【英語版刀剣乱舞】Chogi と Chougi、 mystery な identity
この記事はDMMゲーム「刀剣乱舞ONLINE」の英語版に関する記事の第五弾ですが、また山姥切達の話になりました。単体記事ですがこれまでの流れを知っていたほうが分かりやすいと思います。
1 【英語版刀剣乱舞】写しと偽物と贋作と
2 【英語版刀剣乱舞】俺こそが「本歌」か、「山姥切」か
3 【英語版刀剣乱舞】山姥は実在するか/国広極の長尾の刀としての自負
4 【英語版刀剣乱舞】山姥切の名は俺たちの来歴の一部に過ぎない
これまでのまとめ
ソハヤノツルキ:写し→replica、fake blade
蜂須賀虎徹:贋作→fake/本物&真作→genuine/本当の→ture
長曽祢虎徹:贋作→forgery、fake、confeit/本物→real
山姥切国広:写し→copy、reproduction(手紙・修行後)、me(長期留守後)、I(回想等)/偽物→fake/本物→real
「山姥切の写し」→「a copy of Yamanbagiri」
「偽物なんかじゃない」→「not a fake」
内番の「山姥切」→「the original Yamanbagiri」
「写しは、偽物とは違う」→「Not fake. Although I am a copy」
山姥切長義:偽物くん→forgery(刀帳・手合わせ)、faker(回想)
「俺こそが長義が打った本歌、山姥切」→
聚楽第優「I am the original Yamanbagiri, created by Chogi's hand.」
通常入手&刀帳「I am Yamanbagiri, the original Touken created by Chougi's hand.」
テキストについては日本語版Wiki及び英語版Wikiにお世話になっています。一応原文に関してはできる限りスクショ等も確認するようにしています。また、今回は一部の英語版スクショをえいごばん用(@token_eigo)さんからお借りしています。(使用許可に関してはこちら ※マシュマロ主ではないです)
引用に関しては大体
のような順番で表記します。和訳はGoogle翻訳やDeepL翻訳を参考にしつつ、単語の違いが分かりやすいように直訳やカタカナ語を多用しています。あまりあてにしないでください!
刀剣乱舞における漢字の使い分け―「本歌」と「本科」
もともと刀剣乱舞ONLINEでは、同じ用語に複数の表記が使われている言葉がいくつかあります。例えば、「大阪」と「大坂」、「新選組」と「新撰組」などです。
そして、単なる表記揺れではなく、意図的な使い分けがあることがほぼ確定しているのが、山姥切国広の手紙で登場する「本科」と、山姥切長義の入手及び刀帳で登場する「本歌」です。(強調筆者)
無双や花丸の小説でも、国広のセリフでは「本科」、長義のセリフでは「本歌」と使い分けられているほか、以下の花丸のコミカライズでは、長義のセリフで「本科」が使われていたものが誤植として「本歌」に修正されました。(ちなみに二次創作でどっちがどっちを使っていても私は気にしないです)
ジャンプ+ 修正前(2023/6/28公開)
COMIC OGYAAA!! 修正後(2023/7/7公開)
模作元を指す「ほんか」の表記としてはどちらも間違いではないとされている一方、古くから使われているのは和歌の手法を元とする「本歌」、明治以降に登場するのが学校制度の用語を元とする?「本科」と言われています。
これに関して、現実の世界で山姥切国広の名の由来はもともと本科の長義(山姥切長義=本作長義)の号だろうと記述した刀剣研究家の佐藤寒山は「本科」、本作長義を所蔵している徳川美術館は「本歌」を使っています。
このため、「ほんか」表記の使い分けについては、山姥切国広は「山姥切の写し」という佐藤寒山の説をベースに顕現しているから「本科」を使っていて、山姥切長義は一見その説をベースにしていると見せかけて、それは先に顕現した山姥切国広に合わせてそう振る舞っているだけで、実態は徳川美術館の言う「山姥切国広の本歌として有名になった本作長義だが、本作長義に山姥切のいわれはない」という説をベースにしているから「本歌」を使っているのではないか? という仮説も立てられます。
