第一日

テーマ：新しい始まり

　新しい場所、新しい服、新しい靴、新しい人間関係。
　ピカピカに光る全てが眩しい。眩しすぎて目が焼けるくらいだ。母は私を気遣って引っ越すたびに新しいものを揃えてくれる。それにだんだん苛立ち始めたのはいつからだろう。
　いわゆる「転勤族」と呼ばれるうちの家族は、父の仕事によって不定期に住む場所を変える。四、五年住み続ける時もあれば、一年で次の場所に行くこともある。やっと靴の硬さが和らいで、服がフィットし始めた時にまた新しいものが仲間入りする。やっと友達ができて好きな場所が見つかってもすぐにサヨナラ。私は思い出の中だけでは友達が多い。最も、携帯の画面には何の連絡もないんだけど。
　新しい靴は窮屈。新しい服も固くて動きにくい。でもそれは母の気持ちだから、初日にはつけていかなければならない。新しいものに身を包む私を見て玄関先で「行ってらっしゃい」って笑顔で送り出す姿を見たら、とてもだけど、前のを履いていくなんて言えない。笑顔で「行ってきます」って言うのが精一杯。
　
　教室に向かう足取りが重たい。それはきっと、先生たちのいる場所へ向かう緊張感ではなく、新しい場所への不安でもなく、新しい靴が重たいから。私は誰とでも仲良くなれるし、実際そうして友達を作ってきた。転校ばっかりでどうせすぐいなくなるから、と一人でいることを選んだりしない。だから時折、虚しい。
　職員室でいち早く気づいてくれた、若い女性の教師。どうやら私が所属するクラスの担任らしい彼女に連れられて教室へ向かった。
　ここまで何回も自己紹介をするとテンプレートが定まってくる。レパートリーは三種類。雰囲気を見てその場で使い分ける。今回は明るさを前面に出しつつ、はっきりとした口調、少し戯けて見せた。滑り出しは好調。狙い通り、休み時間にはクラスメイトに囲まれて「クラスの新しい仲間」という肩書きが手に入った。
　靴は重たいのに、滑り出しは好調だった。