2022年9月に読んだ本
1 ネルノダイスキ『いえめぐり』★★★☆☆
超ヘンテコハウスに内見に行く漫画。この人の漫画は独特の世界観で、他にない。
2 川勝徳重『アントロポセンの犬泥棒』★★★★☆
前作『電話・睡眠・音楽』がよかったので新作出てたのかということで購入。(今野書店の地下1階潰れちゃったね。。)現代が舞台なのに劇画調の絵柄が癖になる。そして帯の背表紙に書かれている「構造を撃て!」という台詞が素晴らしい。そう、我々が撃たねばならないのは構造なのだよ。
3 蜆シモーヌ『なんかでてるとてもでてる』★★★☆☆
ちょっと前の現代詩手帖賞受賞者の第一詩集。
タイトルから分かる通り全編ひらがなが多く、性的なモチーフもよく出てくる。が、朝バナナのような精液。偽物っぽいという意ではなく、臭さや汚さ、生々しさがない性という意。私が書くともっと臭ってしまう。好みではないが王道で正統派な詩人だと思う。
4 沼野充義・沼野恭子編訳『ヌマヌマ はまったら抜けだせない現代ロシア小説傑作選』★★★☆☆
現代ロシア小説の短編集。ある夫妻が罰として引き取った知恵遅れの〈レーニン〉が大暴れする「馬鹿と暮らして」が一番衝撃的だった。いったい自分は何を読んだんだ? 突拍子もないようなものも多くそちらも面白いが、そうじゃないものもそこそこ面白い。が、全体にそこそこ。一冊の本の中でのまとまりはまるでなさそうだし、この作家の作品をもっと読みたい!もっと読ませろ!みたいなのも正直なかったかな。でもこの翻訳者夫妻の仕事にはお世話になっている。これからも読むことがあるだろう。
5 イーユン・リー『もう行かなくては』篠森ゆりこ訳★★★★★
イーユン・リーの長編、第三作かな。過去作と比べると長編の中では一番読みやすい。設定で過去作と大きく異なるのは、中華系アメリカ人が出てこないことと、舞台がアメリカとヨーロッパであること。毒舌に格言を織り交ぜながら自分の人生を紐解く老女の語りが凄まじい。生まれながらにして肝っ玉母さんのようなその女は、昔の男とその男との間に生まれた娘、三人の夫、昔の男とその男を取り巻く二人の女、すべての死者を見送ってきた。避けられない喪失と抱えきれない悲しみをどのように飼い馴らせばいいのか、つまり人生とは何かを教えてくれる壮大な小説。もう過去作で十二分に分かってはいたつもりだが、今作を読んで改めて思った。イーユン・リーは間違いなく天才。短編の方が面白いし才能があると思っていたが、長編もここまでのものが書けるのか。もうこの世にこの作品を送り出してくれたことに感謝するしかない。こんなものが書けてしまう才能とその受難に幸あれ。
6 内田也哉子『ペーパームービー』★★☆☆☆
19歳の内田也哉子が書いたエッセイ集。19歳らしい素朴で純粋な透明感はよいけど、私は特に、特別な何かは感じなかった。ただ母も父も夫もすごいよね。濃ゆくて。
7 藤本和子『イリノイ遠景近景』★★★★★
岸本佐知子さんが帯を書いていたので購入。面白い。縁も所縁もなければそもそも周りに何もない異国のド田舎に移り住み暮らす逞しさに元気が出る。出てくる人すべてに自分と会っていない時間の生活があるという、その肌触り。本作はエッセイだが、ルシア・ベルリンの小説にも通ずるような面白さがある。
今月少なかった。そしてまた遅くなった。来月こそはもう少し早く書こう。