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泥舟渡河、それでも進め沼の中 ポスト・石破に関する愚察

酩亭海松です。冒頭、プチ自慢していいですか?

こちらの総裁選の分析記事ですが、人づてに林芳正先生ご本人にお知らせいただき、読んでくださいました。林先生、ありがとうました。

いやあ、本人に読まれるなら敬称略さず林様と書けばよかったし、今思うとところどころ失礼な箇所があって反省している。

だいいち大学生のガキが天下の官房長官閣下に対して、上から目線に「分析」だなんてそもそも失礼な話で、それでもこんな乱文を「素晴らしいまとめですね♪」とお褒めいただいた先生のお心の広さには敬服しかございません。

重ね重ね、お礼を申し上げます。

さて、10月9日の衆院解散に伴う今回の総選挙。27日の投開票で自民・公明の連立与党は過半数を割る大敗を喫した。

NHK,https://www.nhk.or.jp/senkyo/database/shugiin/ (参照2024-11-4)

もし仮に11月11日の首班指名選挙で野党が大連立を組めば、あわや政権交代である。今のところ国民民主党や日本維新の会は、野田首班内閣には乗らないと聞いているので、石破茂 現総理大臣が再選する見通しだ。
しかし側近が落選し、国民からの支持も失った石破総理が政権を長期にわたり維持することは難しく、近いうちに再び総裁選が行われるという見方もある。

そうなった時、ポスト石破は誰か。
――ここでまた名前が上がるのが、我らが林芳正である。

そんなわけで3回続けて政治の話になって恐縮だが、今回は「ポスト石破」としての林芳正氏についての小見を綴っていきたい(前回記事は簡単に書くと言って1万字以上に膨れ上がってしまったため、今度こそ簡単に書く。資料の引用等は必要最低限に押えて妄想を書くつもりなので、素人のいち感想文として読まれたし)。

世事は一場の大夢

世事一場大夢 人生幾度秋涼

世の出来事はまるで夢ようだ、人生で幾度初秋を過ごしただろうか?

「西江月·世事一場大夢」蘇軾

私の好きな蘇軾の詩を引用した。残念ながら日本語に翻訳された物はないようで、私しかこの詩の話をしていないのだが、この「世事一場大夢」は「みんな違ってみんなクソ」に続く座右の銘候補だ。

政治の世界は厳しい。
一生かかっても夢を叶えられない人がいると思えば、人生を賭けて野望を成し遂げても、残酷に引きずり下ろされることだってある。

石破総理を見ていてことにそう思う。
初めに行っておくが私は彼の支持者でもアンチでもない。何せ、総理大臣としてはまだ何も政策実現をしておらず、判断材料が無いからだ。

今までも彼に対しては良い印象も悪い印象もなかったが、この点、心から同情している。総裁選で公約に掲げたことを何一つ成し遂げられぬまま、自分の意思とは裏腹にスケジュールに雁字搦めになりながらも臨んだ選挙で負け、その責任だと言って使い捨てされるかもしれないのだ。「国民に人気」とマスコミにもてはやされて矢面に立ったはいいが、火矢がびっしり刺さって火だるまになったから、もう使い物にならんねとすぐに取り替えられるようなものだ。
しかも彼はもう68歳。再起を図れる年齢ではないし、最後の戦いと宣言してしまっている。

「甘い、総理ってそんなもんだよ!それが永田町だよ!」それは御説ご尤も。
しかし、5度目の正直でやっと夢を叶えたゲルが、こんな事で早期降板を余儀なくされてしまうのはあまりに可哀想だという思いに耐えない。マスコミお得意の、露骨な「散々持ち上げて落とす」にも隔靴掻痒の感だ。

何を甘ったれたことを言ってるんだこの若造は、と思う方はここで読むのをやめていただきたい。以下も同様に、理論ではなく林支持者としての感情に重点を置いて話すからだ。

「名刀芳正」の鞘を取る時

そんな中、早くもポスト石破最有力候補と目されるのが林芳正 官房長官

現職も含め計8回の入閣経験があり、そのうち2度目の農水大臣は献金問題、文科大臣は加計学園問題、1度目の官房長官は収支報告書不記載問題と、不祥事があった時の代打として声がかかったものだ。
誕生日の1月19日にちなんでついたあだ名は「永田町の119番」「困った時の林芳正」

そんな彼が、またも代打として「総理の後任」になりそうだと言うのだ。以下、政治評論家・田崎四郎氏のテレ朝「モーニングショー」での発言。

そのうえで「来年の春、予算成立と引き替えに総理が退陣されるようなケース」も考えられると説明し、その場合は「衆院選挙が想定されない。そうすると、むしろ安定した政権運営できる人が基準になる可能性があるんで、そうしたら高市さんよりも別の人が選ばれるんだと思います」と語った。

