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控訴審の日の話

割引あり

●控訴審(2024.10.2)

「あと5分後に出発」担当さんが食器口を開けて教えてくれた。所内で「有料洗濯」要はクリーニングに出した一張羅のスーツに袖を通した。

部屋を出る時は靴下を脱いで足の裏を見せる。近所の住人が前に指示されていたのを思い出して裸足で待った。出廷係の方に「番号、氏名」と訊かれて「1378番、大久保です」と返す。言われる前に両足の裏を見せて、口の中もあんぐりとご覧頂き「OK」を賜った。

ズボンと上着のポケットをまさぐられるが、脱衣はない。証人尋問で2泊3日滞在した別の刑務所では出廷前に全裸にされたし、3年いた京都拘置所もパンツ一丁、シャツ一枚まで脱がされた。手の平と甲、左右の耳の穴までしげしげと見られたのも伝統なのだろう。意義はよくわからない。ゴム手袋をはめて服の上からボディチェックをされた京都は、汚物扱いされているようで萎えもした。汚れたゴザの上に座るのも、時代劇の悪人みたいでがっかりした。

大阪拘置所はいかんせん、巨大だ。何千人収容しているか知らないが、そんな細かいことをやっては業務が回るまい。合理的で嬉しい。ただ、サンダル、ここで言う草履の裏を確認する必要性はあるのだろうか。凶器を隠すには不向きだろうし、そもそも持っていない。

疑問を頭に浮かべながら「連行用」と書かれたエレベーターに乗る。①、②、③、④と仕切られて、檻まで設置されている。築浅なので全く揺れない新型だ。1階で言われるがままに右に左に進み、万一逃げた時の手配写真を撮って出廷ホールに並ぶ。膝下までズボンを下ろしてポケットの中身を再びチェックされてから手錠と腰縄を打たれる。2人まとめて前後に連結される電車ごっこみたいな人たちもいた。

「私語はしない」とか「よそ見するな」と注意事項を告げられてバスに乗る。「フランス落とし確認」と謎のテプラがドアに貼ってある。先に停まるのは青緑の入った「なにわ」ナンバーの大型バスだ。大阪から「当たり屋が来たらしい」と学生時代に食堂でメシを食っていたら地元の人らが恐れていたのもなにわナンバーだった。威圧感が漂う。1人か2人しか被告人が乗らない京都は、ガラガラのマイクロバスだった。奥から詰めるよう指示されてほぼ満員になった。

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