184. 雪と新年会と事件
東京に雪が積もったのは2018年以来だそうだ。
その日は会社でイベントをしていて夕方から途中参加した社長が「そこの靴屋で長靴買って履いてきた」と言っていたのを覚えている。
夫が「雪予報の木曜はマイナスの寒気が関東をすっぽり覆って、逃れられるのは伊豆半島の先っちょだけらしい」というので、人類が皆寒さを逃れるために、伊豆半島の先っちょに向けて大移動する様を思い描き少し愉快になった。
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ここまで書いて3日ぐらい過ぎた。
雪が降り積もったのは1月7日。
毎日日記を書いていた頃は、日々のことをわりとそのまま書いていたが、書くのは気が向いた時にして以来、たくさんの子どもや夫や仕事やどうでもいいことからどれを書くのか考える時間が増え、それは通り過ぎた日々を噛み締める感じに似ている。
日々は何度噛んでもうまい。
雪の日は夫が子どもたちを早お迎えして公園に行っていた。
10センチ近く積もるなんて本当に数年に一度あるかないかのイベントで、前回は記憶にない子らに「初めての雪」として記憶されるはず、その思い出作りより大事な仕事なんてあるかい、とさっさと仕事を切り上げるあたりに夫の子育てへの気概を感じる。
雪だるまを作ったり雪合戦をする子らの写真や動画が送られてくるのを横目に見ながら、Yahooの路線情報をこまめに更新、だんだんと発生する遅延を仲間に発信したりした。
少し山間に住んでいる同僚は午後休にして帰った。賢明だと思う。
ちょうど七草の日だったが、そこらの草みたいなのが入ったベチャベチャの米なんてな!と七草の起源を全否定して七草チーズリゾットの夜ご飯。
そこまでして七草る必要があるかわからないけれどイベント飯に乗っかるのは好きだ。
翌日も夫は子どもたちに雪遊びをさせた過ぎて、長男には学童で雪で遊ぼうとなった場合は手袋の上からこれをつけなさいとビニール手袋を持たせ、次男とは公園で遊びすぎて保育園について先生に「遅くなる時はご一報ください」とお小言をもらったとのこと。
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保育園の仲良し家族と新年会をした。
しかも今回は父親2人がゲームを夜遅くまでするんだとお泊まりコース。
昼間に銭湯に行くことからスタートしていた。
なかなか買えない日本酒をなぜか手に入れられる家族で、夫がそれに合うように実家から酒の肴を手配し、さらに先方がものすごいサシの入った薄切り肉なども持ってきて、カクヤスからこれでもかとビールと氷結が届き、まさしく(本来の意味での)酒池肉林といった宴だった。
私と相手の母親は2人で中抜けしてカラオケにも行った。なんという、これぞ正月。
子どもたちは4人でキャアキャアと布団に潜って日付が変わる少し前によくやく静かになり、夫2人は黙々とスプラトゥーンをして向こうの妻は静寂を味わいに家に帰り私もそこそこで寝た。
翌朝、子どもたちにおにぎりを作り、食べなさーいと声をかけ、いつまでたってもやってこない友達の分も残してあげてよ、と声をかけたらその父親が「すぐにこないやつが悪いから食べたいだけ食べたらいい」と言うので、さすが、三兄弟の末っ子として生き延びてきた人だなと思った。
3合分のおにぎりは、うちの子2人と向こうの下の子で全て食べてしまった。
キャットストリートに髪を切りに行く、と友人家族は帰って行った。
オシャレやなぁ。
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その日の午後、急に仕事に行くことになりバタバタと出た。先方に謝罪して現場確認。起こってしまったことは仕方ないので、1番マシと思われる形で落着させられるよう努力。
どうせ仕事するなら他の現場も見ようと巡店し、買い損ねていた「ガレット・デ・ロア」も買えたとホクホク帰宅していたら夫から「次男が凧揚げ中、引っ張られて野球場の壁に激突した。強く打って心配だから休日診療に連れて行く」との連絡。
急いで帰り、長男と留守番していると次男を抱っこして夫が帰ってきた。
骨は折れていないが、眠りがちなのと名前を聞いても答えられなかったこと、何を話しかけても言葉が出ないことなどから意識障害が出てるかもしれない、と大きな病院の紹介状をもらってきた。
20キロになった次男を抱いて片道20分ほどの道のりを歩いてきた夫の手は震えていた。
次男はよほどショックだったのだろう、私の膝で肩を震わせてずっと声もなく泣いて、また寝た。
買ってきた次男が大好きだと思われたチーズの甘いパンも半分やっとかじっただけだ。
成育医療センターという都内有数の子ども総合病院が車で10分ほどのところにあるので、タクシーを呼んで夫が連れて行く。
夫はあまりに疲弊していて「病院、みんなで行かへん…?」などと普段の彼なら言いそうにない非合理的なことを口走っていたので大変心配し、私が連れて行こうか?と聞いたが、現場にいたのはオレやからとウツウツと半分寝ている次男と出かけていった。
私と長男は家にあるもので変なご飯を作って食べて待った。
次男はCTスキャンを取り、ひとまず問題ないが頭に強い衝撃を受けた後、短期間で同じように衝撃を受けると、大変に異変が起こりやすくなるらしい。それをセカンドインパクトというそうだ。
SFやアニメ用語みたいでカッコいいなと思ってしまった。
次男は元気はないが少し話せるようになった。
脳震盪だったんだろう。
ラーメンを口に運ぶとチュルチュルと食べて、YouTubeが見たいと小さい声でいい、グッタリと見ていた。
早く寝るように諭し、みんなで早く寝た。
次男がしゃべらないと家が大変に静かだ。
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翌日、次男は元気だった。
次男が元気だ!とそれだけで大盛り上がり。
ただし、元気になって調子に乗ってまたコケたりぶつけたりするとセカンドインパクトが怖い、と次男と長男にくれぐれも気をつけること、と伝えたが、次男はすぐに無意味にぐるぐる回ったりするので気が気でない。
1ヶ月は気をつけたほうがいいそうな。
長い…。
僕は昨日はしんどかったんだよね、とスカした後、ウンコだシッコだとアホみたいな歌をうたう次男を目を細めて見たあと、ウンコの歌はもういいですと止めた。
1日家にいて、今日は成人の日だったんだと夜気付く。
子どもを無事に成人させて諸先輩方には本当に頭が下がる。