 玉川氏が「誰ですか?」と聞くと、田崎氏は「例えば林芳正官房長官」と述べ、玉川氏が「なるほど」と応じた。

Yahooニュース,https://news.yahoo.co.jp/articles/55a1ab22e4a5fb8651a9a5da60d72b64309cdecf  (参照2024-11-5)

さすが119番、さもありなん。

確かに安定感が抜群で、実務能力も申し分ない。専門分野も幅広く、死角のないオールラウンダーだ。彼の中庸の姿勢は敵を作りにくく党内を分断させることもないだろうから、ゴタゴタしている今、後継としては最適かもしれない。

ここから先は、林芳正が石破茂の後任になると仮定して考えを綴っていく。

荒波を行く舵手として

不安募る石破外交

この記事を書いている最中、11月5日に米大統領選が行われた。

日本時間の11月6日午後17:05現在、日経の米大統領選特設サイトによれば、現在の開票状況はこのようになっている。

日経ビジュアルデータ,https://vdata.nikkei.com/us-election/2024/live/(参照2024-11-6)

残り選挙人3人を残して、ほぼ過半数の270人に達している。相当なミラクルでも起きない限りハリスの逆転勝利はありえない。次期米大統領はトランプだ。

そうなった時心配なのが日米外交・安全保障

トランプ当確で、立憲民主首班の政権交代の可能性は潰えたと言って差し支えないだろう。旧民主党の流れを汲む立憲民主党は、「普天間飛行場移設問題」「共同文書の翌年持ち越し」など政権にあった時代の問題を想起させ、外交における強い不安を払拭できていない状況だ。日米関係が同盟破棄の一歩手前まで悪化したあの時代を思い起こせば、アメリカから歓迎されないことは明らか。

次いで、現在の石破政権にも不安要素がある。ズバリ、「総裁選での公約」「総理の外交経験の浅さ」だ。とはいえ予測不能なトランプだ。案外上手くいく可能性もあるが、あくまで一般人の感覚で普通に考えてみると、やはり心もとない。

総裁選期間中、日米地位協定の見直しを公約に掲げた石破。しかしこの議論はアメリカ側に部が悪く、日米間の軋轢を産みかねず、「自国第一主義」を掲げるトランプが受け入れるとは思えない。

“アジア版NATO”について、海外の反応は冷ややかだ。アメリカ国務省のクリテンブリンク国務次官補は「時期尚早」と述べ否定。ワシントン・ポストは「ワシントンでは懐疑的な見方が多い」と報じた。

https://news.ntv.co.jp/category/international/705e61ef050f4588ba74b462f2666b7b 11/7

またアジア版NATOに関して、現在のアメリカ政府はこのとおり否定的な見方を示している。これがトランプ政権下でどのように再解釈されるのかはまだ分からないが、ポジティブに捉えられる可能性は低いだろう。

ドナルド・トランプと言えばやはり安倍晋三元首相を思い起こす。非常に仲が良かったこの二人は首脳間・日米間の外交的な関係を超え、個人的にも「盟友」とも言える親密な関係性を築いたという。

トランプが大統領になったのが2017年。対して、第2次安倍内閣の発足は2012年末のことだ。さらに第1次内閣の1年間も加えれば、外交においてトランプより4年先輩ということになる。外相経験者ではなかったが、東京五輪や大阪万博の招致、オバマ大統領の広島訪問など、手堅い首脳外交を展開してきた。このように外交に強い安倍だったからこそ、トランプとも良好な関係を構築できたのかもしれない。

対する石破は、防衛への造詣は深いが外交のイメージが無い。他にも農林水産や地方創生を得意分野とする、言わば内政向きの政治家だと見られている。加えて、前述のトランプの盟友・安倍や、麻生との関係も良くない。
そんな石破がトランプと対等に渡り合えるか、これに私は一抹の不安を抱かざるを得ないのである。

ケンブリッジ帰りの米国通

とはいえ安倍晋三亡き今、日本外交は新たな道を模索すべき時期に来たと感じる。「夫れ天地は万物の逆旅にして、光陰は百代の過客なり」というのは李白だが、人はいずれ死に、時代は移り変わる。いつまでも故人の残影を追うのは自然ではないと思うのだ。

岸田文雄 前首相もバイデンと良好な関係を構築した。石破は、林は、これに続けるか。

首相の党内基盤も脆弱かつ少数与党で政権運営が難航するであろう石破政権は、来年の参院選までには交代するだろうという見方をされている。そうなった場合、やはり次期首相本命候補は林芳正だろう。

