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『「トランスジェンダーと性別変更」(批判的)読書メモ』
『岩波ブックレット トランスジェンダーと性別変更』の(批判的)読書メモです。メモでしかないのですが、解説を書くかどうかは、後ほど決めます。多分、書かないのではないかな。
はじめに
1. 不妊手術の強要というものの不当性は、あり得ないほど酷いので、お金の問題ではないし、お金の問題だというような言及の仕方により、不当性の酷さが格下げされて見える書き方は、適切ではない、と思う。
2. 不妊手術の強要がまだ続いていることは、陰茎切断の強要に、明らかな形で残っている。その点は指摘されて然るべきだ。つまり、そうであるので、不妊の強要は、まだ事実上、続いている。
3. そして、不妊の強制が、女性として登録される方にのみ、適用になっていることについての考察は、必須だろう。
4. 正直、性同一性障害というタームを使うかどうかには、そんなに重要性はないと思う。日本的には、脱病理化したからと名前を変えても、「疾患扱いしている」のに変わりはないからだ。
5. 正直、私は研究者だと言われると、研究者として対するので、こういう指摘の仕方になるのだけれど、「倫理学者」と言われると、余計に問題を感じる。ポジショナリティの問題。
6. 岩浪ブックレットという媒体で、エクスパートが書いたから信じろというメッセージを直接書くのには、かなり違和感がある。
1章
7. 野宮さんが、性同一性と性自認は「同じ意味の言葉です」と書き切ったことをリスペクトする。相変わらず、書き方には隙がないし、文章が美しい。
2章
8. 「性同一性障害の治療」という書き方で、中身が何かを書かないことは、余計な心配を生むように思う。また書かなかったのはなぜか。
9. たまたま好きになった相手がトランスで結婚した場合には、「互いに支え合おうと誓い合って結婚する夫婦」より「もっと気楽」という比較をした書き方には、傷つく人が居そうだ。
10. 子なし要件に関しては、職業や役職のために、戸籍を見る可能性がある人に、守秘義務が課されにくいという、日本のコンフィデンシャルフォーム使用の不徹底さ、について問題にするのが良いと思う。
11. グリムさんの話はとても良い話なんだけれど、高校の生徒たちが「素直」だという評価をするより、グリムさんの他の生徒との関係性や、他の生徒の認識に則した、現実な判断を生徒たちはしていた、という評価の仕方をした方が、事実に即しているし、説得であろう。
12. 個人的には、論理的にではなく、感情に訴える仕方で、文章を終えるのには違和感がある。論理的な整合性に則って記述してきた事実と齟齬をきたすし、感情論として読み手が引き受けるのを避けたいため。
3章
13. 谷口さんも、相変わらずブレない。隙もない。
14. ただ、谷口さんにもう少しだけ特例法について書き加えてもらって、その後に、特例法についての解説を具体的な例を用いて書く章(事実上2章として掲載されているもの)を持ってきて、人権問題としての特例法の欠陥を具体的に指摘した方が、効果的だったのではないかなと思った。どちらが先か難しい選択であったことは理解する。
4章
15. 同性が好き、異性が好き、に続いて、「両方好き」というのは、相変わらずの「誰でも好きになる」という誤解を生みやすいので、避けてほしい。
16. コンバージョンセラピーは、効果がない上に、人権問題的に国際的にはバンになっていることを、そのまま書いたら良かったのではないかと思う。(谷口さんのところにサラッと書いてあったかもしれないし、なかったかもしれない。未確認。)
17. Uはともかく、Xが性別の選択として既に法的にも存在する国が増えていることへの言及は、私は欲しいし、効果的と思うけれども、あえて外したか?
18. (はじめに、において) 医者は、職業的に研究者であるし、中塚さんが大学勤めであることも、研究者という役割を強めているから、研究者としても紹介した方が良かったのではないかと思う。
19. 字数制限のせいとはいえ、名称変更の流れが「障害ではなく医療を必要とする状態と考えること、すなわち脱病理化と言われます」だと、むしろ説明として分からないままになる可能性が高いので、削除した方が読者の誤解のスペースを減らせたと思う。
20. 性自認に近い概念、という書き方も、政治的な判断か?
21. 中塚さんが指摘する必要はないかと思うけれど、AFAB、AMABが使用に注意を要する概念であること、つまり不用意に使うと差別的になることは、誰かどこかで指摘しておいた方が良いと思う。実際に、研究者でも、ニュートラルなので使用可な概念と思ってやばい使い方してしまっているのを既に見た。
22. 性別不合のところに、明らかな誤植。「性自認と身体の性の不一致ではなく」?
23. 定義の変化に言及するなら、論理的に、experienced genderとgender identityの違いに言及せざるを得ないと、私は思う。
番外1. (22と23の間の位置) 医者が、診断書を出せと学校が行ってきたのでやってきた患者に渡す書面に、診断書を持ってくるのは不当だとか、不適切だと一筆書く、というのを皆んながやれば、現場は変わると思う。
番外2. (続き)医師でありトランスジェンダーのケアに携わる医師を中心とする学会の長が「治療をするかどうか、どこまでの治療をするかを決めるのはトランスジェンダー本人です」と書き切った点については評価すべき。
24. 論文ではなく、啓蒙書なんだし、性器の部位の呼び方には、英語ではトランス本人たちの感受性に配慮した、一般的な名称とは異なるタームの使用が配慮して行われていることについて、もう少し周知されても良いのにな、と思う。
25. 専門の生殖技術の具体的な方法を書きたくなるのは分かるけれど、本の趣旨としては、実際には不妊手術が不要になったトランス男性ではなく、まだ強要されている(という事実それ自体の解説も欲しい)トランス女性にとって、ホルモン投与の結果生殖機能が失われることについて膨らませてほしかった。
おわりに
26. 執筆者4人+編者は、かなり似た考え方を持っている、という記述の方が精確であるし、違う考えの持ち主だと主張することが、なぜ彼らがベストであることを論理的に帰結するか、私には理解できない。
27. 特例法の問題点は、差別や排除がいたるところで起きてしまっているような、ヘテロノーマティブでトランスノーマティブな社会の帰結なんだから、法は改正されて、しかし、社会には問題がある、という論理展開は、順番として逆だと思う。
以上。
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