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【修理】PS3の持病 -CECHL00でRSXをオーバークロックした話を添えて-


長いので記事の流れを

最初期型の90nm RSXは(ほぼ)必ず死ぬ!自分で改修するかリファービッシュ基板を買えば解決!!文鎮化しないようにCFWを入れる前に修繕しよう!!私のPS3は瀕死だったけどECAS加えたら大丈夫そう!!みんなもPS3の寿命を削って処理落ちする作品をもう一度楽しもう!!

PS3の持病

初期型PS3について

(余りに日本語情報が少ないので書いておきたかったことを長く書きます。)いつか必ず壊れるものとして避けられがちな初期型PS3。PS2互換があるCECHA00とCECHB00,互換を省いたCECHH00とCECHL00と2グループに分けることができ,さらに互換の省かれた後者もGPUには違いがある。今回触れるCECHL00はH00と共に初期後期型(笑)とも言われたりしているが,CELL (CPU) のみ65nmプロセスだったCECHH00に対してL00はRSX (GPU) も65nmプロセスとなり,一般ユーザー的には消費電力が下がってうれしい。でもそれ以上に良いことがある。

CECHL00の見た目

RSXの故障(YLoDについて)

ヤフオクなりメルカリなり,ハードオフなり,割とどこででも見かけるPS3の壊れ方は黄色点灯→赤点滅でシャットダウンされる「YLoD」。実はこのYLoDには種類があり,Sysconエラーログを見ることで何が原因でシャットダウンが引き起こされたのか知ることができる。これを知ることで,RIP Felix氏が以下の動画にまとめたように考察が進んできた。

上記の動画の30分56秒~のXboxの例や43分~,50分~で説明されるように,初期の90nmプロセスで作られたRSXは,コアと台座の接合に使うはんだの疲労を防ぐために入れられたはずのアンダーフィル(糊のようなもの)のガラス転位点に問題があり(中略)利用と共にRSX自体が死んでしまう問題を抱えている(と推測された:真偽は不明だが,後述するようにSonyでさえRSXを後期のものに取り換えて「リファービッシュ基板」の名称で修理対応していた)。XBoxのRRoDドキュメンタリーで解説されているように,これは熱のピーク温度が問題なのではなく,発熱⇔冷却のサイクルによってじわじわと死んでいくものであり,背面に穴をあけようが殻割りしようが,延命措置にしかならないのである。

XBox360ではRRoDとしてリコール騒ぎとなったものの,初期型PS3は不適切ながらアンダーフィルがあったおかげ?でそれほど大事になる前に世代交代となったみたい。2013~2014のGT6のWikiに「初期型PS3だけ不定期に固まって落ちる。修正が求められる」みたいなコメントがあるのが印象的だった。

http://wikinavi.net/gran-turismo6/index.php?cmd=read&page=%A5%D0%A5%B0%A1%A6%C9%D4%B6%F1%B9%E7%C5%F9%2F%CC%A4%BD%A4%C0%B5#l1663caf

実際にまともな起動のできない最初期型のCECHA00やCECHB00ではSysconエラーログを見るとA0803034のエラーがよく見られる。A080の80は起動中の不具合を指し,3034はBGAエラーである(以下のwikiより)。

この3034エラーは「This is the most common error seen in early Phat model PS3's with the 90nm RSX.(これは90nm RSXを搭載する最初期の大型モデルで最もよくみられるエラーである)」とされており,先に提示したRIP Felix氏の動画でも説明されるように,NEC/TOKINのプロードライザ交換やヒートガン等であぶると一時的に解決するのはGPUコアと台座の間の致命的な接合不良がちょっとマシになって奇跡的に動けるようになるため。つまり,PS2互換を持つPS3は死ぬべくしてこの世に存在する時限爆弾であるとも言える。

「プロードライザの交換だけでその後ずっと使えている旨を報告するチャンネルを見たぞ」と思った方へのお知らせとしては,先述の通りにYLoDには種類がある。初期型の全てのデカいPS3では頻繁にエラー1001,1002が見られ,これはまさにプロードライザの不良によって起こされているものでプロードライザをタンタルやECASに置き換えてひと手間加えれば復帰できる。RSXのBumpGateの寿命を迎えるまでは正常動作し,これがPS3の症状に詳しくない修理系の動画投稿者たちが事態を勘違いしたり修理の流れを複雑にしたり,「リフローはもう遅い:タンタルコンデンサーで修理!」みたいな嬉々とした動画を上げてしまう理由になる。プロードライザは先のRIP Felix氏の動画での指摘の通り原因の一つになりうるだけで,90nmプロセス品を積んだPS3は最終的にはRSXが死んで終了する。PS2互換を奪われたCECHH00でさえ無残な死が待っているだけだと考えられる。・・・はずだったが!?

