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コンプソンズ『岸辺のベストアルバム!』 の感想

作・演出/金子鈴幸(会場:下北沢 B1)
これから上演される演劇は私が作った演劇。
見知らぬ少女と出会う少年、偶然出会ったママ友、歌舞伎町に秘められた秘密。暗躍する存在の目的は一体。

傑作。
いくつもの物語が同時進行し、やがてひと繋がりになるという構造はすでにやり尽くされているが、フィクションの世界で自由奔放に暴れ散らかして見たことない破壊力。
幸せそうに見えたママ友たちは、疎遠なり問題を抱える。歌舞伎町には人ならざる存在が支配するファンタジー展開。しかもそれってだれかの脳内世界かもしれない。複雑に入り乱れるメタ構造、盛り込みすぎて要素過多。これらが一つの願いのもと奇跡的なバランスで成立する
 その願いとは、フィクション・サブカルの力で人を助けるという願い。

サブカルで人は救えない。創作者が無力感を感じることは多々ある.
それを、それでもサブカルチャーが誰かを救えると信じて、金子鈴幸の切なる願いが具現化したのがこの物語。
劇中劇と思われた世界の真実が明らかになるにつれ、絶望が徐々に姿を現していく中で、絶望を止めようと暗躍する少女が主婦たちに言う。
「僕と契約して魔法少女になってよ」
そっちの方向にいっちゃうの!
物語は男の救済へ傾いていくが、それをするのが男と関係ないしそもそも劇の登場人物でも男の脳内世界の住人でもない、赤の他人の主婦。彼女たちは息子を失った悲しみを持ち続けていて、男を救おうとする少女の力で脳内世界に呼ばれたに過ぎない。
助ける義理もない。しかし、それでも・・・。

そんな展開でもサブカルで笑いに取りに行く、コンプソンズはエンタメの魂忘れないこれこそ真摯な態度だと信じて。

さて、何故魔法少女か。セリフはまどマギっぽいがモチーフになるのは『美少女戦士セーラームーン』。
 幼いころ夢中で観ていたが、最終回のあまりにも残酷な展開にショックを受けた。そんな過去を持つ中年女性たちが自らが救済の力で誰かを助ける。
 私は、セーラームーンはあまり詳しくないが子供時代に早朝再放送していてテレビつけたら偶然最終回が放送していた。ぼんやり見ていたらショッキングな内容でこういう最終回なんだ、とビックリしていまだに覚えている。
アフタートークでどうやら金子さんも同じ再放送を見ていたらしく、その時に我々が感じた思いがここにあった。

俳優陣みな好演。
歌舞伎町パートでトンチキなホストと太客を演じるコンプソンズ劇団員が相変わらずの強さ。ここ単独でもコントとして成立していて勢ぞろい出てきた時の待ってました感。
ただ、私は笹野鈴々音様が見れた感動が大きい。
個性派の舞台女優として長いキャリを持つベテランだが、ホラー好きの公社にとっては『トリハダ』の笹野さんが見れた感動が大きい。
ホラードラマの最高峰『トリハダ』 。中学時代に見て以来ホラー好きの公社が魅了されている。その象徴とも言えるのが笹野鈴々音様。ノベライズの表紙を飾るほどのインパクトで、作品の象徴ともいえる。そんな人がコンプソンズに出るなんて、絶対見なきゃ。
演じたのはママ友の中で仕切り役、やがて混沌する世界でもどこかあっけらかんとした魅力を持つのだが、おかしみと悲しみ。感情を体に宿らせる、素晴らしい演技。

ラストも、しめやかではなく元気に終わらせる祝祭感。

コンプソンズは前作、前々作もフィクションの力が強い展開で人を救おうとしていたが 今回はフィクションそのもので人を救おうとしている
この酷い世界で演劇人ができることはただ一つ 演劇で誰かを救って見せろ。

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