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EAT/PAINT深掘り~『竜魔戦』でのデッキの選び方~【たみ選手代筆】

こちらの記事は、E/PCS出場者のたみ選手の解説記事を代筆という形で自身のnoteで公開したものとなります。

はじめに


全国のEAT/PAINTプレイヤーの皆様はじめまして。

  たみ と申します。

 ゲームデザインチーム"YUTRIO"の2人とは学生時代からの深い友人であり、EAT/PAINTが発売されてからは私もこのカードゲームのいちプレイヤーとして何度か大会にも参加し、勝ったり負けたりを楽しんでおります。
 
 好きなデッキは、赤サビルです。



 さて、2024年9月28日にEAT/PAINT Championship(以下E/Pcs)という大会が開催され、私も参加しておりました。
 結果は3位であり、その試合内容や使ったデッキの回し方、そして私が当日したとんでもないプレイミスについては今回、一旦置いておきます。


 この記事ではこれから何について書いていくのか。
 まずはこちらをご覧下さい。

当日の会場はどこを見渡しても真っ黒でした

 これは大会当日の使用デッキ分布を、円グラフにしたものです。

 異様な偏りのこれを見て、驚かれた方、そして疑問に思われた方も少なくないのではないでしょうか。
 当然の反応です。このような分布は通常大会ではありえません。 

 では、なぜE/Pcsではこのような偏ったデッキ分布となってしまうのか。それを今回は解説していきたいと思います。



 ここでは主に、『竜魔戦』と呼ばれる変則的なルールで行われる大会のデッキ選択について記述していきますが、EAT/PAINTをまだプレイしたことがない・してみたいという方から、既に大会に参加したことがあるという方まで、多くの皆様により興味を持っていただけますように。。。



 というわけでE/Pcsでのデッキ選択・デッキ分布についてです。


目次



E/Pcs『竜魔戦』というもの


 EAT/PAINT独立拡張版 Out of Jinx の発売から計4回の通常大会を経て、その成績上位者のみが参加できるE/Pcsですが、ルールは普段行われる通常大会のものとは異なり『竜魔戦』と呼ばれる形式で行われます。

EAT/PAINT作者高津勇星のポストより伺えるこの大会の意図


 概要と重要なルールはここらへんでしょうか。

・出場者8名で簡易ダブルエリミネーション方式のトーナメントのBO3(=1試合ごとに最大3回対戦、2本先取で勝ち上がり)。
・プレイヤーは、竜人デッキと魔術師デッキを1つずつ持ち込む。
・BO3の試合中、1本取ったプレイヤーはデッキを変更して戦う(負けたプレイヤーは変更できない)。
・先手後手はキャラクタースピードを参照して決定するが、キャラクターが同じ場合はお互いが持ち込んだデッキ2種類の合計スピードを参照する。

ストレートで勝ち上がれば4試合勝つ事で優勝だが、
途中1回でも負けると最大6試合かかる


 2つのデッキを持ち込んで対戦し、2本先取すれば勝ち上がりとなるこのトーナメントですが、それには竜人デッキと魔術師デッキのそれぞれで1勝ずつしなければなりません。

 では、どのようなデッキを選べば『竜魔戦』で勝つことが出来るのでしょうか。


勝ち上がるためのデッキ選択


 EAT/PAINTは拡張版も含めると、15種類の竜人デッキと15種類の魔術師デッキが構築できます。そのため普段の大会のデッキ分布グラフは先ほどのような真っ黒ではなく、鮮やかです。

第2回公式大会(通常大会)のデッキ分布グラフ


 『竜魔戦』では、竜人と魔術師から1つずつデッキを選ばなければならないので、単純計算だと15×15の225通りと膨大な組み合わせパターンがあり、その中から勝てるデッキを選別するというのは一見大変な作業のように思えてしまいます。


