見出し画像

従業員のライフ・プラン、ファイナンシャル・プラン、キャリア・プラン

「経営が厳しい中でも給与は同業他社並みには出しているのだが、なぜ辞めてしまうのだろう...」
「従業員の育成は大切だと分かっているが、時間も予算も限られている...」
「最近、従業員の仕事に対する集中力が低下しているように見える...」

中小企業の経営者の皆様で、このような悩みをお持ちの方も多いのではないでしょうか。
そうした従業員の定着や育成の課題は、従業員一人ひとりが描く将来への期待と、会社が提供できる機会や環境とのミスマッチから生まれているのかもしれません。

会社と従業員の関係は、単純な労働と賃金の交換だけではありません。会社や経営者に経営ビジョンや事業計画があるように、従業員にもそれぞれ、ライフ・プラン、キャリア・プラン、ファイナンシャル・プランがあります。
今回は、皆様の従業員が考えているであろうファイナンシャル・プランやキャリア・プランについて、理解を深めていただくためのポイントをご紹介します。


ファイナンシャル・プランニングとは

個人あるいは家族が今後どのように暮らしていくのかという思いや計画のことをライフ・プランと言います。
ライフ・プランを考える際には、将来の大きな出来事(ライフ・イベント)の時期を設定し、そのために必要な費用を見積もり、現在の資産+今後の貯蓄でそのための資金を蓄えていく計画を持つことが重要です。

ライフ・プランを実現するために必要な資金額とタイミングを把握したら、次のステップは具体的に将来の収入・支出・資産推移を見積もり、長期的な資金計画(ファイナンシャル・プラン)を立てていくことです。これをファイナンシャル・プランニングと言います。

日本FP協会が公表しているファイナンシャル・プランニングの手法

日本FP協会では各世代向けにお金と生活設計にまつわる金融教育用冊子を作成しています。製本された冊子は有料ですが、PDF版は無料で公開されています。例えば、中堅層向けには「くらしとお金のワークブック ~FPと考える生活設計~」があります。

中堅従業員の立場から見た将来設計のポイント

ファイナンシャル・プランの基本 ー 収入と支出について

収入について:
まず、従業員が収入について正しく理解することが重要です。
従業員にとって最も重要なのは、手取り収入(可処分所得)の見通しですが、給与・賞与から所得税・住民税・社会保険料が源泉徴収された結果の金額が振り込まれるので、収入額面と手取り収入の関係を正しく理解していない場合もあります。

給与収入から所得税・住民税・社会保険料が引かれた後の可処分所得の見込みを基に、従業員は基本生活費の支出や将来に備えた貯蓄の計画を立てます。

支出は以下のように区分されます。

(1) ほぼ毎月同じように支出する基本生活費・住居関連費
(2)  個人・家族の生活パターンにもよるが、年間で見ればだいたい見積もれるクルマ関係費・通常教育費・保険料・レジャー/交際費等
(3) ライフ・イベントの際に発生する多額の支出

[経営者の方へのポイント]
従業員の収入や生活設計に関する不安や期待は、現在の給与水準だけでなく、将来どうなるかの予測が大きく関係しています。昇給の基準や賞与の考え方を明確にすることで、従業員はより具体的な将来計画を立てることができます。

人生の大きな支出:
支出の中でも重要で見積もりが難しいのは上記の(3)の支出です。これには以下のようなものを挙げることができます。

  • 結婚関係費用

  • 出産・子育て費用

  • 教育費(幼稚園~大学の進学プランで大きく変わる)

  • 住宅購入(資金計画やローン返済のシミュレーションが必要)

  • 老後資金(リタイア後の年金収入見込みや生活設計により変わる)

  • 医療費(突発的な病気や介護費用への備えだが、見積もりはかなり困難 - - 保険対応の検討)

[経営者の方へのポイント]
これらの支出に関連する福利厚生制度(住宅手当、育児支援など)や退職金制度は、従業員の生活の将来設計に大きな影響を与えます。

キャリア・プランの重要性

FP協会のモデルでは、将来支出を見積もる方法についてはライフ・イベントごとに詳細に説明されています。一方、将来収入については結婚・子育てや定年などを理由とした退職時の大きな収入変化以外は、あまり詳しく書かれていません。しかし、収入がファイナンシャル・プランに大きな影響を与えるものであることは言うまでもないことですし、しっかりした前提を持って見積もるべきものです。そのためには、キャリア・プランを考える必要があります。

キャリア・プランを考える際のポイントとして以下のことを挙げることができます。

  1. 自分のキャリアについて長期的な視野を持つ

  2. 目標を明確に設定する

  3. スキルアップと学び直しの重要性

  4. 幅広いスキルや経験を持つことで、キャリアの選択肢を広げる

  5. 定期的な振り返り、必要な修正を加える柔軟性

従業員の立場では以下のような観点でキャリアを考えていることでしょう。

  • 自身の市場価値を高められるか

  • スキルアップの機会があるか

  • 将来のキャリアパスが見えるか

  • 仕事と生活の両立が可能か

[経営者の方へのポイント]
会社の成長戦略と従業員個人のキャリア目標を結びつけることで、双方にとって価値のある関係を築くことができます。


これからの時代に求められる企業の対応

基本的な取り組み

まずは従業員との対話を通じて、従業員の声を聞くことです。以下のような取り組みから始めることをお勧めします。

  •  定期的な1on1ミーティングの実施

  • キャリア面談の制度化

  • 社内での学習機会の提供

専門家との連携

より効果的な支援のために、以下のような専門家との連携をご検討してみてください。

  • 社会保険労務士:人事制度の設計・運用支援

  • ファイナンシャルプランナー:従業員向けセミナーの実施

  • キャリアコンサルタント:キャリア研修の実施

人生100年時代の働き方を見据えて

リンダ・グラットン氏の『Life Shift 100年時代の人生戦略』では、長寿化する社会における企業の課題として、以下のような指摘がされています。

  • 従業員のキャリアの移行を支援する

  • マルチステージの人生を前提とした人事制度を整備する

  • 従業員の仕事と家庭の変化に柔軟に対応する

  • 年齢だけでなく、経験やスキルを重視した評価を行う

[経営者の方へのポイント]
人生100年時代において、従業員は一つの会社で同じキャリアを続けるのではなく、複数のキャリアステージを経験することが一般的になると言われています。そのような時代の変化を見据え、柔軟な人事制度や支援体制を整備することが、人材の確保・定着において会社の強みとなります。


最後に ― できることから始めましょう

人材の定着と育成は、給与水準だけで解決できる問題ではありません。従業員一人ひとりの人生設計に寄り添う視点を持ち、対話を重ねることが重要です。
 
まずは以下のような取り組みから始めてみましょう。

1.従業員との対話機会を増やす
 ・普段の会話の中で将来の希望を聞く
 ・定期的な面談の機会を設ける

2. できる支援から始める
 ・社内での学習機会の提供
 ・外部セミナーへの参加支援
 ・資格取得支援制度の検討

3. 専門家に相談する
 ・現状の課題整理
 ・具体的な施策の検討
 ・制度設計のアドバイス

人事制度の専門家である社会保険労務士の活用をお勧めします。

いいなと思ったら応援しよう!