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若手演出家コンクール2021の感想
若手演出家コンクール2021の最終審査を配信で観たので感想を書きました。
前回はこっち
というかさぁ、感想調べても私の含めて2・3個しかないのは何よ。一応2021年を代表する演出家が集まり頂点を決めようぜというイベントなのに、恐ろしいほど感想が過疎。
まぁ演劇業界なんてそんなもんだけどさぁ。演出家協会の宣伝がしょっぱいんだよなぁ。
点滅(B機関)『コメットイケヤ』 初選出
新しい星が見つかった日にとある1人の男が行方不明になった。盲目の少女は星への憧れを胸にする。
暗黒舞踏家として出発し、2016年に演劇を制作する団体B機関を立ち上げた点滅が初登場。
一貫して寺山演劇を作り上げてきたが、今回は寺山修司のラジオドラマを演劇として上演。 ほぼ素舞台で最小限の小道具にもかかわらずアングラの空気感を出す。ライトの使い方も良い。空気感の作り方という意味では最もうまい。もっと舞踏を前面に押し出す演出するのかと思ったが、合間に舞踏を挟みこんで作品に溶け込ませていた。
ただ、演出家コンクール的にはアングラの型にハマっていた気がする。技術力があるということでは抜群なんだけど。どうも伝統保存協会的な部分が見えてしまう。例えば、天井桟敷、万有引力以降のアングラとしてこの人を候補に出した意味は?と考えると。ウームという感じ。寺山演劇がたくさん作られている中ではね。普通に公演として観たら最高なんだけど。
田中寅雄『?イカのダンスはすんだのカイ?』 初選出
練馬の海にて、ホームレスの男と出会った女。女はプロポーズされるために来た。奇妙な邂逅の果てにダイオウイカを吊り上げることに。
ダンサー・俳優として活躍してフリーの演出家としてロックな演劇を作っていた男。
今回はパッションを前面に押し出し、ダンスは美しく、メタいネタも放り込む。古き良き演劇。かなり舞台美術も凝っていて、劇場に入って舞台がこんなんだったら嬉しくなっちゃう。生だと迫力感じるんだろうなぁと思う。薄暗い中物語は進むので配信だとよくわからない。演劇の醍醐味って暗さを楽しむ所もあるよなぁと。ずっとこの暗さで勝負を挑むところも良い、
ただ、この手の演出としては王道。洗練された時代に一昔前の大きい声ではきはきと喋る演劇で勝負します、こういう人も候補にしますというのもいいんだけど。何だかこなれすぎていて。もっと、歪というか速さだけで走りきる作品を観たいというのは私の趣味なんだけど。これも点滅さんと同じで、公演としてはよくできている、“演出家”コンクールとしては驚きがない。
桝形浩人 (劇団P.Sみそ汁定食) 『巡る、母桜』 初選出
介護施設に入所している老婆。そんな老婆に寄り添う介護士。そんな介護士は夫に介護の問題で責められていた。老婆の家族は誰も来ない。そんな時、中国人女性が老婆を訪ねてやってきた。
愛媛でドラマ演劇を作り続け、せんだい短編戯曲賞2020の最終候補にも選ばれた実力者。
まぁ、男がクズばっかり。出てくる女性が皆男に虐げられていて生きづらさを描いている。シンプルなドラマ演出で流石の技術力。上手いなぁと感心していると終盤の解放されたかのような明るさ。ここに、老婆のために集まった3人がいて最後に老婆がやってくるのだが。この老婆の出し方素晴らしい。この老婆の姿は、アイデアとしてはありきたり。だがそれをドラマチックに演出する力が強くてファンタジックにも感じる。
それまで、じっくり丹念に苦しみを描いてきたからこそ、この光るような演出が更に輝く。そしてそこから、昔話のようなラストに。緩急自在だなぁ。
亀尾佳宏(掛合分校演劇同好会 )と(劇団一級河川)
『走れ︕走れ走れメロス』と『酒とお蕎麦と男と女』 8年ぶり2度目
メロスは王の暗殺を企てるが捕まり。 『走れメロス』
まずい蕎麦屋に来た男は蕎麦屋の主人に世間話をするうち、人を切ったことはあるかと聞く。『酒と』
島根で4つの演劇団体(高校演劇×2、市民演劇、劇団)を持ち、劇王、かもめ演劇祭、高校演劇で数々の入賞経験を持つ地方演劇の雄が8年ぶりに殴り込み。
パッションを武器に怒涛のユーモアで殴ってくる同好会と、ユーモアの中から徐々に緊迫感が浮かび上がる河川。 同じ出家だけど、異なる2つの劇団が参加するって演出家コンクール史上なのでは?で、どっちも面白い。2つの団体により、自分の演出力の幅の広さをアピールする作戦は大成功。
順番もいい、『メロス』は高校生の若さを押し出し、兎に角速度で勝負する。ナレーションを巧みに操り無駄に服を脱がせたりして翻弄する。唐突にボイパが始まったりと東京小劇場に置いても違和感のないエンタメ度の高さ。
そのあとにじっくりとサスペンスが立ち上がる『酒と』。こちらは大人の俳優によるシンプルな会話劇で、最初こそユーモラスだが蕎麦屋の店主に話しかける男の目的が明らかになる過程に無駄がない。また、男2人の陰に隠れている妻の存在感が良い。セリフはないがネギを切る音だけで存在感を出すという演出が上手い。
という4人。予想するなら
本命 亀尾佳宏
対抗 桝形浩人
という布陣。『酒とお蕎麦と男と女』だけだったら、桝形さんなんだけど『メロス』の遊び倒した演出が面白いので予想。
もし受賞したら演劇部か演劇同好会で公演してほしいけど、高校生が上京してと考えると一級河川での上演かな。
正直今回は過去のようなずば抜けた演出はなかった。まぁでも私がずば抜けたと感じる演出家は皆最下位に沈んでいるし。くによし組みたいな面白いけど演出というより脚本の力だよなぁみたいな所が高評価を得るんだから、案外点滅さんあたりが受賞するかもね。
3月6日まで4団体全て配信を販売しているから、皆観てほしい。
追記
受賞結果は、
亀尾佳宏が34点で優勝。2位が田中寅雄、点滅が22点で同率だったので圧倒的な大差での優勝。納得。
ただ、次点と予想した桝形浩人さんは12点で圧倒的最下位。
いや、田中さんも点滅さんも面白かったけど演出コンクールって技術力を評価するの?発想力を評価するの?ってなる。