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「秋葉原を救った男/The Man Who Saved Akihabara」

※The English version is provided after the Japanese text.

※この作品は2025年1/17(金)~2/2(日) に開催される
ニュー新橋ビル・秋葉原駅前商店街主催のイベント
『ソウゾウする商店街 しんばし×アキバ 擬人化トレカラリー2025』
エキシビションのために書き下ろしたものです。
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 今日も秋葉原に、プリオがいた。
 電気街口の時計塔に寄りかかり、スマホを操作していた。プリオというのはもちろんあだ名だ。昔は「プリンスおじさん」と呼ばれていた。それがいつの間にか縮まった。
「よう」
 声を掛けるとプリオはスマホから顔を上げ、人なつこく笑った。
 ゴマシオの短髪、広い額に貼り付いたゲジゲジ眉毛、垂れた頬、その野暮ったい顔に似合わない銀の細縁メガネ、不精なクマのようなずんぐり体型を、サイズの合っていないネルとデニムに包んでいる。
 このむさくるしいオタク中年がなぜプリンスと呼ばれるようになったか。その理由を知った人は必ず、彼を二度見してから、笑う。
 その容姿は、かの国……日本の近隣のとある独裁国家の、君主の長男つまり「王子」に、あまりにもそっくりなのだ。
 つまりは、そもそも本物からして、いかにもアキバにいそうな容貌ということになる。彼のせいで、本物の王子までが滑稽に思えてしまう。そこがこいつの面白ポイントなのだ。
 ずんぐりむっくりの体にいつもリュックとカメラと同じ紙袋を抱え、パソコンやゲームを物色したり、コンカフェ嬢とチェキを撮ったり、窮屈そうにラーメンやカレーをすすったりしている姿を、この界隈ではしょっちゅう見かける。その姿は秋葉原の風景にあまりにも自然に溶け込んでいる。
 アキバ仲間は彼の話題になると半笑いで言う。
「似てるどころじゃない、本物だよきっと」
 もちろん誰も本気でそうは思っていないはずだ。まさか、この男が、プリンスだなんて。僕だってちっとも、信じていなかった。この日までは。