この記事では、この使い分けが英語版にも反映されているかもしれないという話をしていきたいと思います。
山姥切国広の表現に自己表現をかぶせる山姥切長義―「化け物斬りの刀」から「the original Yamanbagiri」&「Chogi」へ
もともと私は、「俺が居る以上、『山姥切』と認識されるべきは俺だ」に代表される長義の主張は、厳密には「山姥切国広が模したとされる山姥切とは俺のことだ、俺こそがあいつの本歌だ」という話なのではないか? という仮説を追いかけています。(詳しくはこちら)
この可能性を英語版でさらに強く感じたという話は『俺こそが「本歌」か、「山姥切」か』でもしているのですが、特に象徴的なのは原作の「化け物斬りの刀」という表現と、英語版の「the original Yamanbagiri(オリジナル山姥切)」という表現です。
長義が回想で言う「化け物も斬る刀」という自称は、国広が本丸ボイスで自分が模した刀を「化け物斬りの刀そのもの」と表現しているのを踏まえている可能性があります。
しかし、この関連は英語版では再現できません。ボイスのみでテキストのない本丸ボイスは、英語版では訳が存在しない(※英語版の音声は日本語版がそのまま使われています)からです。国広の「化け物斬りの刀」には公式の英語訳が存在しないのです。
このせいで消えてしまった共用表現を別の箇所で表現したのではないかと思われるのが、国広の内番台詞と長義の聚楽第「優」入手時(通称:監査官入手)の「山姥切」の訳「the original Yamanbagiri」。
「the original Yamanbagiri」というのは、一見「山姥切の写し」に対して「山姥切」を「オリジナル山姥切」と訳すことで「本歌」であることを強調しただけのようには見えます。しかし、監査官入手の長義は、原作では刀帳や通常入手時と共通していた「俺こそが長義が打った本歌、山姥切」が、英語版ではわざわざ違う文章に訳し分けられていて、「the original Yamanbagiri」を使うのは監査官入手時だけという特徴があります。
つまり、「本歌(original)」に関する英語版長義のデフォルトの自己紹介は「the original Touken created by Chougi's hand(長義が打った本歌)」で、監査官入手時の「the original Yamanbagiri(本歌山姥切)」はイレギュラーということになります。
そして、これは私がずっと見落としていたことなのですが、英語版の中では山姥切長義のキャラクター名など「長義」のデフォルト英語表記には u ありの「Chougi」が使われていますが、山姥切国広の修行の手紙2通目で「長義の刀」には u のない「Chogi」が使われていて、同時に監査官入手の長義だけが、「the original Yamanbagiri」と共に国広の手紙と同じ「Chogi」も使っていることが判明しました。
このことから、u なしの「Chogi」が国広が言う「本科」としての長義、u ありの「Chougi」が長義が自称する「本歌」としての長義を表しているのではないか、と考えたわけです。
その場合、日本語版とは違い英語版では長義も「本科」を使っていることにはなります。しかし、前述のとおり監査官入手の長義の台詞は通常とは異なる訳に差し替えられているため、監査官として入手した長義は「あいつが言っていた山姥切というのは俺のことだよ」という主張をより鮮明に打ち出すために、わざと国広が使う表現にかぶせているのではないかと考えることができます。
もちろん、「Chogi」が単なる誤字の可能性がないとは言い切れません。しかし、1カ所ではなく2か所、しかも揃えて変える理由が十分に考えられる箇所です。そしてそれ以外にも、私が「Chougi」と「Chogi」を誤字で終わらせられなかった理由があります。
英語版における使い分けの反映―「りいだあ」と「りーだー」
漢字表記ではないですが「似たような言葉の表記違い」が英語版にも反映されていると考えられる例として、回想58『すていじ あくと1』における「りいだあ」と「りーだー」があります。