https://youtu.be/I0UMG3iVYZI

FrankensteinMOD / リファービッシュ基板化

じゃあハードウェアPS2互換を持つPS3は救いようがないのかというと,なんとそうではない。上記動画の最後の方で行っているように,ピン互換がある後期型の65nmまたは40nmプロセス製造のRSXに載せ換えてひと手間加えることでRSX起因の故障は回避ができる。2022年頃に「FrankensteinMOD」としてその手順が確立されたようで,Sony公式修理がCECHA00とB00のメイン基板交換修理対応で用いた「リファービッシュ基板」と同等の機能を果たすように改良することができる(私のような素人にはとてもできそうに無いが)。救えるような技量が無い場合は,フリマ等でリファービッシュ基板が載ってそうな固体を片っ端から探すのが良いかと。私はどうしてもPS2ハード互換のPS3が欲しくてフリマで公式修理の伝票を掲示していた中古品を購入して実際に40nmプロセスのCXD5300A1GBが載っていて喜んだ。
FrankensteinMODの注意点としては,すべてのRSXが置き換えに使えるわけではない点である。

先に示したRIP Felix氏の動画の42分頃

65nmのうちCXD2982はすぐにCXD2991に代わって生産が終わったGPUだが,その設計期間を考えるとBumpGateの被害を受けていると想定され,90nm品と同様に死ぬ可能性が残されている。また最終モデルとその少し前のモデルは28nmプロセスとなっており,ピン互換性が無く利用できない。FrankensteinMODを自力で行うのであれば65nmのCXD2991か,40nmのCXD5300xxx,CXD5301xxx,CXD5302xxxの3種類どれかを調達するのが望ましいと思われる。日本で発売されたうちL00は一度分解してRSXの型番を確認することを勧める。この後のOCで厄介な故障を起こす前に,前もって戦慄できるかと。
(一つ気になる点としては,CECHP/Q/Mあたりは90nmRSXを載せているようだけど,RIP Felix氏は上記画像の黄色部分のみが影響を受けているとしてこの点は触れていない(わたしが聞き逃した可能性ある)。どうなんだろ。

追記:ここ(https://www.reddit.com/r/PS3/comments/1dxoodw/official_sony_serviced_cok001_cecha_board_dated/?rdt=46517)のコメント欄の話から,90nmプロセスでも一部アンダーフィルを変えて出荷されたリビジョンがある模様。’最初期の90nmRSX’ってそういう意味で,型番の接尾字も着目する必要があるっぽい?…てことはアリエクとかでCXD2971b1gbリビジョンを買ってきてポン付けが一番楽な修理???:https://ja.aliexpress.com/w/wholesale-CXD2971b1gb.html?spm=a2g0o.detail.search.0


CFWの導入とRSXオーバークロック

導入前の注意点

直前に示したように,Sony公式修理を受けていないCECHA00やB00,H00(一部のCECHL00なども?)はRSX起因で故障するリスクを持っている。公式ファームのアップデートの場合,途中でYLoD等で電源遮断が起きてもなんとか復帰させることができるものの,CFWの導入ではそのような危険な行為はおすすめしない。利用中に不定期に黄色点灯→赤点滅で電源が落ちる場合,以下の動画を参考にSysconエラーログを確認し,取れる手段を考えることをお勧めする。

十分に長い時間起動ができる場合,そしてファームウェアが十分に新しくネットワーク接続ができる場合は分解不要で確認することができる。総利用時間や起動-シャットダウン回数の差異なども見ることができる。エラーコードを確認したら以下のサイトで内容を確認する。

RIP Felix氏の動画で説明されるように,90nmの死にかけRSXではまず1701と1601エラーがセットで記録されていき,深刻化すれば3034や4401のエラーログとなる。これらが見えたらBumpGate被害を受けているRSXが搭載されているのはほぼ確実。自力でFrankensteinMODするか,別のPS3を用意するのがおすすめ。ここで私のL00の症状と修繕について示す。

