コンプソンズ『何を見ても何かを思い出すと思う』感想
脚本・演出/金子鈴幸
会場/「劇」小劇場
出演/金子鈴幸、星野花菜里、細井じゅん、大宮二郎、宝保里実、鈴木啓佑、金田陸、石渡愛(青年団) 、小野カズマ、東野良平(劇団「地蔵中毒」)
演劇公演を行おうとする3人。そこには眠っている男女が。男の方は劇団員の俳優である。しかし女の方は誰なのか知らない。しかし男の方も話している内に嚙み合わなくなってくる。何かがおかしい。
女と恋人との日々が描かれる一方で、話の内容から男は自分が過去にいることを知る。
自信の映像俳優への成長と、周囲の時の流れが入り乱れて行く。
演劇界と低予算映画の夢を追いかけても一銭にもならない地獄が描かれている。そういう意味では貧困演劇にカテゴライズされてもおかしくはないのだが、この作品の特徴は時間軸シャッフル。しかも主人公が時間の乱れに意識的なのである。タイムスリップものなのだろうがシームレスに時間軸が移動し、これが演劇作品であるという特徴を活かしたメタメタ演劇。細井じゅん演じる小代雄介がおろおろしながらツッコミ芸を炸裂させる。
登場人物たちが強烈なのがいい。劇団にかかわる3人が3馬鹿みたいな愛嬌がある。金子鈴幸脚本・演出もしつつ(多分)自分をモデルにしたキャラを演じてすごい。鈴木啓介、可愛い。ぬいぐるみ作ってほしい。金田陸は盛夏火で観た穂村VCRのイメージがあるが、今回真面目そうなちゃらんぽらんを力の抜けた演技で作り出す。
と、メイン3人はもちろん。
口の悪いコンビニ店員を演じる大宮二郎は面白い人のイメージがあったんだけど今回普通に人殺してそうで怖かった(まぁ、モノローグ演劇祭で殺人犯役やっていたけどさ)。
ほかの皆さんはコンプソンズだったけど、東野さんだけは地蔵中毒だった。低予算映画『生贄人狼ゲーム』の監督なんだけど何だろう笑顔の中に隠しきれない狂気。犯罪者じゃないんだけどシンプルにやばい奴と伝わる。この作品では軽い人物ではあるがそこそこまじめな人物なんだけど、ああやばい奴だなぁと伝わってくる。
石渡愛演じる謎の女こと、未来の小代の彼女は俳優をやめた女性。元カレとの日々と今の恋人である主人公の生活をみずみずしく演じる。
笑いに溢れながらも、夢では食っていけない姿。食っていくために劇から遠ざかる主人公。売れない劇団主催者と映画監督として有名になっていく彼女。演劇から離れマネージャーになった女性。観ていて心が痛くなるのだが抜群のエンタメ性が目を背けさせない。
次々と時間を移動し場所も変わり、話が混乱してしまいそうな所を上手くコントロールしている。その中に生贄人狼ゲーム、閃光ライオット予選で落選したバンド、そして向井秀徳の路上ライブ。これらのワードが後半で伏線として効いてくる。
時系列シャッフルというとミステリー的なイメージがあるのだがというよりも時の流れの中で人間の姿を浮かび上がらせる青春の道具として使っている。時系列の使い方としては『パルプ・フィクション』に近いところを感じたが、演劇だからこその登場人物の自意識をうまいことギミックに使用している。
ラスト、閃光ライオット予選敗退バンドの歌を皆で歌う祝祭感。
さて、私はこれを配信で観たのだが少なくともこれは演劇じゃないなと思った。非常にカメラワークや編集が凝っているのである。演劇動画があまり見られていない理由はそれがただの演劇の記録映像だからである。という意見を見たことがある。
そういう意味で非常に意欲的な映像だったのだが、編集の効きすぎで演劇としてのライブ感が薄かったのはうーむと。またぼやけとか多用していてみたいときに見たいものがみれなかったのはちょっと不満だった。最初見たときは洒落ているなぁと感心したのだが・・・。
ここは全体を見たいというときに、アップだとああそっちねと。
でもね、こういう意欲が高まれば素晴らしい映像配信が完成するはずなので皆応援しよう。
戯曲の完成度は抜群で間違いなく岸田賞レベル。演出も複雑な展開を破綻させずまとめ上げた。間違いなく今年を代表する傑作。