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Pineapple Poker におけるOpen Rangeの考察

要約

 本noteではPineapple 6maxのOpen Rangeを考察した。Wizard of Oddsのシミュレーション結果から、3枚の中から捨てる1枚の選び方やハンドランクを整理し、UTG~COに関してはNLH同様のハンドレンジ表を作成した。結果からNLHのオープンレンジよりもPineappleのレンジは狭まることが分かり、またいくつか問題点が挙げられた。


はじめに

 近年、No Limit Hold'em(以下、NLH)以外のMixed Gamesと呼ばれるポーカーの認知度が世界的に高まってきているように思われる。例として2019年度と2024年度のWSOP参加者数を比較すると、"$600 "$1,500 H.O.R.S.E."のエントリー数は751E→835E、"$1,500 Pot Limit Omaha"は1,216E→1,469E、"$1,500 Limit 2-7 Lowball Triple Draw"は467E→574Eなど、複数のイベントでエントリー数が増加している。
 その中でPineapple Poker(以下、Pineapple)は、大型大会で競われることはあまりないものの、NLHに近いルールのために敷居が低く、アミューズメントカジノやサークルでプレイされることの多い種目である。
 しかし、Pineappleの先行研究は国内外ともに少なく、NLHのように戦略が確立されていない。本noteでは先行研究の結果を分析し、Pineappleのオープンレンジについて考察を行う。Pineappleプリフロップ戦略の仮構築によってポストフロップ戦略やExploitability研究の実現可能性を高められる点で、このnoteは意義があると考える。
 本noteは筆者個人で執筆したものであってダブルチェックや査読等がなされていないため、内容の信憑性が疑われるだろう。御了承の上、御一読願いたい。

研究方法

分析対象

【2024, ”Pineapple”, Wizard of Odds】

 上記のサイトでは、Pineapple 6maxのフリップアウト(但し、各々バリューが最大化されるように1枚捨てる)をナッシュ均衡となるまで繰り返し(6,610,500,000回のシミュレーション)、1 unit賭けた時の"Expected Return"(以下、ER)を表にまとめている。損益分岐点はERが1となるときである。
 本noteではその結果をERの高い順に並べて、ハンドランク表やオープンレンジを作成する。

【GTO Wizard】

 レンジを考える際はGTO Wizardを参照した。Wizard of Oddsのシミュレーションが6maxであり、またPineappleはトーナメント形式で行われることが多いことを考慮し、MTT ChipEV 8max Avg.100bb(with limps)のプリフロップレンジのうちUTGとUTG+1を省いたものを参考にする。

用語について

・Singleton(シングルトン):ペアにならないカード

 Pineappleのスターティングハンド(カード3枚)は8つに大別することができる。
・Three of a Kind:スリーカード(AAA、KKK…)
・Pair without Suit Penalty:ペア&異スートのシングルトン(AsAhKd)
・Pair with Suit Penalty:ペア&同スートのシングルトン(AsAhKs)
・Three Suited Singletons:モノトーン3枚(AsKsQs)
・Three Unsuited Singletons:レインボー3枚(AsKhQd)
・Three Singletons-Lowest Two Suited
 :シングルトン3枚、ランクの低い2枚が同スート(AsKhQh)
・Three Singletons-Outside Two Suited
 :シングルトン3枚、中間のランク1枚が異スート(AsKhQs)
・Three Singletons-Highest Two Suited
 :シングルトン3枚、ランクの高い2枚が同スート(AsKsQh)

○表記上の注意
・Three of a Kind → AA(A)
・Pair without Suit Penalty → AA(Xo)
・Pair with Suit Penalty → AA(Xs)
・Three Suited Singletons → AKs(Xs)
・Three Unsuited Singletons → AKo(Xo)
・Three Singletons-Lowest Two Suited → 、T9s(Xo)、AKo(S)
・Three Singletons-Outside Two Suited → AJs(Xo)、AKo(S)
・Three Singletons-Highest Two Suited → AKs(Xo)
 プリフロップ前に捨てるカードを括弧内に表している。
 括弧内のXはA~2の任意の数字である。但し、例えばAA(Xo)のXはAを含まず、AKs(Xo)はAとKを含まない。
 "Three Singletons-Lowest Two Suited"と"Three Singletons-Outside Two Suited"のについては、各シングルトンのランクによってスーテッドハンドにするのか、オフスートハンドにするのかが変わるため(詳細は下述)、捨てるカードをXで表すことができないのでSと記している。