CECHL00のYLoD修理

私がオーバークロックに利用したCECHL00は友人から不用品として頂いたものであったが,もらった当初はXMBで何もしていなくても突然YLoDで落ちるような状態だった。GT6は最初の署名の画面で必ず落ちていたくらい。 しかしRSXの刻印はCXD2991でBumpGate被害者ではなさそう。そこで上記の方法で確認したところ,総起動時間は350日分と約1万時間に達しており,エラー内容は以下のように1002のあとに2つの2124が続くといったもの,または1002と2024がセットで記録されるものであった(a0802022は修理後のCFWにおけるPS2エミュ起動時に記録されるものらしいので無視してください)。

随分後に撮り直したのでログが埋まり切れてしまっている

Sysconエラーの2024/2124はHDMIチップの不良とされ,どうやら交換すると治ったと報告があるらしいとのこと。だけどHDMIチップの交換はめんどくさそうだな~と思い調べているとpsx-placeで次のような投稿群が。

投稿群の最後に「Seems like the 2024 errors for AV/HDMI and the clock errors 2114 are red herrings if you’ve got bad TOKINs.(プロードライザ不良の場合には2024や2114エラーは  ''赤いニシン:重要な事柄から注意を逸らそうとするもの'' である。)」とあり,RSXの電源ラインの乱れによる1002エラーを直せば自然とAVチップ系の不具合報告もなくなるみたいだとわかった。

RSXの裏面側プロードライザに加えたECAS(左下)

私はどこかで見たCECHA00の修理系動画でプロードライザを外さずにコンデンサーを追加する手法をまねて,電源ラインの空き部分のレジストを彫刻刀で削り,マルツ経由で村田製作所の470μFの導電性高分子アルミコンデンサ(通称 ECAS):ECASD60E477M006K00を購入して取り付けた。以下の図の右側のように,PS3におけるプロードライザはそれ自身が電源ラインを構成しているのでむやみに取り外すのは抵抗があった。

プロードライザの仕組み PS3はフィルタリングデザイン利用かと思われ。
https://jpn.nec.com/techrep/journal/g07/n04/pdf/070421.pdf

裏と表に合計2つ付けたところGT6も問題なく動き出し,それから2週間くらいやり続けている+その後のRSXのOCにも耐えている状態となった。CXD2991の刻印も確認したし,しばらくは安全だろ(謎の自信)。

RSXのオーバークロック

オーバークロックのためにはCFW導入が必要となる。CFW導入については概略がわかる程度にざっくりと。細かい手順は解説してくださってるブログ(一番下の参考からどうぞ)やCFWのリリースノート等を参考にしてください。素のファームウェアであるOFW4.91から脆弱性を復活させたハイブリッドなファームのHFW4.91の導入,続いてCFWのうち今も活発に発展しているEvilnat系のカスタムファームのEvilnat 4.91を導入して完了という流れ。
CFW Evilnat cobra 4.91のフォーラム
https://www.psx-place.com/resources/4-91-2-evilnat-cobra-8-5.1479/
SEE FULL DETAILS IN THE RELEASE THREAD >>> HERE <<< から進んでdownload項の(やりたい特定の所作が無ければ)CEX(もしくはPEX)を選択する。MEGA上では,特定箇所の故障がなくただ単にCFWを利用したければ無印のものを,手軽にオーバークロックを楽しみたければOC版のファームをダウンロードして利用する。もともとのRSXはコアが500MHz,VRAM(GPUメモリ)が650MHzで動作しており,OC版のファームでは広く安定性が担保できるようコアとVRAMの両方を100MHz上げただけのコア600MHz,VRAM750MHz動作となっている。ただし注意点として壊れていない90nmRSXであっても,まともに動ける限界として500/650が指定されたことを考えるとOCには向かず,おすすめはしない。またどのくらいOCするかはもともと自由度があり,以下の動画のようにカスタムファームのRSXクロック編集が可能。↓方法が説明されているので参考までに。

こちらの動画の通り,65nmプロセスのRSXでは100MHz盛るのが精いっぱいな様子で,私のL00(初期型様式のためヒートシンクとファンはデカい)でも200盛りすると明らかなちらつきや不安定性が見られたため,早々に+100MHzに戻すことに。