 しかし実は、「竜魔戦で勝ちやすい組み合わせ」の選び方には定石があります。


 最初に結論を書いてしまいます。


 『竜魔戦』で勝ち上がりやすいデッキ選択の定石は、竜人全般に対して有利なデッキ同士で組む、または、魔術師全般に対して有利なデッキ同士で組む、というものです。

 そしてこの定石を、現在構築できるデッキプールと照らし合わせることで、勝ちやすい組み合わせはこの2パターンであることがわかります。

①竜人全般に対して有利な 竜人/魔術師 の組み合わせである、
 【赤ヒメリア】/【白リオ】

②魔術師全般に対して有利な 竜人/魔術師の組み合わせである、
 【黒サビル】/【黒エーカ】

 ここからさらに、①と②を比較した結果、「②の【黒サビル】/【黒エーカ】を選択するプレイヤーが多かった」というのが今大会の異様な分布の正体となります。


 さすがにこれだけではわかりづらいので、この結論を少しずつ紐解いて行きましょう。
 まずは、定石の解説からです。



■ 竜人に2回勝つか魔術師に2回勝つか


 先ほどの定石は、『竜魔戦』の試合の流れに関するルールを理解することで導き出すことができます。

 試合中の流れを確認していきましょう。

1回の対戦中に起こる試合の流れ(クリックで拡大できます)

 BO3(=2本先取)という最大3試合がひとくくりである対戦の中で、2試合目以降の「1勝した方はデッキを変更し、負けた方は変更しない」という部分。

 これを言い換えると、「BO3中に1勝でもしたら、相手の同じデッキと2回連続で戦う」ということになります。

 つまり、このBO3で勝ち上がるには竜人デッキと魔術師デッキのそれぞれで相手を倒さなくてはなりませんが、2回連続で勝つならばその時倒す相手のデッキは竜人/魔術師のどちらか片方で良くなります。


 倒す相手を竜/魔どちらかに絞ることで、デッキも選びやすくなりますし、相手がどんな組み合わせのデッキを持ってこようと、もう片方には負けても良いので関係ありません。
 さらに、試合中に相手がどんな順番で竜/魔を出そうと、勝ち筋に影響はありません。1回でも勝てれば、必ずこちらが当たりたい方と2回連続で当たることができます。


 なので、どちらも竜人に勝てるデッキ同士の組み合わせ、もしくは、どちらも魔術師に勝てるデッキ同士の組み合わせを選ぶことが定石となっているわけです。


……

 え?そンなメンドーなコトしなくても、全部に勝てる最強デッキを2つ選べばイイじゃないって???


 残念ながら、そんな最強デッキは1つも存在しません。

 一旦そこの説明をします。



デッキ相性


 EAT/PAINTというカードゲームにおいて、何にでも勝てる「最強デッキ」というものは存在しません

 発売後に何度か行われたテキストエラッタやルール調整のおかげで、どのデッキにも勝ちやすい相手と勝ちづらい相手が存在する、というようにバランスのとれたゲームとなっています。

 主なデッキ同士の相性を書き出しました。

・ヒメリアは他の竜人(エルト、サビル)に対して有利
・サビルは魔術師に対して有利
・魔術師はヒメリアに対して有利

・ヒメリア同士では先攻が有利
・魔術師同士では先攻が有利

 かなり大雑把な書き方をしていますが、ひとまずヒメリア、サビル、魔術師が3すくみのじゃんけんのような関係になっているということを確認してください。

矢印の先に対して有利


 【赤ヒメリア】を例に挙げて確認してみましょう。


 【赤ヒメリア】デッキは、今年度行われた2nd season通常大会4回のうち3回準優勝という圧倒的好成績を収めていますが、その強みはやはり、他の竜人に対して必ず先手が取れるということです。

 竜人を相手にした場合の【赤ヒメリア】は先手3ターン目で試合を決めきることが多く、それに対して相手側の竜人(エルト・サビル)が勝つ為には後攻2ターン目までにヒメリア側のライフを削りきる必要があります。
 しかしそれを実現するには「エルト・サビル側の上振れ」かつ「ヒメリア側の下振れ」を同時に求められるため難しく、大抵の場合は後手3ターン目を迎える前にヒメリア側の勝利で試合が終わってしまうでしょう。

 

ヒメリアのSPDはゲーム内最速


 ところが、そんな竜人相手には無類の強さを誇る【赤ヒメリア】も、魔術師相手には苦戦を強いられるでしょう。


 《 忘れられた朝露 》や《 崇められた夜明け 》を使用して一回の攻撃で超火力を叩き込むのが勝ち筋である代わりに手数の少ないこのデッキは、魔術師の並べたワークを処理するのに手間取り、魔術師側にインクチャージ後の攻撃を許してしまうからです。

