ポチ
「ポチお手!」
ポンッと私の小さな掌に柔らかな肉球を乗せる彼の名前はポチ。
2年前に捨てられていた時のポチは、ぬいぐるみのように小さかったものの、今では人間とさほど変わらない程に成長した。
犬種は、調べても調べても同じものが無かったため、おそらく雑種だと思う。
ポチはとても賢く大人しい。
私はポチが家の中に居ても構わなかったが、小学生の弟が動物アレルギーだったので、仕方なく庭で放して飼っていた。
庭は、鉄製の低い柵で囲まれている。
「最近、ここらへん物騒だから、防犯のこととか考えてみようかしら」
そう言った母さんの意見に家族一同賛成して、庭の低い柵を取り壊し、高いブロックの塀に変えた。
そうした理由は、最近地元で空き巣が多発しているからなのと、もう一つ。
それは、すぐ隣の町で、深夜に犬や猫が無残な姿で殺される事件が多発していたからだ。被害にあった動物は、いずれも、近くの山のふもとに捨てられていたという。
「ポチを守るためだ。外の景色とか見えなくなっちゃったけど、ごめんな……」
父さんが申し訳なさそうにポチに言った。
「クゥーン、クゥーン……」
ポチは淋しそうに鳴いていた。
今までポチは、地元のアイドルで、近所のおばちゃんや弟の小学生の友達に、鉄の柵の隙間から声をかけられ、可愛がられていた。
しかし柵が塀に変わったことで、近所の人たちも、ポチが見られなくなってとても悲しそうにしていた。
でもこれで良かったのかもしれない。
高い塀を登ることも、体の大きいポチを塀を越えて運び出すことも犯人にとって負担が大きいし、リスクも高い。
ポチはこれで安全だ。みんなも安心できる。
そう思ったのも束の間。深夜三時半頃。
「大変だよ!ポチがいない!」
弟が叫んだ。家族全員が飛び起き。庭の方を見た。ポチはいなかった。
「急いで探そう!」
弟と母さんに家の留守を頼み、警察に連絡してから、私と父さんでポチを探した。
もしもポチが死んでいたらどうしよう。
私は、ポチを探しながら、今にも溢れそうな涙をこらえていた。
ポチが死んでいるはずはない。そう思ったのにも関わらず、私は、死んだ動物たちが捨てられていたという山のふもとまで来てしまった。
ここは電灯がなかったので、私は携帯電話のライトを点けた。
しばらく歩いていると、携帯電話のライトに、2つの眼球が反射して光った。
「うわああああああああああああ!!!」
びっくりして、声をあげた。
「どうした!?」
近い場所で、ポチを探していた父さんが駆けつけてきた。
すると、反射して白く光る目が、こちらに近づいてくる。
父さんは、落ちていた長めの木の枝を構えた。
………………来る!!
「クゥーン」
犬の鳴き声がした。まさか……。
「…………ポチ……?」
そこにはポチがいた。
「よかったぁ!よかったぁ!」
私は、声をあげ、わぁぁと泣いた。
父さんは木の枝を元の場所に戻し、ポチが見つかったことを母さんに連絡した。
それから私と父さんとポチは、3人で家に帰った。
帰り道の途中、真っ暗闇だった空も、ほんの少しだけ明るくなっていた。
家に着くと、ポチが見つかったと言い、警察に頭を下げる母さんと弟がいた。
「もう、犬の管理はしっかりしてくださいよ」
警察はそう言い、迷惑そうな顔をしていたが、私は、ポチが生きていた喜びが強くて、警察に対する申し訳ない気持ちは掻き消されていた。
ポチを庭に戻す時、ふと私は不思議に思った。
ポチは、誰かに連れ去られたのか?
そうだとしたら、その人はどうやってポチを運んだのか?
そしてその人はどこにいるのか?
…………脱走したとするならば、なぜポチあの山のふもとにいたのか……何のために……?
そう思った私は、庭に入った時、ブロックの塀の下の土が、犬一匹がギリギリ通れるくらいの大きさでトンネル状に掘られているのを見つけた。
その日の朝七時頃、野良猫が無惨な姿で死んでいるのが、あの山のふもとで発見されたという。
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