OCの効果と温度の話。

効果については以下のような比較動画を見つけるのが最良かと。

実際にOCしてみて,私の場合はGT6での効果がやはり感動的だった。このゲームは他車が居ようが居なかろうが背景物の多い地点でガクッとフレームレートが落ちるので,プレイ時のフィーリングが結構残念な感じになる。

左が素のCFW,右がコア600 / VRAM750 (+100MHz)
XMBでL3+R3を押すと表示可能

100MHz盛りによって50台半ばまで落ちる地点はほぼ60fpsを維持するようになった。ただし重そうな場面では普通に40台まで落ちるのでなんとも微妙。画像はファンはSyscon制御のままで,電源投入→ゲーム起動→1レース目終わりでの温度。ストック(非OC)では負荷をかけ続けるとCPU76℃,GPU64℃で平衡,対して100MHzOCではCPU77℃,GPU66℃で平衡となった。このままでも良さげ。ただCFWを入れたのでファンコントロールができる。XMBのネットワーク→カスタムファームウェアツール→ファンツールとかで色々見れるし,PC側からFTP接続すればもろもろの設定ができる。私は72℃を超えないようなファンコントロールになるように設定しておいた。今のところ最大風量は35%ほどで,GT6なら全く気にならない騒音。PS2エミュ時は固定風量なので28%~30%くらいにしておこうかなと思っている。

それでもたまにやばそう

1週間近くGT6をプレイしていたらたまに数フレームだけテクスチャ乱れのようなものが表れることに気が付いた。ゲームやってる時はそんなに気にならなかったけどフレームレートの話をするために録画物を見直していたら発見。65nmRSXのOCはやっぱ無理があるか?あとそもそも大幅にフレームレートが落ちるようなコースでは焼け石に水としか言えないし。でも最低フレームレート上がってゲーム体験としてすごくいいからこのまま限界まで使おうかな。やはりOCするなら40nmRSXがいいのかも。

OCの代償

torne(TVチューナーソフト。地デジ受信と録画ができる)が起動できずにソフトロック状態になってしまう模様。何度やっても起動中の画面で半端に言うことを聞かなくなってしまう。またゲーム中は「いつ壊れるかな,今壊れられたらだるいな」とか考えるのにリソースを奪われかける。これは私が悪いか。

まとめ

・XBox360ではRRoDとして大問題となったBumpGate問題。CECHA00,B00は何とか1世代分の寿命は生ききってS0nyは逃げ切りに成功したもよう。RSX故障の解決策は不良の起こらないRSXに置き換えることのみ。
・65nm RSXを搭載していてクソデカヒートシンクを持つCECHL00でもコア/メモリへの+100MHzが安泰っぽい。私の環境ではファン制御をCFW側に渡して72℃上限にすると騒音もデカくなく心に良いハッピーな状態だった。この程度で良ければすでにEvilnatでOC版のCFWとして組み込みがされているので便利。
・もっと過激にやりたいならCFW可能な40nmRSX搭載PS3かリファービッシュ基板の初期型PS3を利用することをお勧めする。PS3の寿命を削って処理落ちする作品を新たな気持ちで。

参考にしたもの

PS3の故障と40nm化 
https://youtu.be/I0UMG3iVYZI

Sysconエラーログまとめ(Syscon診断)
https://www.psdevwiki.com/ps3/Syscon_Error_Codes

自力でFrankensteinMODする場合の参考
https://www.psx-place.com/threads/research-experimental-nec-tokin-capacitors-replacement-ylod.25260/page-204#post-301356

2124, 2024 SYSCON errors
https://www.psx-place.com/threads/2124-2024-syscon-errors.43966/

プロードライザの仕組み
https://jpn.nec.com/techrep/journal/g07/n04/pdf/070421.pdf

マルツ 導電性高分子アルミ電解コンデンサ ECASD60E477M006K00
https://www.marutsu.co.jp/GoodsListNavi.jsp?path=&q=ECASD60E477M006K00

65nmRSX搭載機のOC 
https://youtu.be/qAhLq0prdoc

GT6でのOC比較
https://youtu.be/ZPWMILqLFd8

CFW導入参考
https://yyoossk.blogspot.com/2024/03/ps3491cfw.html
上記以外にもyyoosskさんのメモ書きは非常に有効な情報に溢れています。

CFW Evilnat cobra 4.91のフォーラム
https://www.psx-place.com/resources/4-91-2-evilnat-cobra-8-5.1479/





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