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【アニメぼっち・ざ・ろっく!批評】Who is the music for?【1981文字】

表現は孤独だ。
表現をしたい衝動そのものは誰にも伝わらないし、何かが伝わったかなと思ったら自分の意図とは全く違うものだったりする。
表現をすればするほど断絶を感じたり自分が何か大きくズレてるんじゃないかと思う事なんて日常茶飯事。
でも、それでいいんだ。
表現に限らなくたって人間の意識は孤独だし、意図が伝わってなくてもその人なりの解釈で勝手に成長したりする。
気づいたら各々の目的を持って仲間が集まっていたり、その仲間の音に合わせてみたくなったり、合わさった音でいつの間にか誰かの目的が達成されていたりする。
自分や誰かが勝手に救われてたりする。だから、それでいい
本作ではこのような“表現の孤独“が肯定されていると感じました。

 後藤ひとりの音楽観は利己的なものに終始しています。
音楽をする目的もそうですし、結束バンドとしての合わせの練習にも作中では全く参加していません。
加えて彼女は呆れる程に受け身でネガティブ思考で、進んで誰かと共に何かをしようとはしません。
やりたい事があっても誰かからのアクション待ちだし、何かをする何かが起きる度に基本的に悪い方向に想像をする。バンドに参加したのもステージに立ったのもその他何かをしたのも大体が「やりたくなかったけど断れなかったから」で説明されてしまいます。
それでもステージに立つ中で、他人のライブに参加する中で、自分が成したい事を再発見してそれに身を委ねる事で結果的に聴く人の心を動かす演奏をし、その演奏でバンドを導いていきました。

メンバーはそれぞれが何かしらの目的を持ってバンドに参加していますが、それを共有し合って「みんなの目的を叶える為に頑張ろう!」という流れは彼女らには無く(少なくとも後藤ひとり視点では)、気づけば後藤ひとりの利己的なはずの音楽によって勝手に目的に近づいていきます。

そしてその“後藤ひとりの音楽“というものもまた、路上ライブを行った事、廣井きくりやSICK HACKの音楽を聴いた事で何を指導されたわけでもなく彼女が勝手に受け取って勝手に成長していました。

事象だけで見ると、学園祭ライブが成功したのもメンバーの目的に近づいて行っているのも全て後藤ひとりが独りでに聴き独りでに育ち独りでに奏でた結果だと言えるでしょう。
一応ライブの成功には喜多ちゃんによるリカバリーが要因としてありましたが、あれも誰かがリカバリーの方法を教えたわけではなく、教わったギターの腕に彼女自身が元から得意だった事が乗っかったに過ぎないのでこれも言ってしまえば独りでに行われた事だと言えるでしょう。

私は、人を引惹きつけれるような演奏は出来ない。
けど、みんなと合わせるのは得意みたいだから

喜多郁代/『ぼっち・ざ・ろっく!』

 “誰かの為の音楽“なんてそもそも出来なくて、自分の為に奏でた音楽が偶然誰かの心を動かしたりその人の為になっているだけ。
本作の音楽観はそういうものであったように思います。
でも、音楽は自分の為でしか無いんだけれども、気づいたら各々が他のメンバーの何かに惹かれてたり魅力を引き立たせてたり、“音楽という自分の能力を勝手に発揮する事で“力になりたいと思ったり。
根源的な繋がりは無いのに、無いはずなのに、各々の自分による自分の為の音楽で1つの群を成しているのが彼女達結束バンドでした。

ほらな、音楽は人と人を繋ぐんだよ!

後藤直樹/『ぼっち・ざ・ろっく!』


学園祭ライブで流れた最後の劇中歌「星座になれたら」の歌詞やタイトルも、「星座になろうよ」「私達星座だよね」みたいな他者との気持ちの交流や共有を前提としたものではなくあくまで独白のような、他者と繋がる事が願いだったとしてもその願いの中には自分の意識しか観測しえないように歌っている為、この音楽観を投影しているように思います。

君と集まって星座になれたら
夜広げて 描こう絵空事
暗闇を照らすような満月じゃなくても
だから集まって星座になりたい

『星座になれたら』



おわりです。
新しい作品にも目を向けて批評をしようの試み第一弾としてそこまで構えずに見始めた本作でしたが、学校が絡むガールズバンドものにしては硬派な音楽観というか、バンドという繋がりよりも表現の本質的なことに軸を置いて描かれていたように感じて面食らってしまいました。

いつもは以下のような批評ポリシーを冒頭に置いているのですが

今回は一口批評的にサクッと読めてサクっと書けるものを目指したので長々とした前置きを省いて書いてみました。
今後批評の数を増やすにあたって今回のようなサクっとシリーズが増えてくるかもしれません。今回は放映終了後から追ったので遅れてしまいましたが特にそのシーズンのアニメ批評なんかは。
またシーズンの切り替わり時期なんかに投稿すると思うので、ふと思い出した時にでも見に来てくだると嬉しいです。

▼前回の批評


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