「話ってなんだよ」
 僕が聞くと、彼は少し照れくさそうに言った。
「君は、友達だよね」
「いきなりなんだよ」
「ボクはずっと一人ぼっちだった。けれどここに、アキバに来るようになって、友達がたくさんできたんだ。ボクの好きなものと好きな人がたくさん集まっている、ここは素晴らしいところだ」
「今日はいったいどうしたんだ、プリオ」
「特に君は親切だった。いろいろ教えてくれたし、PCも直してくれたよね。とても感謝している。あのさ、ちょっと長い話になる。おごるよ」
「やっぱりおかしくなったのか!? 君がおごるなんて」
 彼は僕を先導して歩き、ラジオ会館裏の自販機で缶コーヒーを2本買うと、1本を僕に投げ、慣れた調子でガードレールに腰掛けた。定番の居場所だ。
 おごってくれたのは缶コーヒー1本だった。やはりこんなやつがプリンスのわけがないよ。
 プルタブを開けコーヒーを飲む僕を満足そうに見ながら、彼は話しはじめた。
「ボクについての噂、知ってるよね」
「噂?」
「ボクが本当は王子様だってやつ」
 はは、と僕は力なく笑った。
「自分から言うこともあるんだな」
 この話題、本人の前ではしないほうがいいと僕は思っていた。
 そもそもプリオ自身は肯定も否定もしていないのに、この噂のせいで「嘘つき」呼ばわりされることを、気の毒に思っていたくらいだ。
「あの話、実は本当なんだ」
「おいおい」
 僕は困ってしまった。こういうことは他人が言うから笑えるわけで、自分で言い出したら洒落にならない。 
「君には、本当のことを話しておきたいと思ってね」
 もしかしたらこんなふうにいろんな人に話してるのだろうか。この後、金を貸してくれとか言い出すのか。
 僕は少し警戒しながら、そっけなく返した。
「そんな大事なこと、こんな場所でペラペラ喋って大丈夫かい」
「ああ、こういうところのほうがいいんだよ。ボクはいつも盗聴されている。屋内にいると、どこでも、なんらかの方法で会話が盗み聞きされてしまうんだ」
「冗談だよな? 君のことを盗聴って、いったい誰がそんなことするんだよ」
「日本国と、そしてボクの国、両方だ」
 僕がなんとかこの場を笑いでおさめようとしているのに、彼はあくまで真面目な調子だった。
「ボクはこの国の政府からは当然マークされている。でも出入国はかなり自由だ。その後の移動もね。ボクの国と日本国は正式に国交を結んではいないから、そんなことはありえないはずなんだけどね。ボクはわざと泳がされているってことだ」
 僕は黙っていた。
「娯楽の無い国から、放蕩息子が遊びに来ている、そう思われているんだね。そんなボクの存在は、日本政府にとっては都合がいいんだよ。ボクがこの国を出入りしている限り、ボクの国は日本国にあからさまに敵対したり、攻撃したりは絶対にできないからね。ボクは自主的な人質みたいなものなんだ。だから日本国は、ボクをあえて自由に遊ばせてくれている。ただし、何をしているかは、しっかりと見張っている。ボクには常に5、6人の監視がついている。ほら、今だって。……君、そっと、見てみろ。そのビルの入口に立ってる、そうミニスカの制服の子だ」
「あの子? お店のチラシ配ってるだけだろ」
「あの制服は近隣のどの店のものでもない。それにあの子、あんな格好をしてる割には目つきが鋭すぎると思わないか」
「そんなふうには見えない。普通の子じゃないか」
「手に持っているスマホは、高性能の集音マイクだ。それをこちらに向けている。まあ、これだけ離れていたら話の内容を捉えるのは……」
 そこから、彼はいきなり手をメガホンのように口元に当てて叫んだ。
「おーい、無理だよ、お嬢さん。その距離からそんなマイクでボクの声は録れないぜぇ」
 目を丸くしてこちらを見ているその子は、どう見ても普通のコンカフェ嬢だ。
「アキバの街じゅうに監視カメラが設置されたのはボクのせいだ。政府じきじきの指示だろうね。ボクの移動を追ってボクの最寄りのカメラが順繰りに起動してボクの行動を記録する。ただね、公安も、防衛省も、たかをくくっているだろう。独裁国家のバカ息子が、たまたまアニメやゲームが大好きで、それでしょっちゅう来日しているんだ、と。そう思っているはずだ」
「僕にもまったくもってそう思える」
 独裁国家の、バカ息子。後者だけはその通りだろう。アニメやゲームが大好きな、そして働く必要のない、バカ息子。まあそういう身分のことを王子様と言っても、いいかもしれない。
 彼は続けた。
「そこが狙いだ。ボクはバカ息子のふりをして、調査を続けていたんだ。ボクはアキバだけではなく、ディズニーランドとかUSJといった日本のテーマパークにも通っている。何10回、いやそれぞれ100回は行ってるかな。それにも目的があったんだよ。ここからが大事な話なんだが」
 彼はさっきのコンカフェ嬢をちらりと見ると声を潜めた。
「ボクは、ボクの国の秘密計画を実行していたんだ」
「秘密計画?」
「そうだ。教えてあげよう。ボクの国に、アキバとそっくりな街を作ろうとしているんだ。アキバのテーマパークをね」
「はぁ?」
「それだけではない。日本の輸出産業の一角を乗っ取ることを計画してるんだ。知ってるかい。コンテンツは軍事に劣らない国力の源泉になりえるものなんだよ。アメリカがいい例だ。アメリカが今の地位を確立できたのは、軍隊に巨額の資金を注いだからだけではない。映画やアニメといったコンテンツ産業にも莫大な先行投資を行ったからだ。その収益力はもちろんだけど洗脳力をもって世界を制覇したんだ。今、それと同じことを行っているのが日本だ。日本のマンガやアニメ、ゲームは世界を席巻し、この国はそれで莫大な外貨を稼いでいる。同時に、世界の若者たちに日本の文化、価値観を伝えることにも成功している」
「まさか」
「聞いてほしい」
 彼は僕を制して話を続けた。
「そもそも、世界を熱狂させるほど魅力的なマンガやアニメやゲームがなぜこの国で量産されるようになったのか……秘密はこの街、アキバにあると、ボクの国の政府上層部は考えた。そしてその秘密を獲得したい、我が国のものにしたい、と。アキバを完コピーする構想はそこから始まったんだ」
 やはり、マンガとかラノベの読みすぎなのだろう。額に汗を浮かべあごをたぶたぷ揺らしながら熱心に喋り続けるプリオを僕は冷ややかに見ていた。
「みんなボクのことをカメコだと思っているよね。日本政府もだ。おかげでボクがいくら写真をばしばし撮っても疑われることはない」
「ばしばし撮りすぎて地下アイドルのライブ会場からつまみ出されたことはあるけどね」
「……ボクはね、アキバの全てを撮影していたんだ。単なる写真だけではなく立体のデータまでをスキャンしていた。つまりね、ボクの大好きな場所が全て、完璧な3Dデータとして、その中を自由に歩き回れるレベルのバーチャル空間として、ボクのスマホの中に格納されたってことだ。見てみるかい」
 彼はスマホの画面を僕の方に向けた。
「たとえばここ、この場所なんだけど……」
 彼が示した画面には、トレーディングカードのようなものがずらりと並んでいた。お店の名前の下に、ヒーロー・ヒロイン風のキャラクターが描かれていた。アキバの各店舗を擬人化したカードらしい。
 彼はその一つを指でぽんと叩いた。
 すると画面は切り替わり、そのお店の外観や店内の実写画像がずらりと表示された。ただの画像だけではなく、動画や3Dデータもあるようだ。
……それから、プリオの、秋葉原注目スポットリポートが始まった。それが、結構面白かったんだ。

