見出し画像

東京学生演劇祭2023 の感想

毎年のお楽しみ、東京学生演劇祭の季節がやってきた。
ここから新たな才能が毎年登場する。昨年のは↓

全6団体、三組ずつABの2グループに分かれて上演する。
なので、AグループBグループの順番で感想を書く。

【Aグループ】

合法事務所UNION 『AZ-合わせ鏡のアイデンティティ-』
作・演出:柄澤慶

怪人と戦うヒーローAZ。ある日、助けた少女に恋をするが相棒からはヒーローに恋は御法度と注意されて・・・。
                 ・・・
 ヒーロースーツが中々気合の入った出来。ヒーローものながら低体温の演出で、出演もヒーローと相棒だけの二人芝居という独特な味わい。ヒーロー物の裏にある悲しみを浮かび上がらせる戦略。アクションシーンですら低体温で、必殺技もボソッと呟くドライな感覚。
だが低体温に必須の技術力が足りず、ただのメリハリがない芝居に。相棒である車椅子の天才科学者をハル☆シューティングシュターが演じていて、中々良い存在感なのだがもっと上手く使えれば。
やってること自体は良いので、いっそのことアクションシーン全カットで完全に二人芝居のみで成立させる現代口語ヒーロー会話劇みたいな方向性に舵を切るとか色々バリエーションを想像させる。素材はかなり良い。
チャレンジ精神は買うので、嫌いじゃない。

劇団さいおうば​ 『アキスなヨシオ』
作・演出:寺腰玄

空き巣の男は念密な計画を練って家に侵入するが、次々と予想外の出来事が起きてトラブルの渦中に巻き込まれ
                 ・・・
 魅力的な登場人物が右往左往して絶妙のタイミングの笑いを連発する、上質なシチュエーションコメディ。
40分ひたすら展開し続けそこに隙間なく詰めるギャグも話の流れ的に上手いところを突いており、小道具の使い方も見事。役者も好演。
西本凛太郎は天然でお調子者な空き巣を無邪気に演じる。
盛野莉紗子は気が強いがダメ男に惚れやすい女を堂々としたヒロインとして。西本と最強のケミストリーを生み出す。
澤井俊作は女に執着する男を佇まいだけでヤバそうと感じさせる。でも映画を語る時の知性が良い。
岡崎雨は友達思いの優しくて頼れる普通の女性を絵に描いたような好助演で。
この劇団はどんなシチュエーションでも笑いに変える技術を持っているが、それでいて話はきっちりと完成度を持たせる。ピッキング最高。
そしてこんなドタバタ騒ぎの果てにあのお洒落な終わり方。
最高。

藝術集團だだだだだ『天 ~上見や風流、こがねうを~』
作・演出:だてまる

明治、吉原遊廓の若い花魁。小説家を夢見る彼女はある日シェイクスピアを愛する書生と出会う。書生は先生の元で政治の勉強をしており・・・
                  ・・・
 芸娼妓解放令という史実を元に文明開化の荒波に飲まれた男女の悲恋を描くが、そこに現代口語演劇以前のオールドスクールな小劇場の面白さを凝縮。
怒涛の高速台詞に圧巻の集団芸。音楽も見事なユニゾンを見せて(特に演説シーンの格好良さ)、ヘビーな物語にも関わらずエンターテイメントとして仕上げる。遊女たちは鉢から逃れられない金魚に例えられるが、その金魚を模した着物の見事さ。見事な衣装は作品の格をさらに上げる。
俳優陣は皆好演だが、
悲劇の少女を三浦涼は精一杯生きようとする生命力で演じ、
楊文果は病で落ちぶれる元遊郭一の太夫という大学生には荷が重い難役をその佇まいに鋭い台詞を持って演じ切る。言葉なかったとしてもオーラで分かる。
遊郭の支配人は台詞から笑顔まで全て気持ち悪くて嫌悪感を抱く。女性を支配する悪人。実は彼も仕事を守りたくて必死だと語られても同情はなく悪辣さを保ち続ける。悪役はこうでなきゃ、強烈なインパクト。良い役者だなぁと思ったら終演後に代表で挨拶してた。確認したら作・演出のだてまるだった。出演もする作・演出オブ・ジ・イヤー新人賞。
中島幸乃は講談師をハキハキと演じる。この講談師の立ち位置になるほどと唸った。ラストで物語構造がバシッと決まる美しさ。お見事。

