニック状態になった女性教師。同僚が様子を見にいくと彼女は、自分を見ている存在に気づいたという。彼女が語るその存在は・・・
メッタメタのバカ演劇。こういうアイデアは山のように見てきて先行作の流れから外れないけどお約束を上手く調理して爆笑を生み出す。後半の狂気に囚われていく女性教師からの流れもよくある展開だけど、真っ当な面白さに昇華していく。前半なんかはオルギア視聴覚室にいても違和感ないなと思う。純粋に面白い脚本なので、演出ということではオーソドックス。でも、物語自体が・・・なので、それを調理すれば自動的に面白い演出になる。女性教師が闇に浮かび上がるような終盤は良い画。面白い部分がネタバレなので書けん。
ニノキノコスター(オレンヂスタ)『「サトくん」のこと。』@愛知
死んでしまったサトくんについて語る三人。同級生、元カノ、後輩。サトくんはどこにでもいるような明るい少年だった。でも、就職を機に彼は闇に囚われる。
青春劇がどんどん物騒になっていき、辿り着く果てがあの大事件。凶悪犯を生み出してしまった環境を外部から描く。とはいえ、決して悲しい過去にはならない、普通の人の中から凶悪犯は生まれる。ステージの上のテーブルをメインステージとして扱う。殺戮シーンでの演出は、流石のアイデアだけど序盤の人形劇は何とかテーブルを生かそうとしてやった感に見えてしまう。いや意図はわかるけども、それ以上の効果を上げていたとは思えん。それに殺戮シーンも死を視覚的に表現するため切断したのだろうがそこは刺すべきだったと思う。死の静寂さのためにあえてゆっくり切っているnだろうけども。
村田青葉(演劇ユニットせのび)『アーバン』@岩手
電車の中で乗客は思い出す。女以前勤めていたバイト先のこと、定期的に変わる店長との話。男は駅伝にハマっている自分のことを思い出す。記憶を乗せて電車は走る。
ドラマにならないような記憶の積み重なりが街を彩っていくような作品。大きな出来事が起きないにもかかわらず、決してダレることなく心地よいテンポで描かれる。椅子の移動など動を意識した演出もある。でも、紐で境界線を作るのは効果的だったか疑問。脚本が良いので、真っ当なドラマ演出で成立するんじゃない?と思う。
西田悠哉(不労社)『生電波』 @京都
隣の人は何をやっている人なのか、兄弟で住む男の不安は嵐の夜に高まり。兄弟の家に人々が集まる。彼らは、現在の世界に疑問を持っていて。
陰謀論者、電波さんたちの生活を露悪的になることなくあくまでライフドラマとして描く。上記の「サトくん」では心の闇として描いていた陰謀論がここでは、閉じられたコミュニティでの一般常識として成立している。しかし電波は留まることなく爆発してしまう。題材や脚本の面白さに比重が置かれている気がして、演出自体はオーソドックスかなぁ。
今年は、どれも粒揃いで面白い。
私の予想は
春陽漁介(劇団5454)
実は演出の個性という意味ではニノキノコスター何だけど、序盤が評価できなかった。春陽は、バカみたいな展開から真っ当なドラマに着地する構造で、失速することなく成立させる演出力は技術力を評価するコンテストではいいんじゃないかな。
観客賞はニノキノコスターかな?演劇ファンって社会は好きでしょ。
まぁ、結果が逆になるかもだけど。
3/5 追記
結果が発表されました。
ニノキノコスター(オレンヂスタ) 優勝
春陽さんは二位。予想通りの二人がワンツーフィニッシュ、納得。
公社の若手演出家コンクール予想の勝敗としてはこれで1勝3敗。でも今回はほぼ勝利みたいな物だから引き分けで良くない?
村田さんが最下位なのは演出よりも戯曲の比重が大きかったからだろうか。良い戯曲だった。
オレンヂスタも14年目なので中堅と呼べるのだが、大きい受賞は初
(P新人賞は面白い賞だとは思うけど何しろ知名度が)。候補止まりのイメージだったのでついにようやくおめでとう。
あと観客賞って消えたんすんね。
村田さんは三冠制覇は駄目だけどあと二冠あるし、全部落ちても島田雅彦みたいに三冠落選全集できるので頑張ってほしい。