英語が堪能で、ハーバード大ケネディスクールに留学経験のある林は、アメリカ政界に太いパイプがある。当時、彼は共和党上院議員の事務所でスタッフとして働いていたのだ。その時のコネクションで、河野太郎衆院議員、山本一太参院議員(当時)を連れて、米議会の視察に行ったこともある。愛称はヨギベア(クマゴロー)に顔が似ているのでヨギー

「林芳正(官房長官)氏になれば、ワシントンの誰もが大喜びするだろう」と、安倍元首相の伝記作家であり、多くの人が購読しているニューズレター『Observing Japan』の著者であるトビアス・ハリス氏は話す。

「彼はアメリカ議会で働いてこともあるし、彼はここに多くの友人がいる。彼は継続性のある候補者だ。岸田政権がやってきたことを望むのであれば、林氏はうってつけだ」

東洋経済オンライン,https://toyokeizai.net/articles/-/827039?page=3(参照2024-11-7)

ただのビートルズおじさんじゃないんですよ。

石破と同じく安倍晋三との関係が必ずしも良好ではなかったとはいえ、林ならトランプを相手取ってもしっかりと渡り合えるだろう。トランプが直接林を知らなくても、彼の周りに林の友人がいるかもしれないからだ。

もうひとつ、林芳正の強みは中国とのパイプだ。もはやこっちの方が有名まであるからあえて言うまい。
いずれにせよ、米中どちらとも繋がりがあるのはとてもバランスが良い。日本が置かれている複雑な状況を鑑みれば決してどちらか一方に偏ってはいけないし、バランスを取りながら双方と対話することが何より大切だ。

もうひとつ、林自身が外相経験者であるところも強い。外相在任時のよしみで各国、特にG7の政治家に幅広く顔が効く。これは様々な交渉に有利に働くだろう。いずれにせよ、外交安全保障の点から考えれば、今有力候補と目されている人物の中では、林芳正が最も適任だろうと考える。

泥舟渡河、それでも進め沼の中

それでも現に身動きが取れずもがき苦しんでいる石破茂にしろ、彼の後を継ぐことになるであろう林芳正にしろ、厳しい政権運営を強いられることは間違いないだろう。

林支持者の私もそれは覚悟しているし、だからこそポスト石破としての林首相誕生を諸手を挙げて喜べない心境でいる。今まで散々代打をさせられてきたんだから、総理大臣くらい万全のタイミングでなってほしい、と。

不記載問題も野党はまだ終わらせぬ気でいる。政治資金規正法の再々改正がありうる状況だが、果たしてそれだけで済むだろうか。政治改革への対応に余計な労力を割かれて、本当に重要な経済・外交安保・社会保障などの政策が実現できなかったとしたら、其れは勿体ないことだ。岸田政権の低支持率の要因になった、マスコミの印象操作も不安だ。火のないところに煙を立てられ、名誉毀損を受けてきた林。彼らは事実をねじ曲げてまでも粗探しに奔走するだろう。

彼のピンチヒッターとしての能力を疑う訳ではまったくない。それでも、林芳正を以てしてもこの大逆風を乗り切れるかと思うと不安だ。初当選からおよそ30年間、様々な難局切り抜け、経験を積みながら温めてきた政策なのだ。もし何も出来ずに終わってしまったら、彼の政治人生は一体なんだったのか……と言うのは失礼かもしれないが、そういう悲しい気持ちになる。

第1次内閣の時の安倍首相のようによほど若くして選出されない限り、総理大臣と言うのはその議員の政治的な集大成と言って差し支えない。
参院5回衆院2回、働き盛りの63歳。おそらく林は、次の総裁選にも出馬するだろう。前回総裁選のライバル達は、この解散総選挙で仲間を失う深手を負った。もう総裁の椅子は彼の手の届くところにある。混乱を鎮め、国内政治を安定させることができる人物は林芳正しかいない。世界も彼を求めている。

その時は私も当然一支持者として応援する。総理総裁に選出されたら喜び祝う。それでも、石破首相の疲れきった顔を見る度に、最近よく眠れていないとの噂を聞く度に、林政権に対しても絶望的観測をしてしまうのだ。この予想が外れれば良いのだが……。

林が舵を取るあの船が、宝船なのか泥舟なのか、それはまだ分からない。しかしそれがたとえ泥舟だったとしても、国内政治の底なしのぬかるみを、国際政治の荒れ狂う海原を、行ける所まで漕ぎ進めなければならない。

私は彼へ最大限の敬愛を持ちながら、それを見届けようと思う。

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