バス停ドレスコード 『よく言えば変わらない、悪く言えば変われない
作・演出:武部就斗
久しぶりに集まった高校の部活メンバー。青年はこれが千載一遇のチャンスと機を狙い、脳内では漫才が炸裂する。
                 ・・・
 ドラマ部分と漫才が切り替わる構成の工夫は面白いが、それ以外は面白くはない。いや、スパイス・携帯のキャリア変更・ヨッ友など上手くいっている笑いどころはちゃんとある。それでも面白くないのは演出も演技もだらだらしているから。流石に漫才もだらだらしていたら良くない。スリムクラブやハイツ友の会のようなスロー漫才用の構成ではなくいたって普通の漫才。これをだらだらやられても。
 そんな中眼鏡の方(役者名が分からない)だけ、孤軍奮闘。短い活躍ながら彼だけ漫才のテンポ感を理解しているし、驚いたリアクションも面白くて存在感。

ネムノキ『大学ノート』
作・演出:ひろなかたけと

自由奔放な少年と、弟と友人。頑張って大学に入学するも世界は大きく変わりうねりが彼らを襲う。

 青春の苦しみを描く学生らしいモラトリアム演劇に、ディストピアの風味を加える。不条理な警察にすら屈しない兄と、国の決めた枠組みで絶望する弟。絶望の国の少年たちが生き抜こうとする姿生き抜けない姿。
箱馬を舞台上で組み上げて舞台を作り、繊細さと我慢の限界が溢れる演技。ラストのそっけなさも良い。
 設定の面白みこそあれど、作品全体としては堅実な作りで凄いと唸る個性は感じなかった。(この設定ならもっとヤンチャしても良かったのでは?)
しかし若々しさ溢れていて、優等生的な安定した出来で楽しめた。

STAy『TongPoo』
作・演出:小島淳之介

ジャイアンと呼ばれ、高校の女番長のような少女さくら。性格の違う友人と楽しい毎日を過ごし、同級生男子の恋路を応援する。ある日、世界からそれまであった存在が次々と忘れられていく現象に気づくも、それを認識できるのは彼女だけで。
                 ・・・
爽やかな青春不条理譚。
 不満点はある。不条理とサイドストーリーである少年の恋路が同時進行で進むも、作品的に交わらず平行線で終わってしまったり。YMO「東風」を重要な位置に置いて東風と言う言葉自体に意味を持たせるのに流さないとか。(だったらタイトル「ネイティブ」や「ばら」の方が良いんじゃない?)
 という不満はあるが、面白さがそれをぶっ飛ばす。
 さくらの造形が魅力的。ジャイアンと呼ばれるもポジティブにその愛称を気にいる少女。元気溌剌に瀧口さくらが演じる。
分離したまま終わる二つのパートも完成度自体は良く。不条理に翻弄される少女のエネルギッシュさ、少年の可愛らしい恋路、どちらも見ていて感情が揺さぶられる。
 愉快なシーンも盛りだくさんで細かい笑いで観客を楽しませるが、そこに不条理が襲う悲しみ。
通話での糸電話を使ったシーンや音楽流れる中での疾走シーンの演出の見事さ。
そして、ラストのそうであってほしい美しさ。
 不条理の物語がライトノベル・アニメから直球の影響を感じさせる展開で、ゼロ年代ライトノベル直撃世代としては懐かしみ感じつつしっかりと面白かった。まだ荒削りだが腕もセンスも良い。これからもっと面白くできる

予想
大賞 劇団さいおうば
観客賞 藝術集團だだだだだ

どちらAグループで、大変お買い得なショーケースだった。Bを代表するSTAyもここに入るべきだと思うのだが、何しろ二つしか枠がないので
瑕疵がなくクオリティーの高い二団体を上位予想。
今回は(今回も?)強烈な個性を持った団体はいなかったがこの二団体はそのまんまプロに進出できるクオリティ。
STAyお気に入りなので外すのが心苦しい。でも予想とはそういうもん。
そして結果は↓





大賞 劇団さいおうば
観客賞 藝術集團だだだだだ

予想大当たり!、そして観客賞2位がSTAyなのも予想通り。
今回は大納得の結果だった。

 


いいなと思ったら応援しよう!