 1枚目のカードから出てきたのは、電子部品のお店だった。

「アキバにはラジオと名のついたビルやモールがいくつもあるよね。中に入ると狭い通路の両側に、小さな間口の電子パーツ専門店が、屋台みたいに並んでる。各店舗の平台はマス目状のケースになっていて、そこに、いろいろな形の部品が、標本みたいに整理分類され収められている。それが延々と続く。すべては無機物なのに、なんだかいい匂いがする……森の中みたいな。君たちにとっては当たり前の光景かもしれないけど、ここを歩くときボクはとても興奮する。本当に美しい空間だと思う。
 これは78年の歴史がある電子部品パーツ のお店で、特に記憶メディアの品揃えがすごい。メモリーって、時代ごとにいろいろな形のものが出ているだろ。それらを豊富に揃えているわけだ。
 すごく昔に使っていた外部メモリーを見つけたことがある。ほら、チューインガムみたいな形の、ほんの一時期だけ使われていたスティック型メモリーだよ。
 あっと思って、それに合うスロットのついたマルチドックを探してもらった。そんなものまで、置いてあったよ。もちろん買って帰った。
 部屋のがらくたを掘り返したら、そのメモリーが見つかった。再生してみたら、20年も前に撮って、それっきり一度も見たことのない写真が出てきた。思わず叫んでしまうほど、懐かしかったね。
 アキバのお店では、そんな素敵なプレゼントを受け取ることもある」

 2枚目のカードから出てきたのは、巨大な空間に透明なショーケースが整列している光景だった。

「このお店はラジオのつく老舗ビルの中にも入っているけれど、もう一ヵ所、最新のアキバカルチャーをテーマにしたビルの中にもある。君は知ってるよね? アイドルライブの劇場やコンカフェ、そして鉄道模型、トレカ、同人誌、アニメグッズ……アキバっぽい専門店が集まって、人気スポットになってるよね。
 ここは"レンタルショーケース"のお店だ。ショーケースを一箱ごとに個人で借りられる。そこに何か自分のものを置いておけば、商品として販売してもらえる。つまり誰でも店が持てるってわけだ。
 1000を超えるケースが並んでる。アキバ最大つまり世界最大のレンタルショーケースだと思う。壮観だよ! アキバの一等地に自分の自慢のコレクションを展示する場をもてると考えても素敵だよね。
 そう考えるとこれは1000の個人博物館なんだ。フィギュア、プラモデル、アイドルグッズ、レトロゲーム、トレカ……一つひとつが、つくり手たちの情熱の結晶だ。そして、それらを集めここに持ってくるに至った人たちの人生が詰まっている。
 人間は一人ひとり別々なんだ。そして一人ひとり、とてもすごい存在だ。日本に来て、アキバに来て、ボクはそれを知った」

 3枚目のカード。そこからは、コンクリート壁の店内に昭和時代のものらしき電化製品やオーディオ機器が整然と並べられた画像が出てきた。

「この店が入っているのも、ラジオと名のついたモールの一つだ。電気街口を右に出てすぐのガード下にある。戦後、ラジオ部品の露天商がまとまってマーケットを作ったのがはじまりだそうだよ。
 この店も、その時代からの老舗だ。1955年創業だって。店名に残っているように、もともとは無線関係が専門で、今でもその領域は強い。アマチュア無線機とかバイク用トランシーバーとか各種アンテナとか、遠くから買いに来る人も多いらしい。
 全部で6ヵ所もある系列店舗を回ると、他にもいろいろなものが置いてあって、マニアや専門家以外の人でも、とても楽しめると思う。特にレトロ家電が陳列された一角がボクのおすすめだ。真空管ラジオ、ラジカセ、カセットテープ、MD、昭和のゲーム機、8ミリフィルムのカメラ、映写機……ってね。どれもしっかりメンテしてあって、今でもちゃんと使えるようになっている。どうだい、わくわくしてこないか。
 かと思うと最新アニメのフィギュアが並んでいたり、その隣になぜかこけし人形が置いてあったり。この混沌が、"アキバ"なんだよね」

 4枚目のカードから出てきたのは、シックなバーの店内を写した画像の数々だった。

「すごく落ち着ける空間だよ。フロアのメインテーブルもカウンターも、一本の巨大な樹木から削り出された板なんだそうだ。壁の棚にはヴィンテージウィスキーと、そして様々な"ヴィンテージ計測器"が並んでいる。
 ここは計測器の会社が経営してるバーなんだ。計測器って、電圧とか、金属の腐食具合とかを調べる機械で、どんな工事でもとても重要なものらしい。ここの店内にはその歴代の名機が展示されているんだ。
 19世紀中国の穀物計量用標準桝。20世紀初頭の直流電流計。日本のものでは、昭和初期の天秤ばかりから、戦後、欧米から学んだ技術で独自に製造しはじめた電磁界測定器……。ああ、もちろんボクはこういうことに詳しいわけじゃないよ。それでも、見てるとなんだか心がしんとしてくる。ウィスキーがとてもおいしく飲める。
 日本刀や茶器のように、機能を追求してその時代の先端を極めたものは、それ自体が美しいんだね。アキバは、ハイテク企業が集まってる場所でもあるけど、ここは、その歴史を気軽に体感できる場所なんだ。テクノロジーの進化、その美しさをね」

