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【書評】盛夏火 団地演劇パーフェクトガイドブック『MINDING MINING』
金内健樹が主宰する劇団、盛夏火は自宅である祖師谷大蔵にある古びた団地の一室にて団地演劇と銘打った作品群を上演していた。
ミニマルな舞台を生かした人間ドラマから、狭い空間の常識を覆すアニメや映画に影響を受けた壮大な設定かつド派手な魔女ホラー演劇、スペクタクル宇宙人演劇まで上演するエンターテイメント劇団。
2019年の旗揚げ公演から団地取り壊しによる退去の2021年までわずか3年の間に、彼らは東京小劇場シーンにて独自の地位を築いた。
この本はその3年間の記録を閉じ込めた本である。
金内健樹による各作品の解説。『スパイダーランド』『夏アニメーション』『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・デジタルハリウッド』『ウィッチキャスティング』『スター・クルージング/パジャマ・キャンプ・アルファ』『蟹座(裏)』『アバンダンド・ネバーランド』
3年間で上演された全作品をあらすじ、劇中曲、注釈、ネーミングに至るまで詳細に解説。
特にあらすじは短編小説くらいの分量で、盛夏火が上演してきた奇想天外な物語にたっぷり浸れる。この劇団知らないという方もサブカル短編小説集として楽しんで欲しい、
そして、目玉は総勢26名の執筆者による作品論、エッセイ、短歌、小説、イラスト、座談会、怪文書。
SUGIによる、10ページにわたる作品レビュー『魔女の映画よりも『アンダー・ザ・シルバーレイク』を信じた者が辿り着いた『マウス・オブ・マッドネス』の「再映画化」を「演劇」で完遂する試み、を、ポスト演劇と銘打つことに一片の恥じらいも無い(あるいは、世界一かっこいいタイトルはコレだと思います)』や、会場となる金内自宅部屋の隣人男性へのインタビューから異様な展開をする怪文書、小野カズマ『302号室』など読み応えたっぷり。
舞台写真も沢山。
そして帯文をサブカルから伝統芸能まで幅広く手掛け名を知られる人気ライター、九龍ジョーが担当。
しかし、これはただ劇団ファン向けの思い出冊子ではない。
サブカル劇団らしく、注釈で様々なタイトルが解説されるが本の中で一部書き出すだけでも
『ヘレディタリー/継承』
『涼宮ハルヒの憂鬱』エンドレスエイト
『のんのんびより』
ジャン・リュック・ゴダール『はなればなれに』
『星のカービィ64』 と、ジャンルもテイストもバラバラ。
更に The Avalanches 、Animal Collective 、カーネーション とさまざまなミュージシャンも言及。
これが寄稿された作品論や座談会だと更にさまざまな作品や物事に言及される。
そう、この本を一冊読むだけで現代の小劇場が如何なるサブカルチャーに影響を受けているかまるわかりなのである。
現在出版される演劇関連書はアカデミックな学術書や中堅以上の演劇人を記載した物ばかりで、演劇の最先端で新時代を作る若手にまつわる本はない。若手はSNSで言及したりするが大体単発だ。
しかしここにはリアルタイムのサブカル演劇が一冊としてまとまって凝縮されている。ここに描かれているサブカルは現在進行形で生きている。
盛夏火という劇団を媒介に今の若者がアニメ、映画、漫画、音楽、ゲーム、そして演劇をどのように咀嚼し演劇作品として昇華しているのか。それを詳細に記した演劇研究書としても非常に貴重な一冊なのである。
まぁもちろん、盛夏火が若手劇団の代表という訳ではないが大なり小なり何かしらのサブカルチャーに影響を受けているだろう。多分。
しかしそれと同時に、現代の小劇場で日々を過ごす若者たちのドキュメンタリーでもある。彼らは何を考えどう演劇を作り、観客はどのような思いで鑑賞しているのか。26名の文章は己の本心を正面から描いた瑞々しい物で、盛夏火を舞台にした群像劇だといえるだろう。
尚、私が寄稿した「美少女演劇としての盛夏火」は
上演作の影響元の一つが『電波女と青春男』であると断じている文章があるが思いっきり作品解説文でそれじゃなくて『E.T.』が元ネタと否定されている。冷静に考えると『電波女』が『E.T.』からの影響がみられるので、そこを考慮すればこの元ネタ違いをすることがなかった。恥ずかしい。
という訳で私はこの群像劇ではコメディリリーフです。どうぞよろしく。
(文自体は超まじめで書いた。ここ以外はちゃんとしてるよ。)
恐らくユリイカが『総特集 盛夏火』を作ったとしてもここまでの濃密な物は作れないだろうし見方によっては『総特集 現代小劇場におけるサブカルチャー』を作ってもここまでの物は作れないだろう。
演劇ファンも、そうじゃないサブカルファンも、みんなこの本でリアルタイムのサブカルチャーに触れてほしい。
by.公社流体力学a.k.a. 自虐ネタって文章で書くとマジだと思われ塩梅が難しいのでこうやって最後に言い訳している男。
【同人誌/ZINE】
— 盛夏火(セイカビ) (@seika_bi) July 30, 2023
盛夏火 団地演劇パーフェクトガイドブック
『MINDING MINING』
8月6日発売
1部 ¥2,500 (+送料)
(※祖師谷大蔵にて対面の手押し販売も可!)
企画・執筆:金内健樹@Ithcasti
ブックデザイン:福西想人@seimeikatsudou
帯文:九龍ジョー@wannyan
[通販ページ]https://t.co/1yO3mijhhr pic.twitter.com/tQVOU2SsF2
盛夏火 団地演劇パーフェクトガイドブック 『MINDING MINING』
— 盛夏火(セイカビ) (@seika_bi) July 30, 2023
盛夏火の第1期団地演劇期(2019~2021年)の全5+2作品をこの1冊で完全網羅!
図像満載の各作品のあらすじ&解説
総勢26名の執筆陣
随筆・イラスト・小説・怪文書・SEXお悩み相談...etc、長文レビュー×6本
2万字をこえる座談会×2本
304ページ pic.twitter.com/qgY0DqEHvC
盛夏火 団地演劇パーフェクトガイドブック 『MINDING MINING』
— 盛夏火(セイカビ) (@seika_bi) July 30, 2023
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