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東京にこにこちゃん『ラストダンスが悲しいのはイヤッッ』についての感想。

東京にこにこちゃん『ラストダンスが悲しいのはイヤッッ』

2020年 1月16~19日

●作・演出 : 萩田頌豊与

●出演
しじみ(トリコロールケーキ)、 石井エリカ、 栗田ばね(ピーチ)、 直木ひでくに(ピーチ)、 hocoten(劇団『地蔵中毒』/オルギア視聴覚室)、 青柳美希、 矢野杏子、 成瀬大樹、 タカギ道産馬(劇団ジェット花子)、 てっぺい右利き、 ぐんぴぃ(春とヒコーキ)、 尾形悟(演劇ユニットマグネットホテル/東京にこにこちゃん)

●会場
荻窪小劇場

● 余命いくばくもない少女の美笑は両親と共に葬儀場へやって来た。自分の葬式プランを自分で相談するためだ。だが、両親は美笑に内緒で自分たちの理想の葬式をやろうとするが父と母で意見が対立する。一方、美笑本人は叔父の葬式にまつわる出来事かある強いこだわりを持っていた。
 それと同時進行で、美笑の両親に翻弄されるエンディングプランナー、馬鹿な息子にうんざりして生きたまま火葬して殺そうとたくらむ母親、美笑に対して強い思いを持つ友人、妻の遺体に対する扱いに不満を募らせる夫、情緒不安定な火葬場職員、僧侶の代理で来たバンドマンが描かれ、やがて一つの展開へ収束する。

という感じの終活コメディである。死がテーマであるのでブラックコメディ色があり、登場人物は皆ぶっ飛んでいる。それを演劇界のクセモノ達がパワフルに演じる。よくぞここまで集めたなぁと言わんばかりのキャスト陣。登場人物でまともと言えるのは誰だ。
 しじみ演じる美笑かなと思うが、終盤に大爆発する。
 栗田演じる美笑の父は、娘思いだが土葬にこだわりムキになるあまり異常な手段に出る。
 青柳演じるエンディングプランナーの久保は出世欲が強い。 
直木演じるエンディングプランナーの恩田か。基本的には優しい性格だが、急に闇を見せる。
 では成瀬演じる叔父さんか。でもこの叔父さんは劇中では優しいが、描かれない部分では駄目人間であることが語られている。
結果的にやっぱりまともな人間が誰もいない。じゃあ逆に、一番まともじゃないのは誰。
 石井が演じる水葬にこだわる美笑の母か、矢野演じる息子を殺そうとする典子か、タカギ演じる典子のバカ丸出しの息子の真か。いや違うぞと、圧倒的にこの作品で最もやばいのは、ぐんぴぃ演じる篠崎だ。
 篠崎は火葬を担当する職員ではあるが、重大な秘密を抱えている。
 さぁここからネタバレだ。

 この篠崎はしょっちゅう恋人が変わるのだが、実は火葬するはずの死体をちょろまかし恋人にする死体愛好家だったのだ。尾形演じる月井の妻を盗み新しい恋人にしていた。そして偶然それを知った真とhocoten演じる美笑の親友、楓を殺そうとする。
 でも、ここだけなら単なる猟奇的な犯罪者だ。最大の肝は演じているのがぐんぴぃだという事だ。全ての笑顔が胡散臭い。あの巨体から醸し出される危険なオーラは文章では描き切れない。突然情緒不安定になるシーンは恐怖になってもおかしくないのに生まれるのは大爆笑。そしてこの篠崎の使い方が最高なのだ。