結果・考察

各ハンドの確率

 レンジ構築の前に、各ハンドの配られる確率を計算した。ハンドの組み合わせ総数と先述した各グループのハンド数を算出して確率を求めると以下の結果となった。

ハンドの組み合わせ総数…22100
 Three of a Kind…52(約0.24%)
 Pair without Suit Penalty…1872(約8.47%)
 Pair with Suit Penalty…1872(約8.47%)
 Three Suited Singletons…1144(約5.18%)
 Three Unsuited Singletons…6864(約31.06%)
 Three Singletons-Lowest Two Suited…3432(約15.53%)
 Three Singletons-Outside Two Suited…3432(約15.53%)
 Three Singletons-Highest Two Suited…3432(約15.53%)

 その他の確率は、後に挙げる分析結果の「ハンドランク(上位~%)」の欄に記載する。

GTO Wizardのレンジについて

 GTO Wizardのプリフロップレンジについて、各ポジションのオープンレイズ頻度を確認しておく。繰り返しになるが、設定はMTT ChipEV 8max Avg.100bb(with limps)で、そのうちLJ以降のレンジをみる。

UTG(LJ):Raise 2.3 21.8%
HJ:Raise 2.3 27.9%
CO:Raise 2.3 36.3%
BTN:Raise 2.3 55.9%
SB:Raise 4 9.9%, Call 78%, Fold 12.1%

 Pineappleのオープンレンジを考える上でNLHのプリフロップレンジの特徴は捉えておく必要があるので、素人ながら個人の見解を示す。
 MTTはレーキが無くアンティは有るので、全体としてオープン頻度はCashに比べて高い。一程度スーテッドコネクターやワンギャッパー等の投機的なハンドをオープンしていることは100bbとEffective Stack(ES)が深いことのあらわれであろう。COやBTNはPosition EVが高いため特にオープン頻度が高い。ブラインドヘッズではアンティの影響でBBのディフェンス意欲(モチベーション)は高くなり、またESが深い故、レイズしても多くのCallが想定されるSBはポラライズしたレンジで高いオープンサイズでレイズしている。ただ、SBはRaise 100%の純粋戦略をとることはなく、プレミアハンドをも一定の割合でリンプすることでリンプレンジを守る。これによってSBの参加頻度を高くし、BBからのスクイーズに対するコールレンジを弱体化されていないものにし、リンプ3betのレンジ構築を可能にする。

Pineapple 捨てるカードの選出方法

 Wizard of Oddsのシミュレーション結果から、一番ERが高くなるようなカードの捨て方を定める。

・Three of a Kind
 任意の一枚を捨てる。
 例)AsAhAd→AsAh(Ad)

・Pair without Suit Penalty
 全てポケットペアにする。
 例)AsAhKd→AsAh(Kd)

・Pair with Suit Penalty
 全てポケットペアにする。
 例)AsAhKs→AsAh(Ks)

・Three Suited Singletons
 ランクの高い二枚を残す。
 例)Ac8c5c→Ac8c(5c)

・Three Unsuited Singletons
 ランクの高い二枚を残す。
 例)KhTd9c→KhTd(9c)

・Three Singletons-Lowest Two Suited
 ハンドによって変化する。後述。

・Three Singletons-Outside Two Suited
 ハンドによって変化する。後述。

・Three Singletons-Highest Two Suited
 ランクの高い二枚を残してスーテッドハンドにする。
 例)AsQsJh→AsQs(Jh)

 "Three Singletons-Lowest Two Suited"と"Three Singletons-Outside Two Suited"はハンドによって捨て方が変わる。下の箇条書きはそのまとめである。
 例として"Lowest Two Suited"の「A: KQs, QJs, JTs, T9s, 98s (AKo~ATo)」に着目する。これは、3枚のうち羅列されたスーテッドハンド(KQs, QJs, …)をつくることができる場合、ランクの一番高いカードを捨ててスーテッドハンドとなる2枚を残せということであり、AsKhQhという3枚が配られた場合はAKoでなくKQsを残し、AsKhJhの場合はKJsが羅列されていないのでAKoの形にする(Jhを捨てる)。"Outside Two Suited"についても同様であり、AdJc8dはAd8dを残し、AhKsThはAhKsを残す。
 羅列されたスーテッドハンドもしくは括弧内のオフスートハンドをつくることができる場合はERが1以上、できない場合はERが1未満である。

・Lowest Two Suited
A: KQs, QJs, JTs, T9s, 98s (AKo~ATo)
K: QJs, QTs, JTs, J9s, T9s, T8s, 98s(KQo~KTo)
Q: JTs, J9s, T9s, T8s, 98s(QJo)
J: T9s, T8s, 98s
 
・Outside Two Suited
K: AQs, AJs (AKo)
Q: AJs, ATs, KJs, KTs (AQo, KQo)
J: ATs, A9s, A8s, KTs, K9s, QTs, Q9s (AJo~QJo)
T: A9s~A2s, K9s, K8s, Q9s, J9s (KTo)
9: A8s~A2s, K8s
8: A7s~A2s
7: A6s~A2s
6: A5s~A2s
5: A4s~A2s
4: A3s, A2s
3: A2s
※K7s(Xo)はERの平均値が1未満であるので省略。