 特にワークを並べた後《 清濁の筆洗 》を使用して山札切れを狙ってくる【黒エーカ】や、《 模写 》などを使用してヒメリアの火力を耐えきる【白リオ】などは非常に戦いづらい相手となります。


Out of JinX で追加された強力な魔術師用カード達


 そしてそのヒメリアの弱点である魔術師、その中でも最強格である【黒エーカ】が手も足も出ない相手というのが、【赤サビル】や【黒サビル】となります。

 攻撃の手数が多いサビルは大量展開されたワークの処理が容易なため、魔術師を倒すには一番適した竜人といえるでしょう。


「流星群」+「走馬灯」のコンボはあまりにも有名


 あくまで一部のデッキ相性解説でしたが、最強デッキなど無いということを理解していただけましたでしょうか?


 続いて、竜人相手に特に有利なデッキと魔術師相手に特に有利なデッキをそれぞれ確認していきましょう。



■ 竜人に有利なデッキ


 竜人デッキ同士でのナンバーワンは間違いなく【赤ヒメリア】です。最も他の竜人に対して強く、そして最も安定しています。
 競ったのは【青ヒメリア】ですが、安定感が赤と比べると少し気になります。
 ヒメリアでのミラーマッチの際は先手が有利となります。


 魔術師デッキの評価基準は特に、サビルに勝てるかどうか、というところになります。
 そして検証の結果、竜人全般に対して最も勝率が良い魔術師というのは【白リオ】でした。

 白インクのトラップである《 模写 》や《 積雪 》の存在とリオのチャージ効果の相性が非常に良く、チャージ後の隙をトラップで耐えやすい点が強みとなります。
 しかしどうしても、そのトラップの引きムラを考慮する必要があり、竜人に対して「圧倒的な有利」とは言いきれないというのが【白リオ】の評価です。

チャージ効果で手札を補充しつつ、
そこで引いたトラップをすぐに相手ターンで使える状態に出来る



■ 魔術師に有利なデッキ


 魔術師デッキ同士のナンバーワンは間違いなく【黒エーカ】です。適切なプレイをすることでどの魔術師にも有利といえるでしょう。
 エーカでのミラーマッチの際は先手が有利となります。


 竜人デッキ側の評価基準は特に、白魔術師に勝てるかどうか、というところになります。
 そして検証の結果、全ての魔術師に対して有利だと判明したのが【黒サビル】でした。

 黒ルーツの《 呂色の濁流 》と《 新月の微笑 》を有効に使うことで、白魔術師の強力なトラップ達に対抗できます。白魔術師側は、《 模写 》で攻撃を耐えようと思っても効果の対象が墓地からどんどん戻されてしまう、その結果《 流星群 》を黙って受け入れることになり決着する、というパターンが割とよくある印象でした。
 競ったのは【赤サビル】です。こちらは、ダメージ量は黒よりも安定して高いのですが、白魔術師に対しての勝率が安定しませんでした。赤よりもダメージ量は劣りますが、勝率が安定している黒を選ぶのが良いと判断しました。

相手が何枚トラップを引いたとしても関係無し



完璧な嚙み合わせ


 上で書き出したデッキを定石通りに組み合わせることで、①【赤ヒメリア】/【白リオ】、②【黒サビル】/【黒エーカ】が導き出されました。

 偶然にもこれらの組み合わせは『竜魔戦』ならではの、ミラーマッチにおける先手後手の決定ルールとも完璧に嚙み合っています。

 『竜魔戦』のミラーマッチでは、2つのデッキの合計スピードの遅いほうが先手となります。

 竜人に2回勝つためには必ず先手を取りたい【赤ヒメリア】と、魔術師に2回勝つためには必ず先手を取りたい【黒エーカ】、そのどちらもがミラーマッチの際に先手をとれる確率が一番高い相方になっています。

 これで定石通りの組み合わせが2つ揃いました。

 最後にこの①と②を比較するのですが、その前に少しだけ寄り道です。



■ ナンバーワン同士


 先ほど、竜人に対して最も有利なデッキが【赤ヒメリア】、魔術師に対して最も有利なデッキが【黒エーカ】、であると説明しました。

 では、対竜人最強対魔術最強、この2つを組み合わせるのはどうなのか?
 まだ確認していませんでした。

 一応、検証しておきましょう。


 【赤ヒメリア】は竜人に有利で魔術師に不利です。その弱点を補える、魔術師に有利な【黒エーカ】の組み合わせは一見噛み合いそうなものです。

 しかし実際の相性は最悪です。

 竜人と対戦したいヒメリアと、魔術師と対戦したいエーカ。それぞれの目標を達成するには、相手が1戦目に竜/魔どちらのデッキを出してくるのかを必ず的中させなければなりません。

