No.17 ミラーセラピーによる運動主体感の向上

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【なぜこの論文を読もうと思ったか】

・担当の患者さんが強い幻肢痛を訴えられ、切断側の関節運動が困難となっている。
・また幻肢を随意的に動かすことができ、動かすと疼痛を訴えられる。
・薬剤でのアプローチもしているが、なかなか効果がないためミラーセラピーを用いてアプローチしてみようと思い、その効果とメカニズムを学ぶため。

【背景】

・幻肢痛は、切断された四肢からの求心性入力の喪失による一次体性感覚野および運動皮質の再編成を伴うと考えられている。
・ミラーセラピーの鎮痛効果は、適切な感覚運動閉ループの回復と多感覚の視覚固有受容統合によるものと考えられている。
・切断者は、切断された四肢への運動命令の後に、視覚的なフィードバックは生じない。
・ミラーセラピーでは視覚的フィードバックが可能。
・本研究の目的3つ。
 ①幻肢に対する主体性と所有感の感覚がミラーセラピーによって影響を受けるか。
 ②幻肢痛がミラーセラピーによって緩和されるか。
 ③主体感、所有感、幻肢痛の関係を調べる。
・ミラーセラピーは幻肢に対して主体感の向上と、幻肢痛の緩和に効果がある。主体感と所有感の間の正の相関関係、主体感の向上と幻肢痛の緩和には相関関係があると仮説を立てた。


【方法】

参加者
・上肢切断の日本人成人9名
・参加者全員が幻肢があり、随意運動が可能。
・5名は幻肢痛があったが治療は受けていなかった。
・ミラーセラピーは15分間受けた。

調査項目
・幻肢痛に影響を与える可能性のある因子を制限するため、うつ病と統合失調症について問題ないと判断するため、SDSとSPQ-Bを行った。
・身体所有感の正確性を測定するために、心拍数カウントテストを行った。
・ミラーセラピーの前後で、8項目で構成され5段階で評価する質問票を用いて、幻肢の所有感、主体感、幻肢痛について測定した。


【統計解析】

・3つの複合変数(所有感、主体感、幻肢痛)の内部一貫性を評価するために、クロンバックのアルファを用いた。

クロンバックのアルファとは
ある特性に対して複数の質問項目があり、回答の合計値を特性尺度として用いるときに、各質問項目が全体として同じ概念や対象を測定したかどうかを評価する信頼係数。
0〜1までの値で、1に近づくほど信頼性が高い。
https://bellcurve.jp/statistics/glossary/1274.html

・ミラーセラピーの前後の3つの複合変数の違いを調べるために、対立仮説の証拠を定量化した。
値の平均差についてベイズ仮説検定を行った。

・ベイズ因子が5の場合観測データは、対立仮説では帰無仮説よりも5倍高いことを表す。
・3より大きいベイズ因子は対立仮説の実質的な証拠
・1〜3は対立仮説の弱い証拠
・0.333〜1は帰無仮説の弱い証拠
・0.333より小さいベイズ因子は帰無仮説の実質的な証拠

対立仮説とは
帰無仮説に対立する仮説(H1)
差がある、関係があるなどの意味を持つ。
http://jspt.japanpt.or.jp/ebpt_glossary/japanese_syllabary.html
ベイズ仮説検定とは
データに物事が起こる確率とデータ同士の関連性を加味して分析する。
データが不十分でも。
「ある事態が発生する確率」を最初に設定する。(事前確立)
その後、実際の観測データで補正して(事後確率)、本来起こるであろう事象の確率を導き出す。
https://www.otsuka-shokai.co.jp/words/bayesian-analysis.html
https://ai-trend.jp/basic-study/basic/bayesian-statistics/

・3つの複合変数間の相関を調べるために、ケンドールのタウを使用し、ミラーセラピー前後の3つの複合変数の差異についてベイズ順位相関分析を実行。

ケンドールのタウ
順位間の相関計測に用いられ、相関の強さを表す。複数のデータ間の関連性の強さを表す。
https://ja.wikipedia.org/wiki/ケンドールの順位相関係数


順位相関係数とは
数値に順位をつけて相関関係を調べる。
https://www.youtube.com/watch?v=d11axZm2u6c
https://support.minitab.com/ja-jp/minitab/18/help-and-how-to/statistics/basic-statistics/supporting-topics/correlation-and-covariance/a-comparison-of-the-pearson-and-spearman-correlation-methods/


【結果】

内部一貫性
・ミラーセラピー前のクロンバックのαは、所有感(0.805)、主体感(0.944)、幻肢痛(0.923)
・ミラーセラピー後のαは、所有感(0.946)、主体感(0,880)、幻肢痛(0.759)
・以上から内部一貫性は十分であった。

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質問票の結果
・主体感のスコアがミラーセラピー後に増加した。ベイズ因子は3.813(対立仮説によって支持)
→ミラーセラピー前後で差があった。

・所有感スコアは僅かに増加。ベイズ因子は1.867(弱い対立仮説により支持)

・幻肢痛スコアは僅かに低下。ほとんど差はなかった。ベイズ因子は0.325(弱い帰無仮説により支持)

3つの複合変数の相関
・前後の差異の間に弱い相関が認められた。
 主体感と所有感:タウ=-0.123、ベイズ因子=0.425
    主体感と幻肢痛:タウ=0.307、ベイズ因子=0.736
 所有感と幻肢痛:タウ=0.277、ベイズ因子=0.661

【考察】

・ミラーセラピーが幻肢に対する主体感を一時的に高める可能性があることを示唆しているが、所有感は主体感と同じ程度に高めることはできない。
・ また、ミラーセラピーは幻肢痛には効果がないかもしれないが、長期のミラーセラピーは痛みの緩和と主体性の獲得につながる可能性があることも示唆している。


【臨床につなげるために】

・今回の論文では、治療を受けるほどに幻肢痛を訴えている患者が対象ではないため、臨床での患者と比較することには注意が必要。
・運動主体感を向上させることはできることが分かったため、ミラーセラピーを用いて疼痛が生じない範囲で運動を繰り返しても良さそう。
・しかし、担当患者さんは切断した足は自分で動かせると言われており、所有感と主体性は高いと思われる。どちらかというと、疼痛が生じるのが怖いから運動が怖いという発言をされるため、さらに評価を続け、患者さんにあった治療方法を考えていくことが重要。


読んでいただきありがとうございました。
初めての統計分析が出てきたためインターネットで検索しながら書きました。

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