2021年6月に読んだ本
2021年6月に読んだ本
1 ジャレド・ダイアモンド『人間の性はなぜ奇妙に進化したのか』
長い間読みたい本リストに入っていたのだが、角川武蔵野ミュージアム(紅白でYOASOBIが歌ってたデカい本棚があるところ)に行った際に見かけて今度こそ読もうと思いAmazonで購入。
人間の性がいかに他の動物と比べて変わっているかを解説した本。ユーモアのある書きっぷりがよかった。
ヒトの男性は一度に二億個の精子を放出する。ここ数十年で精子の数が減少していると言われるが、それが正しいとしても、少なくとも数千万個にはなる。妻が妊娠している二八〇日間、夫が二八日おきに放精し――ほとんどの男性にとって容易な頻度である――、仮に精子を一個ずつ受精させることができるとしたら、世界中の繁殖能力のある女性二〇億人のすべてを妊娠させることができるほどの精子をばらまけるのだ。
なんか面白い。精子を一個ずつ受精させるという仮定が無茶すぎる。
なぜメスは「第二夫人」という運命を受け入れるのだろう。生物学者たちが従来推測してきたところによると、第二のメスがその運命を受け入れるのは、たとえ放っておかれるにしても、優れたオスの配偶者になるほうが、劣悪な縄張りをもつ冴えないオスの唯一の配偶者になるよりましだからだということだった(人間の社会でも、同じ理由から裕福な既婚男性の愛人になる女性がいる)。しかし実際には、メスはその後の運命を承知のうえで第二のメスになるのではなく、オスにだまされているだけだということがわかった。
これもなんか面白い。「劣悪な縄張りをもつ冴えないオスの唯一の配偶者」そこまで言わなくても…って感じのパワーワードだ。
記録によると史上最も子だくさんの女性は、生涯に何と六九人の子供をもうけた(十九世紀のモスクワに住んでいた女性で、三つ子を数多く出産した)という〔ギネスブックに記載されている〕。
へえ。豆知識。
こんな調子で続いていく本である。
2 金原ひとみ『アンソーシャル ディスタンス』
金原ひとみの新作短編集。西荻窪・今野書店で購入。
出版社勤務の女、バンドマンの彼氏、整形に狂う女、従順で犬のような年下の男、誰にも本性を見せず嘘を吐きまくるサイコパスな女、何を考えているかまったく分からない夫、、という具合に設定は金原作品毎度おなじみのもの。金原ひとみはもっと違う設定の主人公の話は書けないのだろうか。書けないというか書く気になれないのかな。とは思うものの、やっぱり好きだ金原ひとみ。文体が好きなのだと思う。異常なほど解像度が高く、かつ内省的。思考回路にかなり近いものを感じる。今回の小説で一番過去作と違うのは整形やオナニーのディテールが細かすぎるぐらい書き込まれている点だと私は思う。
虚しさを抱きつつオゾン加工された私の血液を点滴で戻してもらっている途中、体の端々に温かさを感じた。酸素が末端まで行き渡っている証拠なのだろうか。そう言えば、以前吸収率が高いというジェル状のビタミンCを飲んでいた時にも、温かさを感じたことがあった。ビタミンCも抗酸化作用が強いというから、抗酸化的なものに触れた時体が温かくなるのかもしれない。あのジェルのビタミンCもまた取り寄せよう。強烈に不味いし、一日百円ほどの値段になるから続けられないなと一旦やめたが、肌トラブルが減ったし、トーンアップを感じていた。今だったら一日百円など全く惜しくないし不味さなんて脂肪溶解注射の痛みに比べれば屁みたいなものだ。そう思いながら、ジリジリと減り続けている自分の口座の中身を思い出す。ヒアルロン酸が一本五万、イオン導入や点滴が毎回一万程度、脂肪溶解が一回三万、血液クレンジングが初回二万で二回目からは二万五千円。それなのにこれからもダウンタイムが取れさえすれば水光注射、フォトフェイシャルなんかも試してみたいと思っているし、あの山岡さんをトイレで間近で見た時から、鼻筋と唇へのヒアルロン酸注入も本気で検討し始めていた。
このクンニは下から撮るべきだったと後悔しながら、ローションをクリトリスに塗りたくるとウーマナイザーのスイッチを入れる。購入当時は吸引力に驚き、嘘っぽいレビューにあるようなすぐイってしまう現象に驚いたけれど、本物のクンニと比べるとやっぱり物足りない。立て続けに三度オナニーをした性器は敏感になっていて、蓮二と立て続けに二度、三度とセックスした時のひりつくような余韻を思い出す。ローションで密着したシリコンの中でクリトリスが吸引され、そこにレベル三まで強さを上げた振動が追い討ちをかけてくる。入れて、と言う私を無視して蓮二はクンニを続ける。ウーマナイザーに足りていないのは加熱機能ではないだろうか。ここ数年の挿入系アダルトグッズに付帯し始めたこの機能を、ウーマナイザーに搭載すれば、より本物のクンニに近づくはずだ。ドイツ製の高級ウーマナイザーを見つめ、私はオナニーが終わったらこのメーカーに加熱機能を搭載するべきだというメールを書こうと考える。ドイツならきっと英語でも大丈夫だろう。
