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Not in service『JPN』の感想

作・演出:not in service
会場:中野ウエストエンドスタジオ
ある団地は自殺の名所。その団地では警備員や仕事のために団地を訪れる人間、総菜屋の主人などが人間関係を作り上げている。中にある薬局で働く女性の元には奇病で急成長した少女が身を寄せる。彼女は地下で何かを見たらしい。
 
不可解が多発する怪奇演劇。観念性が強くて、幻想譚が近いか。
序盤は人々が次々登場、出入りを繰り返して要素が錯綜、?頻発。
どの中でも、警備員の伴瀬という男は、パワハラ気質。後輩をいびり、同僚を妬み、他人を嘲笑する。Youtubeで心霊動画を投稿(ゾゾゾのパロディ)し人気者気取り。伴瀬を演じる吉川瑛紀が圧巻の演技で不愉快を植え付ける。
これ、ちょっと付いていけないかも。と思わせた途端
 
主人公の正体が政府から送られてきた秘密組織のメンバーであり、この団地で非人道的な活動をしている事が明かされる。
そして、伴瀬はこの団地の秘密を明かそうとして命を落とす。
この団地に潜む何かを管理している、という事実で一気にスケールが大きくなる。
何か日本ホラー小説大賞って時おり変な小説にあげたりするじゃん。なんかあの空気がする。あと、怪奇と組織の組み合わせで甲田学人の『Missing』を思い出す。そういう意味では、先行作を彷彿とさせるも
要素を置いて、それ以上の解説をしない。観客の想像を刺激する作りは非常に魅力的。
 
上演前、開場時にひたすら落語の「王子の狐」が流されている。何故だろう
と思ったら、大事な要素として劇中に登場する。狐が人間に騙されるこの話。
狐とは神の使いである。作品を神話的スケールの大きさに繋げる接着剤として現れる。
 
また、もう一つのスケールの大きい話として国家の話がある。そもそも、物語の軸は政府が管理する秘密組織である。政府がわざわざこの団地を管理している存在がこの団地にいる。という話。
その中で、組織の人間ではないが団地の秘密を知っている警備員が毎日国旗を逆さまに掲揚している。何故か。
そこで、逆さまの国旗はSOSの意味があると語られる。
異常な団地で一人で、国家の危機を知らせ続ける男の姿。
ここで、『JPN』というタイトルのこの作品がまさに日本という国家のメタファーなのだろうと思う。
 
 
演出的には映像を多く映すが、物語を象徴する警句や黒塗りされた資料。そして伴瀬が死の直前に撮影した動画等を映し、難解な物語にテンポ感を与える。
音も緊張感を与える。
舞台装置は、ベンチが置いてあり団地の入り口から生け垣が見える。上には自殺防止用の作が置いてある。そこまで豪華なセットではない。
 
 
 
しかし、団地に潜んでいた正体が人間を襲う吸血植物だと明かされたとたんに見えていた生け垣が恐ろしいものに見える。
植物が暴れ始めると自殺防止柵までに植物が巻き付く。
シンプルなアイデアだけどこの植物が成長し巻き付く表現は非常に恐ろしく見えた。
 
ただ、喋り方の演出があまり好きじゃない。ただでも用語が多かったりするので聞き取りづらいところがある。俺だったらこう喋らせないなと思う部分多々あり。
 でも、ラストシーンの構図が完璧すぎたので全部チャラ。
絶望が目の前に迫っている状況、主人公は煙草を吸う。
一瞬だけいなくなった人、いなくなるであろう人が現れまた消える。
煙草を吸い続ける彼女一人だけ残され終わる。
立っているだけなのにメチャクチャかっこいい。

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