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盛夏火『アバンダンド・ネバーランド』への感想

『アバダンド・ネバーランド』
演出・脚本/金内健樹 演出補佐/新山志保・金田陸・カネダガク・森耕作・中村ナツ子・三葉虫マーチ・鳥居トリィ
出演 /新山志保・ 金内健樹・金田陸・カネダガク・森耕作・中村ナツ子

 栗宮ロマのサプライズ誕生日会をするために集まったナツ樹、エリオ、VCR。公園での待ち合わせの最中、団地に現れる謎の飛行物体の話をしたり。団地の管理人に声をかけられたり、ロマが早く来たせいであわてて追い返したりとてんやわんや。会場であるナツ樹の自宅である団地の一室に案内し、全員隠れ準備万端。しかし、色々トラブルが発生。更に、行方不明のロマの妹が近くで保護されたと聞いてパーティーの空気ではなくなる。話はエリオがDJをやっているラジオ番組で発生する現象と奇妙なお便り。部屋に飛び込んできた謎の男女をきっかけに急展開する。

 主宰である金内の自宅がある団地で上演する団地演劇専門劇団としてその名をはせている盛夏火。しかしその団地が立て壊されるため、この公演が最終団地演劇として上演された。劇中でもこの団地の立て壊しが重要な要素となっている。
 また、最終団地演劇ということから盛夏火の過去の団地演劇の要素を取り入れており盛夏火のファンなら二ヤっと出来る。ただ、それが小ネタというより団地への執着・思い出という形でこれが最後という事実に重みを与える。
 さて、この演劇のチケット代は2XXX(にせんえっくす)円である。好きな金額をどうぞという形なのだが、なんだか『特命リサーチ200X』っぽいなぁと思ってたが公園で空飛物体の話題が出たので、あっこれは200Xだと思った。実際はどうか知らんけど。
 いやでも、この作品は全体的にUFO成分の多い話だし。(多分エリオっていう名前は『電波女と青春男』に登場する自称宇宙人の藤和エリオからきていると思う。
団地内で行方不明者が多発しており探し人のビラが配られる。そして、妹が行方不明になったシチュエーション的に明らかに地球外生命体によるアブダクションがテーマだろうから200Xであってると思う。

 個人的におっと思ったのはオカルトライター穂村VCRがいることだ。この人物は『ウィッチキャスティング』にも出てきた人物で、その時の夜警のエピソードも語られている。私は見ていてこれは『ウィッチキャスティング』のリベンジ(と、思っているのは私だけかもしれないが)だなと。

 『ウィッチキャスティング』の感想の時に書いたが、ホラーテイストであり団地内で怒る怪奇現象が描かれているが、いつ怖がらせてくれるんだろうと期待していたが怖さというのはやってくることなく終わる。そこが不満点だったが、今回は団地内で怒る怪奇現象を描くというウィッチキャスティングと似た展開だが、今回は違うぞちゃんと怖い。
 例えば、突然人物が姿を消すシーン。部屋とベランダという立地を生かしているのだが人間消失が目の前で行われるとゾッとするものだ。
 盛夏火という団体は毎回小道具やギミックの使い方が天才的である。今回は、道具をあまり使わなかったのだがその中で最も重要な役割を果たすのがラジオである。
 ラジオDJのエリオの番組がカセットで録音されており、それを聞くために登場するのだが終盤奇妙なリスナーが上の階の住人であるためその家に行くのだが生中継するため簡易的に電波を飛ばし海賊放送の形で部屋で待機している主人公たちが聞く。音だけでエリオたちが上の階に行きそして何かに巻き込まれる状況が実況される。これがめっぽう怖い。
 外部の様子を配信で部屋の中に伝えるというのはウィッチキャスティングの時もツイキャスで行っていたが、映像ではない分より幅の広い恐怖演出ができるのだ。
 ロマの妹が行方不明になったのだがその時と似たシチュエーションが再びラジオの向こう側で発する。機械が誤作動を起こし大きな光に包まれどこかへ連れていかれる。SF味が強く下手したら怖さというよりスペクタクルな要素が前に出てしまう危険性があるが、音だけというのが上手く観ているものの想像力を掻き立てSFホラーとして成功している。

 金内健樹はトリッキーな演出を得意とするけど、役者に対する演出もうまい。 
 役者陣は皆好演。いつものメンバーはもはや説明不要の面白さ。三葉虫マーチ演じるロマの妹蘭蘭は当初は、行方不明から戻ってきて茫然自失といった雰囲気だったが後半大活躍をする。この変わりようがいい。
今回は特に、カネダ演じるカネダテツオが良い。
 どう見ても元ネタはMr.都市伝説スティーブン・セキルバーグこと関暁夫だ。怪しさ満点の喋り方で、話す内容は昆虫型ドローンとか宇宙の存在と交信とか何言ってんだお前みたいな感じ。そして、ここが重要なのだがこの怪しい男が味方であることが何より心強いのである。UFOの専門家であるカネダの怪しい言動は超常現象に巻き込まれている中だと頼もしい自信に見えてくるのだ。その内、めちゃくちゃかっこよく見えてくる。それもすべて胡散臭い演技と演出の賜物である。
 
 ラスト、主人公たちは向こうの世界へ行ってしまい(この時、『夏アニメーション』の時に好きだった団地の部屋を走る自転車のシーンが登場して嬉しい)、誰もいなくなった。その部屋に、団地取り壊しのための業者がやってきて結局主人公たちは戻ってくることはなかったのかと我々は理解する。この作品はアブダクション、または神隠しの一部始終をリアルタイムで見せられていたのである。
 部屋には遺失物が残されており、業者がこれを売るのが笑った(要は物販)。でも、物販一覧の紙がちゃんと遺失物一覧とか言えてあったのがより面白かった。
 
 『ウィッチキャスティング』は、我々が作品世界に取り込まれたまま終わったがこの作品はその逆で主人公たちはどこか別の世界に行ってしまい我々は取り残されたまま終わるのだ。これが、どうしようもない後味を残す。
 
 最後にラジオから曲が流れ、これがエンドロールとなるのが素敵だ。

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