いのこたこたこ
大根をむき、前日に残したじゃがいもの煮汁とトマトを一緒に煮て、朝の一品にする。
むいた皮はいつもラッキーのためにとっておく。
流しの中に、おや、多足のムカデ?かな?
茶を淹れようと側に来た長女が、息を殺して瞬きもしない。
「どこから来たのよ」と言いながら大根の皮でつかんで、ビニールの袋に入れ窒息死、ごみ箱へ。
ア~ア。今日は殺生をした。なむあみだぶつ。
長女は次女にその報告をしているようで、ボソボソ聞こえる。
よかった。次女ならギャーっ。オカアサ~ンと卒倒しかねない。
何ということだ。
虫も住まないところには、人は住めないよ。
一緒に生きているんだからね、とブツブツ。
いつも虫やカエルが出てくるとこんな調子だ。つかれる~。
そういえば、日曜日の枝おろしの時はモジャモジャと身体を茶色で覆った毛虫がのそりと降りてきた。
オーっ、「どんな蝶になるのかな、お前は」と声をかけつつ、シッシッと追い立てた。
こんなところを見せたら、また大騒ぎだ。
私がまるで異界の人間かという目で見られる。
田んぼも側なので、敷居にはさまってミイラになっているアオガエルなどは日常茶飯事だが、黙として語らず、つまんでポイっと捨てる若干、74歳。
蛇は虫唾が走るが草を取っていると、ミミズも出てくる。
太い節のあるミミズなどは、
「ア~、土を肥やしてくれるね」などと言っているが、長いものはやはりちょっと気持ちがゾヨッと来る。
レンガの間からは小さいアリが行列をなして出てくる。
ジゴクを掘り出して、ムニュとしたヌシを探したものだ。
その後あの虫はどうしたか忘れた。
蟻地獄を掘るときは「いのこたこたこ、あずきまんまかせっからこ〜い、こ〜〜い」
あずきまんまは食わせなかったけど、「いのこたこたこ」は見つかり、手の中で転がして遊んだなあ。
当時薬のない時は膀胱炎の薬として飲んだという。
ミミズも飲んだし、れっきとした生薬を使っていた知恵というものを使っていた。
知識より知恵だ。が、知識がないと知恵も使えない。
鳥、獣、草、木、花。
生きとし生けるものすべて、お互いを必要としていることかな。