 物語は美笑の両親が水葬か土葬かで勝手に対立し、てっぺい演じる僧侶の代理で来たバンドマンの藤野の美笑が交流し、真と楓は交流し、典子は息子のことを想い、篠崎の悪事は暴かれ、月井の妻は無事火葬される。終盤、両親の暴走は美笑の知るところとなり大爆発する。感情が破裂する。そこで、美笑は言う、「私の葬式は楽しく」。何故ならかつて優しくしてくれた叔父さんは楽しい葬式にしてくれと言って亡くなったにもかかわらず、家族も友人も誰もいない寂しく悲しい葬式が行われたからだ。怒りを込めて言う、私の葬式では誰も悲しまない葬式にしろと。
 だが父が吠える。娘の葬式で悲しくない訳ないだろ。叔父さんの葬式も悲しくて悲しくて、とても楽しい葬式にできなかったと。
 暴れる美笑。その時、強制的に火葬装置が発動し地下の火葬場に移動してしまう。このままでは燃えてしまう。火を止めるには地下の7つのボタンを押さなければいけない。それには7人が必要だ。と、急に始まる勇壮な音楽と少年漫画感。さっきまで会った感動的な雰囲気はぶっ飛び暑苦しくなる。この寒暖の差は何なんだ。というか、システムに欠陥がありすぎだろ。この無茶苦茶感が楽しい。
 実はこの展開は前作『ラブノイズ・イズ・ノット・デット』と全く同じである。(この時は全員で力を合わせて別々の部屋で同時に喘ぎ声を出さないといけないという更にカオスな物だった)。この展開好きなんですね。
 一人また一人、渾身のカッコいいセリフを言って地下に消えていく。だがラスト一つは火が迫っていて押そうとすると燃えてしまう。残っているのは父と月井。美笑は来ると死んじゃうから来ないでというが父は助けようとする。皆は思うだろう、妻を失い無事火葬も済んだ思い残すことのない月井が身代わりで押すのだろうと。だが、ここで奴の笑い声が響く。
 篠崎登場。美笑に語り掛ける篠崎、誰だか知らない声が聞こえてビックリする美笑。全部バレたのでもう全てがどうでもいい篠崎はすっごい軽いテンションで「燃えまーす」と言い残して地下に消える。しばらく経つと「思ったより熱い!」と篠崎の絶叫断末魔が聞こえる。生きたまま燃えるシーンなんてえげつないのにここを笑い所にする演出とぐんぴぃの演技力。見事な緩急。
 そして、助けられた美笑は全てを叔父が信頼していた父に託す。「ありがとう」の声でASIAN KUNG-FU GENERATION『ラストダンスは悲しみを乗せて』が流れる。軽快なビートに乗せて葬式の準備が描かれる。花を置き、遺影が出現し、壁の黒幕が取り払われ鯨幕が登場。葬式の準備が整い、弔問客として登場人物が揃う。このシーンの悲しさ。実はここではじめて気づく。今まで悲しくなかったと
 難病ものみたいな既に死ぬことが提示されている作品は死という悲しみに向かって行く話である。そうなるとみている側は死なないで欲しい生きてほしい。と思う訳である。だが美笑に対して生きてほしいと思わなかったのだ。それは美笑本人がある意味死に関して前向きだったからである。死は悲しいものだ、でも美笑が思うのは楽しい葬式にしてほしいなのだ。美笑がなぜ死ぬのかは一切語られず、徹底したブラックコメディを合わせることによって死の悲しみを脱臭していたのである。
 だが死んでしまった時間を見せられて一気に死という物が現れる。
 なんだよ、悲しくなるじゃん。全然楽しくないよ。全員が揃い、葬式が始まる。曲がCメロに入るその瞬間奴が現れる。真っ黒こげでボロボロの服を着た篠崎が登場。ギャグマンガみたいな恰好の巨漢の男が出た瞬間涙なんて吹っ飛ぶ。葬式だから大分時間たっているのになんでまだボロボロなんだよというツッコミを思いつつ笑う。
 幽霊となった美笑が現れる、篠崎以外真面目な普通の葬式を一目見ると寂しそうに背を向けて棺桶へ向かう。曲のCメロも終わりに近づき、弔問客が一礼する。ラスサビに入る、瞬間とび上がる。あの瞬間生で見た光景は忘れられない。マジで。
 全員踊りだす、美笑が気付き微笑む。気づくと劇場の2階で叔父さんが楽しそうに踊っている。ああ、叔父さんは自分が出来なかった楽しい葬式を盛り上げるために来たんだねと。もしくは舞台より高い2階だから天国で踊っているのを表しているのかなと思ったり。楽しそうに踊る叔父さん。癖強いキャラが沢山出る中で、出番は決して多くないのに叔父さんが踊る姿にジーンとくる。
 嬉しそう微笑み、棺桶に入り蓋を閉める。曲が終わり、おリンが鳴って劇が終わる。

 ウェルメイドなコメディを作るにあたって無駄なシーンが多い。月井が喋る雰囲気を出すが何も喋らずシーンが変わったり。僧侶の藤野が木魚を叩くと亡くなった祖父が棺桶から登場するシーン。ここも別の人を棺に入れとけばいいのに、演じるてっぺいが叩いた瞬間ダッシュで裏へ行き棺桶に入り祖父の格好をして現れる。
 あと、ぶっとんだキャラばっかりだから要素が大渋滞を起こしている。
 それがいい。そこがいい。
 これくらい滅茶滅茶にしないと演劇をやる意味がない。こんなに滅茶滅茶なのに、でも踊るシーンで泣いてしまうのだ。でも悲しくない。楽しいのだ。楽しくて楽しくて泣いてしまう葬式なのだ。
 とりあえず私が死んだら皆踊って欲しい。90年後くらいに死ぬから。


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