Wizard of Oddsの分析結果

 ERが1以上のハンドを列挙し、ERの高い順に並べた。また、そのハンドの組み合わせ、累積相対度数、ハンドランクを記載した。
 ハンドの表記方法に関しては、「研究方法」の「用語について」に詳しく記している。

ERは小数第四位を四捨五入、ハンドランクは小数第三位を四捨五入

・一番強いハンドはAA(Xo)
・ERが1以上であるハンドの中で1番弱いハンドはA5s(Xs)
・総ハンド数22,100のうち、ERが1以上のハンドは8,804である(ERが1以上のハンドは上位39.84%)
・66~22はER1未満
・ブロードウェイオフスートハンドのうち、QToとJToはER1未満
・スーテッドコネクターのうち87s~はER1未満
・999〜222はER1未満
・"Three Suited Singletons"のうち、ERが1以上になるハンドはAKXs〜A8Xs、A5Xs、KQXs〜K9Xs、QJXs、QTXs、JTXs、T9Xs

 ER1以上のハンドをレンジ表に示すと下の様になる。GTO WizardのLJとCOのオープンレンジを添付して比較する。

Wizard of Odds ER1以上のハンド レンジ表
LJ Open Range (MTT ChipEV 8max Avg.100bb(with limps))
CO Open Range (MTT ChipEV 8max Avg.100bb(with limps))

 GTO Wizardのオープンレンジと比較すると、投機的なハンドはNLHよりPineappleレンジの方が少ない。また、COのオープンレンジは全体の36.3%であるのに対してPineappleは39.84%であるが、その範囲はNLHの方が広い。これはNLHよりPineappleの方が強いハンドをつくりやすいことを示している。AAの配られる確率を比較すると、NLHは0.45%であるのに対してPineappleは1.32%であることからも、それは明らかだ。

Pineapple Open Range

 Wizard of Oddsの分析結果から、6maxにおけるUTGからCOのハンドレンジ表を作成する。但し、オープンレイズ頻度はNLHのGTO Wizardと類似させる。

・UTG

上位22.10%

・HJ

上位27.87%

・CO

上位36.38%

Open Rangeの問題点

・BTN、SBのオープンレンジを作成できていない
 ER1以上のハンドのみではBTN、SBのオープンレンジをつくることができなかった。解決法として、
○ブロードウェイのシングルトン持ちの66~
○スートペナルティがなくストレートをブロックしていないシングルトン持ちのKxs、スーテッドコネクター、Qxs
○3枚とも異なるスートのKTo, QTo, JTo
等のハンドもレンジに組み込むことで高いレイズ頻度を保つことが挙げられる。また、オープンサイズを大きくすることも方法の一つとして挙げられるだろう。

・Board Coverageを考慮できていない
 全体的にレンジがハイカードに偏っており、ローボードの時にエクスプロイトされる可能性がある。Board Coverageを考えて87s以下のスーテッドコネクターや66以下のポケットペアをレンジに含めることとレンジの平均勝率を高めることを比較して、どちらの方が必要性が高いのかは研究する余地があるだろう。筆者としては、PLOのオープンレンジの考え方を援用することで解決できるかもしれないと考える。

・ハンドレンジ表では捨てたカードを表せない
 「Pineapple 捨てるカードの選出方法」などから、捨てたカードが自分のフラッシュやストレートをブロックしていないのか、相手のハイカードをブロックしているのかによってERが変化することが分かる。これはNLHのBunching Effectのように重要な要素であり、これをハンドレンジ表に反映することができていない点は問題である。「Wizard of Oddsの分析結果」の表照合してオープンレンジを緻密化することが必要である。

・低ESの時のハンドレンジを考えられていない

さいごに

 これまでで、GTO WizardやWizard of Oddsを分析し、捨てるカードの選び方やオープンレンジについて考察した。結果から、多くのプレイヤーがルースにプレイしていることが示唆される。オープンサイズを高めたり3bet頻度を増やしたりするエクスプロイト戦略が効果的となるのではないだろうか。3betレンジやブラインドヘッズのリンプレンジ、ポストフロップ戦略など、研究の余地は大いにある。
 万が一誤字脱字・内容の誤りがあれば随時更新する予定である。

(2024/12/31 公開、「Wizard of Oddsの分析結果」更新)

文献

・”2019 World Series of Poker results”, WIKIPEDIA, https://en.wikipedia.org/wiki/2019_World_Series_of_Poker_results
・”2024 World Series of Poker results”, WIKIPEDIA, https://en.wikipedia.org/wiki/2024_World_Series_of_Poker_results
・2024, ”Pineapple”, The Wizard of Odds, https://wizardofodds.com/games/pineapple/

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