 5枚目のカードのビジュアルは、軍船上でポーズをとる二人のイケメン武将だ。そこから出てきた画像は、和風の飲食店だった。

「アキバには手早くお腹いっぱいになる気軽なお店がたくさんある。ラーメン屋さんもカレー屋さんも牛丼屋さんも日本ならではのファーストフードだ。ただ安くて早いだけじゃない。すごくおいしいんだよね。店にも味にも個性があって、何度行っても飽きないんだ。
 それからボクは日本の"居酒屋"が大好きなんだ。アキバではたとえばこのお店がボクのお気に入りだ。計測器の会社のビルの地下にある、地元で働いてる人たちにもすごく人気がある居酒屋さんだよ。
 雰囲気がすごくいい。黙々と、そして鮮やかに魚をさばく板前さん。無駄なくきびきび動く女性店員さん。新鮮な、季節のお刺身、からっとあげたての唐揚げ。そして日本酒は40種、焼酎は90種もあるんだって。
 おいしいものが気楽に味わえる場所として"居酒屋"も、日本の素敵な文化だと思うんだけど、君たち、そのありがたみに気づいているかい?」

 プリオの秋葉原名店案内は、それで終わった。画面を閉じると彼は言った。
「こんな感じでボクはアキバの名所を、アーカイブしてきたのさ。今日でそれが完了した。次はこのデータを使って、自分の国に、秋葉原ランド……アキバの完璧なコピー空間を作るってわけだ」
 僕はその発想につい感心してしまっていた。2020年代の秋葉原を、もう一つ、作る。確かにそんなものができたら面白そうだ。こいつ、マンガ原作者とかラノベ作家の素質があるかもしれない。
「我が国は、その場所をテーマパークとして公開する。世界中からそこに観光客を呼ぶ。きっと大人気になるだろう。そして、そこから、あるいはそこに集まった人々から、新しい文化が生まれる。そういうことまでを目論んで、第2秋葉原をプロデュースするつもりだ」
「いいアイデアだ。けどさ、一つ穴がある。観光客はその街に行くくらいなら、こっちに来るよ。本当のアキバに」
「そうだね。本物の秋葉原の方が魅力的に決まってるからね。ボクだって、このアキバが大好きだ」
「うん」
「だから嫌だった」
「えっ?」
「こんな場所をぶっ壊したくはなかった」
「どういうことだ。ぶっ壊す?」
「爆破して、跡形もなく消滅させてしまうってことだ。そうしないと、第2アキバに価値が出ないからね」
 彼の口調が真剣であることに気づき、僕は言葉に詰まった。彼の銀縁メガネが光った。
「第2アキバの準備が完了した。だからもう、このアキバは不要だ。削除する。見てごらん」
 彼はスマホ上に今度は秋葉原の地図を表示した。そのあちこちに。赤い星印が表示されていた。
「爆弾だ。写真を撮影しながら、隙をみては仕掛けていた。一つたりとも、気づかれていない。ボクも特殊工作員の訓練は受けているからね、それくらいの仕事はできるんだ。今すでに、超小型の高性能爆弾が、アキバの、あらゆる場所にセットされているということだ。それらの全てが、ボクの指先の1クリックで作動する。そしてアキバは一瞬にして消滅するんだ。けど大丈夫。ボクの国の第2アキバは、数ヶ月以内にオープンすることになっている。どうしてもまたここに来たかったら、ボクの国に来ればいいんだ」
「プリオ……」
僕は自分の声がかすれていることに気づいた。
「冗談にしても趣味が悪い」
「それが冗談じゃないんだ。やってみようか」
「何を」
「秋葉原削除を」
「……。いつ」
「今だ」
 彼はスマホの画面をまた見せた。そこには赤いボタンが表示されていた
「このボタンをクリックするだけだ。もちろん、今ボク達がいるこの場所だけは、安全だ。ここだけは残るように計算して、セットした」
「おい」
「やってみようか、見てな。ほら」
「ちょ、ちょっと待……」
「ぽん!」
 彼は画面を指ではじいた。

 地面がゆらりと揺れた。
 ように思えた。
 ……いや、それは錯覚だった。何も起きなかった。
 僕は顔を上げあたりを見回した。原色のビルボード、立体的に交差する道路と線路。国際色豊かな通行人。いつものアキバだ。
 耳を澄ませば電子音や宣伝アナウンスや少女の歌声などがいりまじった、アキバの雑音がたえまなく聞こえてくる。万世橋の方から水の匂いのする風が吹いてくる。
 僕は、一瞬でも体を固くした自分を恥じた。
「わかっただろ?」
 と彼が言った。僕は少しむっとしながら聞いた。
「何がだよ?」
「ボクはアキバを救ったんだ」
 彼は笑った。そしてさらにこう言った。
「外国にも、アキバが、アキバに降り積もった素敵なものたちが大好きな人間がいるってことを覚えていてほしい。じゃ」
 そう言うといきなり去っていった。
 それきり二度と会えなくなるなんて、その時は思いもしなかった。