それこそ表記揺れかな? と思ってしまうような微妙な違いなのですが、意味があるのかないのかが気になって英語版を確認してみたところ。
「りいだあ」に当たると思われる「Leader」は、文頭・文中(コンマの後)を問わず大文字で始まっています。これは「肩書き」を表現する大文字の用法と考えられます。
それに対して「りーだー」はというと
「りーだー」に当たる訳は、文頭とも言える「Leader」こそ大文字で始まりますが、その次はコンマの後で「leader」と小文字始まりになっています。これは、「恋人」を「honey」と呼ぶような、愛称的な用法ではないかと考えられます。
つまり、「りいだあ」は「江のリーダー」という肩書を表しているから「Leader」で、「りーだー」はそんな豊前江に篭手切江が愛称的に呼びかけているから「leader」なのではないかというわけです。
これ自体も細かすぎて本当に翻訳への反映なのか? と悩ましいところではあるのですが、全てきっちり理由づけできるところで変えてきているという意味で、私にとっては英語版の翻訳の工夫を感じるポイントになっています。
回想タイトルの訳し分けと共通性の回収
上の記事の『「呪い仲間」「猫斬りと山姥切」のタイトル訳について』で詳しく触れている内容に関連しますが、回想54~57の山姥切国広、南泉一文字、山姥切長義がそれぞれペアになって登場する一連の回想タイトルの訳にも、かなり工夫が伺われます。
54『呪い仲間』→Two Kinds of Curse(2種類の呪い)
55『猫斬りと山姥切』→Cat Slayer and Yamanba Slayer(猫殺しと山姥殺し)
56&57『ふたつの山姥切』→The Two Yamanbagiri(2つの山姥切)
『呪い仲間』が『Two Kinds of Curse(2種類の呪い)』になることで、55と56&57からなくなっていた共通性(山姥切→Yamanba Slayer/Yamanbagiri)が、54「Two」によって回収され、山姥切の二振りの話には南泉一文字のいる回想も外せないという雰囲気が保存されています。
直接の訳文で表現できなくても、重要なニュアンスはどこかで再現されている。これは、最初の英語版記事のソハヤノツルキの顕現セリフや刀帳などからも感じることです。
正体不明の監査官―his identity is mystery
長義が実装されたイベント、最初の特命調査である「特命調査 聚楽第」は、後続の特命調査に比べて異質な所の多いイベントです。監査官が直接本丸にやってきて特命調査への参加を促すこと(後続の特命調査はすべて『入電』から始まり、通信傍受によって参加が要請されます)。本丸側の男士が極めているかどうかによって回想タイトルが変わること。回想に『任務達成』がないこと。
そして、監査官自身に関する情報が全く開示されないこと。
他の特命調査では、歴史改変の具体的な内容と調査員や監査官が深く関わっており、イベント自体で刀剣男士に関する話が語られます。しかし、聚楽第の監査官はそれが一切ありません。
そのせいか、評定「優」を達成できず、長義を入手できずにイベントが終わった場合、こんのすけは監査官についてこう言います。
監査官に関する情報が開示されない中で、それを匂わせる『監査官と写し』『監査官と極めた写し』という回想タイトル。回想内容がほとんど変わらないにも関わらずタイトルが違う理由として考えられるのは、写しは本科を「山姥を斬った刀」だと記憶しているが、極めた写しは、その記憶が絶対ではなく、本科が「山姥を斬った刀」とは限らないと知っていること。
I am the original Yamanbagiri, created by Chogi’s hand.
(俺は本科山姥切、長義の手で創られたものだ)
I am Yamanbagiri, the original Touken created by Chougi's hand.
(俺は山姥切、長義の手で創られた本歌だ)
I must say, his identity is mystery.(彼は一体、何者なのでしょうか)