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CIVILIAN「人間だもの」について

 この頃知ってとても好きになった曲に、CIVILIANの「人間だもの」がある。語句として明示的には出てこないものの、クリスマスに恋人から裏切りの告白を聞かされるというのが大筋の内容になっている。

 最初らへんの「街は今華やかな飾り付け 壊れたカメレオンみたい 場違いな僕らは」がまずとても良い。比喩として洒落ているうえ、きらきらした周囲の世界とおかしくなった「私とあなた」の世界との対比をうまく示している。ここのおかげで、のちに「私とあなた」の世界がどんどん歪んでいくときに、周りの世界との残虐な不協和音ががんがん鳴り響く仕掛けになっている。

 そして、最も良いのがサビである。ここは「あなた」が「人間だもの」と繰り返すところと、それを観察する曲中主体の思考が書かれている。1番サビの出だしは「あたし人間だもの だって人間だもの まるで人類の代表みたいにあなたが口走る」。「まるで人類の代表みたいに」。ここ以外でも「まるで自分も被害者みたいに人間だと主張している」、「まるで口にするだけで全てが赦されるかのように」「まるでリピート再生みたいに人間だと主張している」などとひたすら嫌味な描写が続くのだが、重い演奏や激しいが抑えた歌い方から、曲中主体がただ嫌な奴なのではなくて、猛烈な怒りを抑えながら「あなた」に向かっているぎりぎりの心からこうした悪意ある感想が湧き出しているところを感じられる。こうした煮えたぎるような怒りにフォーカスした曲はあまりないので貴重だし、また理性と感情が入り乱れる主体の心の有り様はとても美しいと思う。

 加えて言及しておきたいのが、「人間だもの」というセリフの扱いだ。「人間だもの」という言葉には弱さや卑小さを肯定する響きがある。ここで「あなた」が「人間だもの」と繰り返すのもそのためだ。私も自分の弱さや卑小さや愚かさを思い知らされることばかりなのでこの「人間だもの」の思想には共感するところが大きい……のだが、とはいえ人間にはそうした欠点を克服していく強さもあるはずだ。そして、そのために理性や徳や努力といった強さにこそ「人間」らしさを見出すことも可能なはずだ。さらに言えば、弱さだけを「人間だもの」として肯定するのでは、その者は強さとしての「人間」らしさをほんとうに完全に失ってしまうのかもしれない。もちろん我々は常に強くいることはできない。しかし、あらゆる弱さや卑しさを「人間だもの」で肯定してしまうような態度は切り捨てて然るべきだ、ということを突き付けているのがこの曲だと思う。

 最後に、この曲はラストのフレーズも素晴らしいのだが、そこをネタバレするのはさすがに憚られるので各自で聴いていただきたい。

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