 それ以来、プリオはアキバに現れなくなった。
 僕は彼が、やっぱり嘘つきだと思っていた。
 ただ、気になることがいくつかあった。
 まず、ガードレールに座ってプリオと話した翌日、テレビのニュースで見たことだ。
 プリオが故郷だと主張していたその独裁国家のとある山中で大規模な爆発があったことを、アメリカの監視衛星がとらえたという。その一角は衛星カメラに映らないようにするためか巨大なシートで覆われていたらしい。その限られた範囲で多数の高性能爆弾がいっせいに作動したようだと報じられた。
 何らかの軍事実験が行われたのではないかと、有識者がコメントしていた。
 爆発の時刻は、プリオがスマホ画面の赤ボタンを押したあの瞬間の時刻と、ほぼ一致していた。
(まさかあいつ、本物のアキバの代わりに第二アキバパークを……)
 僕は、自分の中に湧き上がってくる考えを必死で打ち消した。

 僕は毎日のように秋葉原を歩き回って、プリオの行きつけのゲームショップやカレー屋やコンカフェを覗いてみたりもしている。けれど、あの肥満体を見ることはもう、ない。
 そして、本物のプリンス……例の独裁国家の王子は、東南アジアのある国の空港で、殺された。
 暗殺を遂行したのは、彼自身の国の工作員だったようだ。その様子は監視カメラに映っており、昏倒した彼の姿は、ニュース番組に何度も映し出された。
 何度見てもプリオに似ていた。
 いくらなんでも、似すぎていた。

…………………………………………了

※小説を読んでいただいた方はエキシビション会場にて「スペシャルトレカ」がもらえるクイズに挑戦できます。
会場でスタッフにお声がけください。


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The Man Who Saved Akihabara (Kozy Watanabe)

Prio was back in Akihabara today.
He was leaning against the clock tower at the exit of the Electric Town shopping district, fiddling with his smartphone. Prio was, of course, a nickname. People used to call him “Prince Ojisan.” At some point, that got shortened to “Prio.”
“Oh, hey there!”
When I called out, Prio looked up from his smartphone and flashed me a friendly smile.
 He had short salt-and-pepper hair, bushy eyebrows stuck to his wide forehead, droopy cheeks, and a pair of silver-rimmed glasses that didn’t match his rough-looking face. He had a squat thickset build like a lazy bear, and was clothed in ill-fitting flannel and denim.
 How in the world did such a scruffy middle-aged geek come to be called “Prince”? Anyone who found out why would definitely do a double take before bursting out laughing.
He looked exactly like the eldest son, or “prince,” of the leader of a certain dictatorship located not far from Japan.
To put it the other way around, that actual “prince” looked like someone you might come across in Akihabara. Prio’s appearance made even the actual prince seem comical. That was the interesting thing about this guy.
 You could often see him around here, with his squat thickset body, a backpack always slung over his shoulders, and with a camera and the same paper bag in hand. He would be browsing computers and video games, snapping photos with the waitresses at cosplay cafés, or slurping down ramen or curry in some cramped restaurant. He seemed to blend naturally into the Akihabara landscape.
When the Akihabara regulars talked about him, they would half-smilingly say, “He doesn’t just look like him. That’s him. I’m sure of it.”
Of course, there is no way that anyone actually believed that. How could this guy be the prince? It had never seemed remotely plausible to me either. …until today.

