見出し画像

美術館にいきたい

上野駅。
日比谷線を降りて天井の低い地下を歩き、JRの不忍口あたりに出る坂をのぼる。
直進して横断歩道を渡り、右へ曲がったところにあるビルのエスカレーターに何度か乗るとそこは上野の森美術館のすぐそばだ。
国立科学博物館方面へ歩いていくと、途中で弦楽器を演奏するアーティストがいたり、大道芸を披露するひともいる。
秋には銀杏の香りがそこらじゅうを漂っており涼しい風が吹くものの、秋特有の強い日差しのせいでじんわりと暑くなり、袖をまくって熱を逃す。
JR上野公園口からやってくる人の流れと交わるところで左へ曲がり、動物園を横目に奥に進むとそこには東京都美術館がある。
門を抜けると大きな銀色の球体が人々を出迎え、その球体を不思議そうに見回る子供たちと、その様子を微笑ましく見ている母親。
少し先には下へ降りるエスカレーターがあり、降りれば目の前が美術館の入口だ。
すぐにあらわれるショップを見たい気持ちを抑えてチケットを購入する。
そして特別展の入口でそのチケットを提示して半券を受け取り、次に音声ガイドを借りる。
金額は大体500円程度だ。
使い方を知っているかを確認され、それが終わればいよいよ芸術の世界へダイブできる。


わたしは美術館がたまらなく好きだ。
といっても昔から通っていたわけではなく、上野へ行きやすい場所に住んでいることから興味のあるものは時々見に行くようになった。
はじめは音声ガイドを利用することもなかったけれど、「バベルの塔展」で利用して以降は毎回借りるようになり、回り終えたあとの充足感が格段にレベルアップしたのを感じた。
ヘッドホンをつけることである程度外部の音をシャットダウンできるので、それだけで自ずと集中力は上がる。
音声ガイドではなかなか気付くことのできない細かい描写や時代背景、作者の環境のことなども分かり、より深いところへ入り込んでいける。
それは自分の深層にぐいぐいと潜っていくような感覚で、全く光の差さない深い深い海の底に沈んでいくような没入感。
視覚と聴覚から自分の知り得なかった情報がこれでもかと流れ込み、大きなうねりとなって勢いよく身体中を満たしていく。
そうして回り終えた頃には、ため息が出るほどの充足感で心身がいっぱいになっている。
息を吸えば吸うほど肺から全身へと満ちる、この"身体の隅々まで満ちた"感覚がたまらなく心地いい。
多幸感いっぱいのふわふわとした頭のまま、最後に物販エリアでゆっくり買い物をする。
この上ない贅沢が美術館には詰まっている。

コロナが世界中に広がりはじめて約10ヶ月、その間は全く足を運んでいない。
最後に見たのはクリムト展だった。(博物館も入れると、最後はミイラ展)
早くあの空気を吸いたい。よく行くライブや映画とはまた違った種類の、好きなものしかなく好きなものだけを好きなだけ吸える感覚をまた味わいたい。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?