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【連載小説】クマムシモビルスーツ①

開発に30年。
熊谷武蔵は人生で最大に緊張している。
22歳で入社し、このプロジェクトが始まったのが25歳のとき。
定年の足音が聞こえ始めてきた。
今日ようやく日の目を見る。
クマムシモビルスーツ『クマビル』!!

今日はクマムシモビルスーツ『クマビル』の完成お披露目パーティーだ。
どんなにこの日を待ち望んだことか。
チームのメンバーの目には歓喜の色が…
そう、全く見えない。
むしろ、淀んだ目をしている。
不安に押しつぶされそうな、今にも泣きだしそうなそんな目つきだ。
「クマビル、受け入れてもらえるでしょうか?」月野が言った。
月野は私よりも一回り歳は若いが、彼も入社2年目からずっとこのプロジェクトに参加している。
有名国立大学、理学部出身の彼は大変優秀で名前の中に『クマムシ』が入っているからという理由だけで配属が決まった自分とは雲泥の差である。
月野もツキノワグマっぽいという人事の軽いノリで配属が決まってしまったらしいが、とても能力が高く、最も信頼できる同志だ。
不安がる月野に向け、僕は精一杯強がるしか無かった。
「信じよう、物は良いのだから。きっと分かってもらえるはずだ。」
そうだ、私たちにできることは信じること、もはやそれしかなかった。


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