“What do you want to talk about?”
When I asked this, he seemed a little embarrassed.
“We’re friends, right?”
“Well, that was out of nowhere…”
“I had always been alone. But since I started coming here to Akihabara, I’ve made lots of friends. This is a wonderful place, where a lot of who and what I like are all gathered together.”
“What’s with you today, Prio?”
“You have been especially kind to me. You’ve taught me a lot, and even fixed my PC. I’m really grateful. Listen, I got a lot to say to you, so let’s go get a drink––my treat.”
“You have gone crazy, haven’t you? You are going to treat me to a drink?”
He led me around behind Radio Kaikan, where he bought two cans of coffee from a vending machine there. He tossed one to me, and sat down on the guardrail with practiced ease. This was his regular spot.
The only drink he treated me to was a single can of coffee. There was no way that a guy like this was a prince.
As I opened the pull-tab and took a drink of my coffee, he looked at me with a satisfied expression on his face and started to explain.
“You’ve heard the rumor about me, right?”
“Rumor?”
“The rumor that I’m actually a prince.”
I laughed weakly.
“I didn’t expect that you even spread that rumor yourself.”
  I thought it would be better not to talk about this in front of him.
Prio himself had never affirmed or denied it, and I would have felt sorry if people called him a liar because of this rumor.
“What they say about me is true.”
“Whoa, whoa.”
I was at a loss. This kind of thing was funny when other people said it, but it was no laughing matter coming out of his own mouth.
“I wanted to tell you the truth.”
It could be that he just goes around telling people this. I wondered if he was about to ask to borrow some money.
I replied curtly, with my guard up somewhat.
“Are you sure it’s okay to talk about something so important in a place like this?”
“Uh, actually, this is the best place for it. I’m always being eavesdropped on. When I’m inside, no matter where I go, someone is always listening in on my conversations in some way or another.”
“Come on, man. Who in the world wants to eavesdrop on you?”
“Both Japan and my own country.”
I was trying to lighten up the mood a bit with a joke, but he was dead serious.
“The government of this country naturally keeps tabs on me. But I have a lot of freedom when it comes to entering and leaving the country. As well as when moving around afterwards. My country and Japan don’t have official diplomatic relations, so that shouldn’t be possible, but... I think they’re letting me swim around on purpose.”
I stayed quiet.
“They assume that I, the prodigal son, am just here to visit because my own country has no entertainment. My existence is convenient for the Japanese government because as long as I keep coming here, my country will never be able to openly oppose or attack Japan. I’m like a voluntary hostage. That’s why the Japanese government lets me run around freely. However, they keep a close eye on what I’m doing. I always have five or six people watching me. Look, even now. Go ahead. Take a peek. That girl in the miniskirt uniform standing at the entrance of that building.”
“That girl? Isn’t she just handing out flyers for a shop?”
“That uniform isn’t from any of the shops around here. And don’t you think that her gaze is a bit too piercing for someone dressed like that?”
“Not to me. She seems like a normal girl.”
“The smartphone she’s holding is a high-performance, sound-collecting microphone. She’s pointing it right at us. We might be too far away for her to pick up what we’re saying, though…”
Then, he cupped his hands around his mouth like a megaphone and shouted.
“Hey, you’re wasting your time, young lady. Your microphone won’t be able to record my voice from that far away.”
The girl looked at us with her eyes wide in surprise. She seemed like an ordinary girl working as a cosplay café waitress.
“The reason there are surveillance cameras all over Akihabara is because of me. I assume there was a direct order from the government. The cameras nearest to me activate to follow my movements as I walk around. I’ve got to tell you, though, I think that both the Public Security Bureau and the Ministry of Defense are underestimating me. They think that I’m just the idiot son of a dictator who happens to love anime and video games, and that that’s why I come to Japan all the time. I’m sure that’s what they think.”
“I totally agree.”
The idiot son of a dictator… The “idiot” part of that was probably true. He was an idiot son who loved anime and video games, and who didn’t have to work. I guess that, technically, you could call someone with that status a prince.
He continued.
“That’s the point. I pretended to be stupid so that I could continue my research. Outside of Akihabara, I also often go to theme parks in Japan, like Disneyland and Universal Studios. I’ve been to each dozens––maybe even hundreds––of times. I had a purpose for that too. Here’s the important part.”
 He glanced toward the café girl from earlier and lowered his voice.
“I had been carrying out a secret plan for my country.”
“A secret plan?”
“That’s right. Let me tell you about it. In my country, we’re trying to build an area just like Akihabara. A theme park version of Akihabara.”
“Huh?”
“That's not all. We’re also planning to take over a portion of Japan’s export industry. Did you know? Creative content can be a source of national power on par with the military. America is a good example. Pouring huge amounts of money into the military isn’t the only reason that America was able to establish its current position. It is also because they made huge upfront investments in the creative content industries of movies and animation. They have conquered the world not only through their profitability but also through their ability to brainwash viewers. Japan is doing the same thing now. Japanese manga, anime, and video games have taken the world by storm, earning the country huge amounts of foreign currency. At the same time, Japan has also succeeded in conveying its culture and values to young people around the world.”
“You’re crazy.”
“Just listen to what I have to say!”
He shut me down and continued.
“First of all, think about what led to Japan being able to mass produce manga, anime, and video games that have been captivating enough to drive the world crazy… Top government officials in my country thought that the secret was here in Akihabara. And they wanted to get their hands on that secret, to make it ours. That’s when they hit upon the idea of making a perfect copy of Akihabara.”
He must have read too many manga and light novels. I continued to gaze cooly at Prio as he kept enthusiastically explaining, with sweat forming on his forehead and his chin bobbing up and down.
“Everyone thinks that I’m a photography nerd, right? Even the Japanese government. That’s why no one suspects anything no matter how many photos I take.”
“You have been kicked out of the live events of underground idols for taking too many pictures, though.”
“…I’ve taken pictures of everything in Akihabara. But I wasn’t just taking pictures. I was scanning the sizes and dimensions of everything too. In other words, perfect 3D replicas of all the places I love are stored in my smartphone, in such detail that it is possible to take a virtual tour. Would you like to see?”
 He turned the screen of his smartphone towards me.
“For example, this is where we are right now...”
His screen showed a bunch of things that looked like trading cards all lined up. Each had the name of a shop, under which a character that looked like a hero or heroine had been drawn. The cards seemed to personify the shops throughout Akihabara.
He tapped one of them with his finger.
 The screen then began to flip through a series of photos of the exterior and interior of the shop. But they weren’t just still images. There also seemed to be videos and 3D renderings.
…Prio then launched into an introduction of Akihabara’s hot spots. It was quite interesting.

The first card that came up was for an electronics parts store.