 BO3中のデッキ変更ルールによって、お互いのデッキを出す順番によって勝敗が大きく左右してしまう、という無駄なギャンブル要素が生まれてしまいます。

 さらにヒメリア同士の対戦またはエーカ同士の対戦となった際には、合計スピード参照のルールによって、多くの場合で自分が不利な後攻をとらされてしまいます。


 定石以外の選択は上手くいかない、ということが理解していただけましたでしょうか。


 それでは、最後に①と②の比較をして『竜魔戦』へ持っていくべきデッキを決めます。



最後の選択

 

 魔術師に有利な2つのデッキと、竜人に有利な2つのデッキを実際に戦わせてみました。これで最終的にどちらの組み合わせを選べば良いのかがわかります。

さながらほこ×たて

 そして、結果は皆さまご存じの通り、魔術師全般に対して有利な【黒サビル】/【黒エーカ】の勝利でした。


 この結果の要因は【白リオ】の安定感の無さです。

 先ほども書いたとおり、【白リオ】が魔術師の中では最も竜人に対して勝率が高い、というのは今でも間違いありません。
 検証前の事前評価も、サビルに対しては少なくとも互角以上だろうと考えていました。

 しかし、検証の為に対戦を繰り返すうちに【白リオ】側は【黒サビル】相手に不利であると判明しました。
 《 模写 》だよりの【白リオ】は《 呂色の濁流 》と《 新月の微笑 》への対応策がありません。一応《 冷血な漂白 》を使用することでのトラッシュできますが、せいぜい後手1ターン目にしか発動タイミングはなく、またコストの1インクはリオにとって非常に重いため、この1枚だけでは不利が覆りませんでした。

黒に対してパワー不足


 対して【黒エーカ】と【黒サビル】の、魔術師全般に有利という評価は検証後も変わりませんでした。
 そのため「竜人に2回勝つための組み合わせ」と「魔術師に2回勝つための組み合わせ」とが対戦した場合は、後者の方が有利であると判断することができました。

大会5日前の夜、筆者による予言ポスト


 そして、このような結論にE/Pcs出場者のほとんどがたどり着いたため、あの真っ黒い分布グラフが生まれたということでした。


……

 え~??みんなで一緒にこのデッキを持っていこうヨ、って決めてあったんじゃないかって???

 違います。

 少し昨年度のE/Pcsの話をします。


ここまでが前提


 昨年度のE/Pcsにおけるデッキ分布はなんと、参加者8名中6名が同じ組み合わせの【赤サビル】/【赤エーカ】という非常に偏ったもの。その組み合わせの意図はやはり、「魔術師に2回勝つ」というものでした。

 そして実は、昨年度のE/Pcsの参加者8名のうち、私を含めた5名が、今年も『竜魔戦』に参加していました。過半数が昨年度と同じ顔ぶれです。

 つまり、これまで長々説明したデッキ選択の理由等を、E/Pcsに出場される他プレイヤーの少なくとも過半数(2年連続出場者の方々)はとっくに理解していた、ということになります。
 となると偏ったデッキ分布も必然に思えます。


 結局今年も、ほとんどが【黒サビル】/【黒エーカ】を選択したことで、デッキ選択での差は無くなり、「勝ち上がりやすいデッキ選択」だったはずが「最低限不利を背負わないためのデッキ選択」となってしまいました。

 本当に勝ち上がるのに必要だったのはデッキ選択ではなく、それを選んだうえで、そして分布を読んだうえでどうするか、ということだったわけですね。


おわりに

 

 今回は『竜魔戦』ならではのルールに起因した、非常に偏ったデッキ分布についての解説でしたが、みなさま理解していただけましたでしょうか? 

 そしてEAT/PAINTというカードゲームに、より興味を持っていただけましたでしょうか?

 まだお手元にEAT/PAINTが無いという方は、YUTRIOの公式SNS等で販売情報をお確かめの上、ぜひお買い求め下さい。

 最後までお読みいただき、ありがとうございました。

 デッキの回し方や解説については、またそのうち。


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