令和座 『SEVEN』 の感想
作・演出/浅間伸一郎
倦怠期のカップル。そこに、女の親戚を名乗る男が現れる。男はとあることを伝えに来たそうだが。
たっぷり間を使う独自の劇団。今年上演した、長編・短編がどちらも傑作だった。2023年最後の作品は、同じあらすじで異なる展開の二つの演劇。
(ASTRAY version)
(BETRAY version)
と名付けられた物語は、それぞれ独立しているが一つのあらすじでも如何様にもジャンルは変えられるという実験。
(ASTRAY version)
やってきた異母兄弟によって、自分たちを捨てた父親の話を聞くことになる女。そこに、ジャンボッティと彼が呼ぶ謎の女が現れる。最初は、普通に客人としてもてなすが次第にその狂気性が現れる。当初は女の恋人しか気づかないが、その恋人もジャンボッティに魅了されていく。
令和座らしい間をたっぷり使い、女性によって崩壊してゆく男たちを描く不条理劇。 ファムファタルものと言えるが、終盤の通り魔が本当に起こしたのかどうかがぼやかされており、この女性こそ不条理そのものと言える。そして、この不条理は劇中に存在しないはずの舞台照明を出現させ虚構と現実すら崩壊させてゆく。異母兄弟はかなりまともな常識人なのに、一度ジャンボッティに魅了されてしまった時点で彼は終わってしまったのだ。元々、性格の良くない恋人は完全に終わってる。
そして恋人も異母兄弟も狂わされた女はただ追いかけることしかできない。不条理の前に人は何を為せるのだろうか
(BETRAY version)
冒頭は同じ。父の遺産相続について訪ねてくる異母兄弟。しかし、訪ねてきた異母兄弟がAstrayに比べて不安定な人物。そしてこちらのジャンボッティは、長い鎖を引きずる怪人物。性格は同じく掴みどころのないのだが。
全体の作りが不条理vs理性と言った作りになっている。ここでの女性が、かなり気の強い性格でムカつくことを黙らない。そして恋人もツッコミ役として機能している。カップルが丸ごと対比となっており、これによってジャンボッティの不条理を真正面からツッコミによってギャグとして処理。なんだか、ドラゴンボールに乗り込んだ両津勘吉を思い出す。
ギャグとして解体された不条理の果てに不条理の二人は部屋を追い出される(実際に会場の外に出される)
しかし、再び現れたジャンボッティ。施錠された扉(イズモギャラリーの扉はガラス張りで外の様子が見える)、の前に立つと工具で破壊を試みる。二人が破壊される恐怖に怯えると、異母兄弟も突然現れ脅迫する。彼らの目的は遺産の独り占め。これによって、不安定な主犯と不気味な女用心棒という形式になり、ナンセンス色の強いサスペンスというAstrayとまるで違う味わいに。冒頭からここまでで話の筋も次第に明快になっていき、会場に笑いが起きる。 ラストの女が3人を追いかける展開は同じでも、後味はまるで違う。
個人的に、
令和座初心者は取っ付きやすいサスペンスのBETRAY
混沌で脳が揉まれる異様な演劇を見たい人はASTRAY
といった感じ。
BETRAYは面白い。が、ジャンボッティの神秘性が解体されてしまうところに寂しさを感じる。
ASTRAYの、不条理が素晴らしくジャンボッティ。