“There are lots of buildings and malls in Akihabara with the word ‘radio’ in their name, aren’t there? Inside these buildings, there are small electronics parts stalls lined up along both sides of the narrow hallways. Each stall displays a grid-shaped case filled with variously shaped parts, which are organized and classified like specimens. The rows of stalls just go on and on. Even though everything is inorganic, it smells nice... like you’re in a forest. You might take sights like this for granted, but I get really excited when I walk through here. I think it’s a really beautiful place.
 This store has been selling electronic parts for 78 years, and it has an amazing selection of storage media. Various forms of storage media come out in each era, right? Well, this store has all of them.
I once found an external storage device that was the same model I used to use a long time ago. You know, the stick-shaped ones that looked like a stick of chewing gum and that were only around for a short time.
I was so happy to come across it that I asked the clerk to find a multi-dock with a slot that could accommodate it. And they had one! Naturally, I bought it.
I dug through the junk in my room and found my old memory stick. When I looked through it, I found a photo that I’d taken 20 years ago and never looked at again. It was such a nostalgic sight that I couldn’t help but yelp.
You can sometimes get wonderful gifts like that at shops in Akihabara.”

The second card that came up showed the inside of a huge store lined with transparent showcases.

“This shop is also in the old building with the word ‘radio’ in the name, but there is also another location in the building themed after current Akihabara culture. You know about what I’m talking about, right? It’s that popular spot with a collection of Akiba-style specialty shops, including a live concert theater, cosplay cafés, model trains, trading cards, fanfic, and anime goods.
It’s a shop where you can rent a showcase. Average people can rent one or more showcase boxes to display and possibly sell their own stuff. In other words, it’s a way for anyone to have their own shop.
 There are over 1,000 showcase boxes lined up. I think it’s the largest set of rental showcase boxes in Akihabara, which also makes it the largest in the world. It’s truly a sight to behold! It’s also great to think that you can have a place to display your prized collection in one of Akihabara’s best locations.
 In that sense, it’s like a museum with 1,000 individual exhibits. Figures, plastic models, entertainer-related goods, retro games, trading cards... each and every thing is a physical manifestation of its creator’s passion. The place is filled with the lives of those who have collected and brought them here.
Everybody is different. And each individual is a truly amazing existence. When I came to Japan, to Akihabara, that’s what I learned.”

The third card came up. The images that followed were of electrical appliances and audio equipment that seemed to be from several decades ago neatly arranged inside a store with concrete walls.

“This store is also in one of the malls with the word ‘radio’ in the name. It’s under the railway bridge that’s to the right just outside the Electric Town exit. They say it dates back to just after WWII when a group of street vendors selling radio parts got together and set up a market.
This store is one of the businesses that has been around since then. It opened in 1955. As the name of the store suggests, it originally specialized in radio-related products, and that is still one of its fortes. Apparently, lots of people are willing to come from very far away to buy things like amateur radios, motorcycle transceivers, and all manner of antennas.
 If you go around to all six of the affiliated stores, you’ll find all sorts of other things, so it would be pretty fun even if you’re not a fan or expert. In particular, I recommend the spot where they have retro home appliances on display. There are vacuum tube radios, cassette tape players, cassette tapes, MDs, video game consoles from decades ago, 8mm film cameras, projectors, and other stuff like that. All the products have been well maintained and still work. What do you think? Doesn’t that sound exciting?
You might also wonder why there are rows of figures from anime that just came out, with kokeshi dolls displayed right next to them. This chaos is what Akihabara is all about.”
 
The fourth card showed several photos of the interior of a chic-looking bar.

“This is a really relaxing place. They say that the main table in the middle of the floor and the counter were both made from a single huge tree. The shelves on the wall are lined with vintage whiskeys and various types of ‘vintage measuring instruments.’
 This bar is run by a company that makes measuring instruments to gauge voltage, the degree of corrosion in metal, and things like that, which are apparently very important for any kind of construction work. The bar displays examples of well-known measuring instruments that the company has manufactured over the course of its history.
This is a standardized box for measuring grain that was used in China in the 19th century. This is a DC ammeter from the early 20th century. There are also many examples of things used in Japan, from scales used as far back as a hundred years ago through to electromagnetic field measuring devices that Japan began manufacturing on its own based on technology obtained from the West following WWII. Uh… But of course, I’m not an expert on any of that. Even so, it’s still somewhat calming to look at them. It makes the whiskey all the more enjoyable.
Items designed to be as functional as possible and that were considered the state-of-the-art for their time period, like Japanese swords and tea utensils, are beautiful in their own right. High-tech companies gather in Akihabara, but there are also many opportunities to casually experience history here. …How technology evolved, and its beauty.”

The illustration on the fifth card showed two handsome generals posing on a warship. The photos that followed were of a Japanese-style restaurant.

“There are many casual restaurants in Akihabara where you can pop in for a quick bite. There are ramen shops, curry shops, and beef bowl shops… Which are all very typical types of Japanese fast food. They’re not just cheap and quick. They’re also really delicious. The shops and the food they serve are all unique in their own ways, so you never get bored no matter how many times you stop by.
I also really like Japanese ‘izakaya’ pubs. As an example, here is one of my favorites in Akihabara. It’s in the basement under a measuring instrument company, and it’s really popular with the people who work in the area.
It has a great atmosphere. You can see the chef quietly and gracefully cutting and trimming fish. The female staff work efficiently and briskly. You can get fresh seasonal sashimi and crispy fried chicken just out of the deep-fryer. They also have 40 types of sake and 90 types of shochu.
I find izakaya pubs a wonderful aspect of Japanese culture. You can enjoy delicious food in a relaxed atmosphere. Do you guys realize how lucky you are?”

