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タイムトリップ・トリック


通勤中、携帯電話が鳴った。警察からだ。

エディは何事かと思い、恐る恐る電話に出る。どうやら、エディが家を出た後すぐに、何者かが自宅に侵入したらしい。

今、家には、ジョンという一人息子と、ベビーシッターがいる。

警察の話によると、ベビーシッターは殺害され、ジョンは、命に別状は無かったものの、怪我を負っていて、犯人の顔を覚えていないのだという。

エディは「すぐ家に戻ります」と言ったのち、電話を切り、Uターンをして家に向かった。

エディは、一年前に、妻を病気で亡くしていた。

今、エディの家族はジョンしかいない。それに彼は、ジョンを深く愛していた。


……ジョンが心配だ……。


不安の強さと比例して、車のスピードもだんだんと速くなる。

気づけば車の速度は、一般道にも関わらず、時速120キロを超えていた。
すると突然、エディにとてつもない衝撃が走った。彼の車は激しく回転して、逆さになった。

逆さになった車の窓から、ボディがクレーターのように大きく凹んだトラックが見えた。
トラックの運転手は、青ざめた顔でこちらを見ていた。

エディの腹部には、窓ガラスの大きな破片が突き刺さっていた。

車から抜け出そうとすればするほど、ガラスの破片が神経線維を爪引き、痛覚を刺激する。
痛みを感じる度に、だんだんと意識が遠のいていくのを感じた。


……気がつくとエディは、家の庭にいた。


自分が何故、自宅の庭に居るのか検討もつかない彼は、混乱して、わけの分からない気持ちになった。
腹部には、事故をした時と同じく、ガラスの破片が突き刺さっていた。

エディは、落ち着きを取り戻すと、とりあえず応急処置をしなければと思い、室内へと向かった。

すると、ジョンの悲鳴が聞こえた。

窓から家の中を覗くと、ベビーシッターが、ナイフで、ジョンの肩を切りつけているところを目撃した。エディは怒りに燃え、ぐっと歯を食いしばった。

再び、ベビーシッターが、ナイフを振り下ろそうとする。


「やめろー!」


エディは、そう叫びながら窓を破った。

武器が手元になかった為、腹部に刺さっていたガラスを抜き取り、それをベビーシッターの胸部に突き刺した。
アドレナリンが大量分泌されたせいか、痛みはそれほど感じなかった。

ベビーシッターは、のたうちまわったが、やがて動かなくなった。
ジョンは、殺されかけたことがショックだったのか、気を失っていた。子供にとっては、無理もないことだ。

その時、エディはまた、腹部に強い痛みを感じた。アドレナリンが切れたようだ。

ガラスを引き抜いた腹部からは、赤黝い血がドクドクと流れ出ていた。
見ていられない光景に、思わず、目を瞑った。

そして、次に目を開けると、どういうわけか、エディは交通事故を起こした現場近くにいた。道路の脇に移動された、ベコベコに凹んでいる愛車が目に映った。


「意識が戻りました!」


エディの横にいた男が叫んだ。腹部は、応急処置が施されていて、血は止まっていた。


「ああ、俺は気を失っている間に夢を見ていたんだな」エディはそう呟いた。


すると、警察がエディのもとへ駆けつけてきた。


「あんたを逮捕する」

「ああ、そうかスピード違反した挙句、事故を起こしてしまったんだから、当然だよな。」


エディは納得しているかのような口調で警察に話した。


「とぼけるなよ。ベビーシッターを殺して、実の息子まで手にかけようとした極悪人がよぉ」


警察の目は血走っていた。


「なに?どういうことだ!」


エディはその後、身の潔白を主張したが、それも虚しく終わり、拘置所まで連れていかれた。


***


「事件の現場では、被告の血痕があり、DNA検査では、99.99パーセント一致しておりーーーーまた、凶器のガラス片には、被告の指紋がーーーー。実の息子の殺害は未遂に終わり、被告はその後、車で逃走したものと見てーーーーーー。」


法廷で事件の内容を、検察官が話している。


……エディは被告人として起訴されていた。


結局、何故、時間と空間を超越した体験をしたのか、エディには分からなかった。

しかし、ひとつだけ言える事は、その出来事がなければ、ジョンは間違いなくベビーシッターに殺されていたということだ。

そうなったら、もう自分には、生きる意味は無くなる。きっと、すぐにジョンの後を追っていただろう。

…………そう悟ったエディには、後悔する余地など、あろうはずもなかった。


「被告人を死刑に処する」


裁判官の声が、法廷中にこだました。




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