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この世界をノックし続ける方法③
二〇二四年、一月三日 (水)
ついに、そして結局、お寺に行ってしまった。お正月3日目にして。正月期間中はお寺に近づかないでおこうと、森にまで行ったのにだ。
今日は、まず図書館へ闘病ドキュメンタリー映像を借りに行った。その帰りに、なんとなくお寺に挑戦してみようかと思ったのだった。それに、今年この家に越してきたばかりだし、一度は行っておいてもいいだろう。元旦ではないし、嫌なら来年行かなければいいし、最悪笑い話になればいい。
まず近くの駅前商店街へ、メインディッシュの前に行くことにした。いつものお気に入りの道を辿っていく。人生の道を辿るのは上手くないが、駅前までの道は、この一年で完璧だ。わざと遠回りしながら近づいていく。魚屋の前、洋食屋の前、金物屋さん。しめ縄屋さん。和菓子屋さん。一旦洞窟のような路地裏をくぐって、有名作家のお子さんが、かつて通っていた保育園。出窓に超巨大なあひるのぬいぐるみが飾ってある家、大量のガスメーターが壁に素粒子のように配列されているレンガのアパート。えげつない停め方してる自転車の家。耳がめちゃくちゃ遠いおじいちゃんがやってる生活用品店。
通りは、
シャッターが降りて、
人気が少ない。
音も、静かだ。
しんしんとした空気と静けさを顔で感じる。
引っ越してきてこの町で初めての正月の空気感。
いつもにぎやかな駅前は、静まり返って、
今日は落ち着く。
さあ心の準備はできた。戦場へ赴こう。
いざ、帝釈天へ。
商店街から、3分ほど歩くと柴又駅に着く。柴又駅の前は、新宿駅改札前くらいの人だかりだった。新宿駅の屋根がないだけだ。
人だかりに付いて歩くと、門前通りの入り口に着く。入り口のアーチ前は、ちょうど横断歩道になっている。
赤信号で止まる。反対側には人がわんさかいる。 きっと青になったら。向かい側から、花いちもんめのように、ところてんのように、こっちにやってくるんだろうなあ。青にならないで〜と思う笑。 密度としては、渋谷交差点並みだ。(幅は原宿メインストリートぐらいだ)
信号が青になり、人混みの中に突入していった。
ええい、ままよ!
とにかくゆっくりと、どれだけみちみちでも、他人に少しでも触れないように、少しでも触れると、不快になるから。ゆっくり慎重に歩いた。でも、そこは新宿と明らかに違った。
どういうことかというと、ゆっくり歩いてても、ギリギリの距離まで接近してくる人や、まっすぐぶつかってくる人はいない。お互い身体を畳み合いながら避け合う。まるで剣道か柔道か何かの武道みたいに、まずお互いが礼をして、向かい合って、軽く拳をぶつけ合ってお手並み拝見。そんな感じで避け合う体感だった。
それは、新鮮なスローモーションに見えた。一人たりとも1ミリも接触しない。お正月、誰とも会ってなかったけど、たかだかそれだけのやりとりで、人とコミュニケーションできた気持ちになって心が暖かくなった。
この街のこのお寺なら、正月は人通りが多くても来てもいいかもしれない。そのまま、大きくてゆったりした波にたゆたうように境内までたどり着いた。
だがやっぱり手を合わせる気にはならない。しょうがないので、古い建物や、行き交う人々だけ眺めることにする。
普段はない、おみくじ専用の売店ができていた。 おみくじも信じてないから普段引かないのだが、今日は引いてみた。
結果はなんと………… 、
ちょっとだけ確認して、さっとしまった…。
お賽銭も払わず、手も合わせなかったからそのせいか?
でも、なんか違うと思ったのだし、しょうがない。 帰りも門前通りを逆向きにゆっくり歩きながら、優しく人と避けあった。
そういえば、おみくじの売店前だけはタイミングよく空いていたからか、僕が売り子の巫女さんの斜め前の方向から、1枚お願いしますと唐突に声をかけるみたいになってしまったので、巫女さんは驚いて「はいっ!」と言い、同時にやべえ顔してるとこ見られた!! みたいな顔していたな笑。
そうだ、おみくじを結びに明日も来てみよう。
そう歩きながら家に帰った。
fin.
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