That was the end of Prio’s introduction to Akihabara’s hot spots. He turned off the screen and spoke.
“This is how I’ve been archiving the highlights of Akihabara. As of today, I’m completely finished. Next, I’m going to use this data to create Akihabara Land... A perfect copy of Akihabara in my own country.”
 I found myself very impressed by the idea. …Making another Akihabara for the 2020s. It would certainly be interesting if something like that were possible. This guy might have the makings of a manga author or light novel writer.
“My country will open it up as a theme park. We’ll invite tourists from all over the world. I’m sure it will be very popular. And from there, or from the people who gather there, a new culture will emerge. I intend to produce Akihabara 2.0 with that goal in mind.”
“Great idea. There’s one problem, though. Tourists would rather come here than go there. They’d rather come to the real Akihabara.”
“Sure. The real Akihabara is definitely more attractive. I love this Akihabara too.”
“Yeah.”
“That's why I didn’t want to do it.”
“Huh?”
“I didn’t want to destroy a place like this.”
“What do you mean by destroy?”
“I mean blow it up. …Wipe it off the face of the Earth. Otherwise, Akihabara 2.0 wouldn’t have any value.”
 I could tell that he was serious, and I was at a loss for words. His silver-rimmed glasses glinted.
“The preparations for Akihabara 2.0 are complete. So, this Akihabara is no longer needed. I’m going to delete it. Take a look.”
He brought up a map of Akihabara on his smartphone. There were red stars situated all over the place.
“Those are bombs. I looked for opportunities to plant them as I went around taking pictures. Not a single one of them has been noticed. I’ve also been trained as a special agent, so that sort of thing is easy for me. So, right now, numerous super-compact high-yield bombs are in place throughout Akihabara. I can activate all of them with a single tap of my finger. And Akihabara will instantaneously cease to exist. But don’t worry. Akihabara 2.0 in my country is scheduled to open within just a few months. If you really want to visit it again, you can just come to my country.”
“Prio…”
I noticed that my voice was hoarse.
“If this is a joke, it’s in very bad taste.”
“It’s not a joke. Would you like to see?”
“See what?”
“See me delete Akihabara.”
“…When?”
“Right now.”
 He showed me the screen of his smartphone again. I could see a red button.
“All I have to do is to tap this button. Of course, the only safe place is where we are right now. I made careful calculations and set the bombs so that only this spot will remain.”
“No!”
“Let’s do it. Watch.”
“W, w, wait a second...”
“Poof!”
He flicked the screen with his finger.

  The ground swayed gently.
Or at least, that’s what it seemed like.
No, it was just my imagination. Nothing had happened.
 I raised my head and looked around. Billboards in primary colors, roads and train tracks that intersect in three dimensions, and the highly cosmopolitan mix of people on the sidewalks… It was the same old Akihabara.
Listening carefully, I could hear the constant buzz of Akihabara, a mixture of electronic sounds, advertisements, and young girls singing. I could smell water on the wind blowing from the direction of Mansei Bridge.
 I was ashamed of myself for having stiffened up even for a moment.
“You understand, right?”
I was annoyed by his question.
“Understand what?”
“That I just saved Akihabara.”
He laughed. Then, he continued.
“I want you to remember that, even in other countries, there are people who love Akihabara and all the wonderful things that have accumulated here. Bye now.”
With that, he suddenly left.
At the time, I had no idea that I would never see him again.

 After that, Prio stopped appearing in Akihabara.
It seemed to me that he had just lied about the whole thing.
There were still a few things that bothered me, though.
First, the day after sitting on the guardrail and talking to Prio, I saw something on the TV news.
 An American surveillance satellite had reportedly captured a large-scale explosion in the mountains of the dictatorship that Prio claimed to have come from. Part of the area was under a huge sheet, presumably to conceal it from satellite cameras. The news report said that a large number of high-yield bombs had been simultaneously detonated within that limited area.
An expert commented that it might have been some sort of military experiment.
 The timing of the explosion was almost exactly when Prio tapped the red button on his smartphone screen.
(No way… He blew up Akihabara 2.0, the theme park version, instead of the real one…)
I desperately tried to quell the thoughts that were welling up inside me.

 I walk around Akihabara nearly every day. I even peek into the video game shops, curry shops, and cosplay cafés that Prio used to frequent. But I have never caught sight of his corpulent body ever since.
And the real prince... the prince of that dictatorship… He was killed at the airport in a certain Southeast Asian country.
 It seemed that he was assassinated by an agent from his own country. The incident was caught on security cameras, and his unconscious body was shown on the news over and over again.
The closer I examined the images, the more it looked like Prio.
It just looked too much like him.

…………………………………………The End

● Those who read the novel can try to pass a quiz at the exhibition venue to receive a special trading card.
Please speak to the staff at the venue.

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渡辺浩弐
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