無理な人はもうほんとに無理だと思う。この生々しさ。すごい。リアルすぎる。お金の計算とか商品の改良とか、ああこういうこと考える、分かる、と思う。
3 平岡直子『みじかい髪も長い髪も炎』
歌集である。西荻窪・今野書店で購入。
あとがきがまず信用できる。
二十代はさんざんだった。
思えば十代はもっとさんざんだったし、その前はさらにもっとさんざんだったけれど、その頃はただ大人になりさえすれば何もかもよくなるのだと思いこむことができた。抑圧から逃れることが他の抑圧の傘下に入ることだなんて思いもしなかった。今のわたしは二十代の半ばに裾をピン止めされたまま限界まで伸びているゴムのようなもので、どうしてまだちぎれていないのかもよくわからない。
深い孤独と他者への強く儚い希求、いちばん純粋な気持ちは殺されるたびに美しく生まれ変わる。また読み返したいよい歌集だった。
三越のライオン見つけられなくて悲しいだった 悲しいだった
4 東山彰良『どの口が愛を語るんだ』
西荻窪・今野書店でタイトルと帯に魅かれて購入。
4つの短編が入っている作品集なのだが、どれも味わい深くてよい。振れ幅のある題材をこんなにさらっとバランスよく書けてしまうのってすごい。
5 亜蘭トーチカ『順風満帆』
大学の友人の友人の漫画。吉祥寺・バサラブックスで購入。
つげ義春の系譜にいる作風。絵がよい。知っている人もちょこちょこ出てくるのがウケる。溢れんばかりの自己愛を抱えて親の脛を齧りながらモラトリアムを引き延ばす、ひと昔ふた昔前の大学生みたいな大学生だなと思う。
6 中澤系『uta0001.txt』
5月に読んだ『はつなつみずうみ分光器』で紹介されていて気になったので購入。新宿の紀伊国屋にあった。
3番線快速電車が通過します理解できない人は下がって
いや死だよぼくたちの手に渡されたものはたしかに癒しではなく
生体解剖されるだれもが手の中に小さなメスをもつ雑踏で
かすかなるもののまひるまゆるゆるとまわる扇風機のまんまえの
かみくだくこと解釈はゆっくりと唾液まみれにされていくんだ
上記引用は歌集冒頭の5首。非常によい。今まで読んだ歌集の中でも間違いなく片手に入ってくるくらいよい。好きだ。
7 染野太郎『人魚』
これも『はつなつみずうみ分光器』から、新宿の紀伊國屋書店で。
中澤系の後に読んだため、めちゃめちゃ霞んだというのが正直な感想。怒りの歌に魅かれて買ったのだが怒りの歌はあんまり多くなかった。
8 絲山秋子『ばかもの』
吉祥寺・古書防波堤で購入。
主人公の大学の同級生の女友達と「想像上の人物」がこの物語にどう効いているのかちょっとよくわからなかった。早い話が「いらなくね?」と思ってしまった。文体のリズム感がよくさーっと読めてしまうけど内容はちょっと陰気臭すぎるかな。
9 山田航『桜前線開架宣言』
『はつなつみずうみ分光器』の姉妹本。新宿紀伊国屋で購入。
はつなつ~の方が文体が好きだった。こちらの方が歌が多く載っている。はつなつ~にも載っていたのにこちらではじめて気になった歌人もいた。気になったのは野口あや子、岡崎裕美子、兵庫ユカ。
10 和山やま『女の園の星』
デビュー作はネットでも単行本でも読んでいたのにこちらはなぜか手を出すのが遅くなった。西荻窪・今野書店で購入。
めちゃめちゃ面白い。早く続きが読みたい。
11 今橋愛『O脚の膝』
はつなつ~と9の桜前線~で紹介されていた歌人。ちょうど書肆侃侃房の現代短歌クラシックスで復刊したところだったので購入。吉祥寺・古書防波堤にて。
ひらがなが多くて行変えが新鮮。ひらがなのせいかぜんぶかわいく聞こえる。
そこにいるときすこしさみしそうなとき
めをつむる。あまい。そこにいたとき
12 ヴァージニア・ウルフ『波』
待望の新訳、とのこと。新宿紀伊国屋で購入。
今まで読んだウルフ作品の中で一番好きかもしれない。難解だがリズムがよく、すらすらと読んでいける。以前ヴァージニア・ウルフのよさを自分はまだあまりわかっていないと書いたが、ウルフの一番のよさは文章のリズムのよさなんだと思う。本書でもバーナードにこう言わせている。
リズムこそが書きものの生命だからな
これはたぶん物凄い作品なんだろうことはわかった。でも自分はまだそのよさの半分もわかっていないと思う。
13 ふみふみこ『女の穴』
知人がいいと紹介していたのでAmazonで購入。
ふみふみこ読んだことなかったのだよね。絵が思ったよりかわいらしい。短編集なのだが、絵柄も相まって登場人物がみな純朴に見え、刺激的なタイトルの割にはほっこりする。他の作品も読んでみようかなと思った。
今月はあまり読めなかったので歌集や漫画で冊数を稼いだ。来月もどんどんいい本と出会っていきたい。