韓国の田舎を旅する方法〜慶尚北道チョンソンの農家さん・タバンとは?
チョンソンに来てからずっと気になっていたことがあります。
アジョッシのお店がある、この地域の中心地にはやたら「다방(タバン)」と書かれた看板が多い事。
中を覗き込もうにも、窓は薄暗くて中が見えない。
農学のお姉さん達とさよならし、車に乗り込み家に戻ろとした時、急にエスターが
「タバンて沢山看板見るけど、あれ何ですか?」
と、アジョッシに聞きました。
「おぉ!私も疑問に思ってた!」
と、すかさず私も乗っかり二人揃って「タバンて何!?」と騒いでいると、アジョッシは笑いながらひょうひょうと
「コーヒーを飲むとこだよ」
と。
「コーヒー飲むとこ...?カフェ?(どう見てもカフェには見えないけど?)」
「カフェじゃない。コーヒーを飲むところ」
「…。じゃあ私たちもあそこ行ったらコーヒー飲めるんですか?」
「飲めるよ。コーヒー飲み行くか!?」
と、言うわけで韓国人男性1人、外国から来た女性3人のおかしな組み合わせの4人でタバンへコーヒーを飲みに行く事に…
薄暗いドアを開けると、何というか、昔の事務室みたいな硬そうなソファーとテーブルが並んでいます。
そこかしこに雑多に物が置かれていて、ここは店…なのか...?と、ちょっと戸惑う空間。
店主というよりママと呼ばれた方が似合いそうな、お化粧濃いめの50代くらいのお姉様が表情を変えずに「どうぞ〜」と迎えて(?)くれます。
先客が1組いて、どうやらアジョッシの知り合いの農業関係の男性二人の様です。
席についてしばらくすると、おばあちゃんの家にありそうなコーヒーカップでママがコーヒーを出してくれるのですが、ドリップなどではなく韓国ではお馴染みの甘いスティックコーヒー。
なんとなく喋ったり喋らなかったりしながらコーヒーを飲んでいると、どこからともなく別のお姉さんがいきなり出てきて、ママからコーヒーの入ったカゴを渡され出て行きました。
どうやらコーヒーのデリバリーもしているのだな、と思いながら見送り、私たちも店を出ました。
「わかった?」
と、やはり飄々とアジョッシが聞いて来たので
「いや、全然」
と答えると、タバンとは、コーヒーを飲むところでもあり、時に家までお姉さんがコーヒーを持って来てくれるところでもあり、時にそのお姉さんは家に上がってお喋りしたりもする、と説明してくれました。
加えて
「田舎だから。50代になっても独り身の孤独な農家の男がいっぱい居るんだ。」と。
車の中でエスターが英語でアイリーンに説明すると、オランダも農家が嫁不足で、農家に嫁に来ないかみたいなテレビ番組があるよ、と言うので「え!?日本もあったよ!そういう番組!」
すかさず私が答えると、アイリーンは驚く様子もなく、世界中農家は嫁不足なんだろうね、と。
韓国も言わずもがな、毎日のようにエスターに息子との結婚を迫ってくるおばあちゃんがいるくらいなので嫁不足、そして後継者問題があるのでしょう。
タバン自体も高齢化していて、私たちの行ったお店も少し前まで一人30代くらいの若い人がいたけど、どこかへ引っ越してしまってあのおばさん達二人でやっていると。
少しタバンの補足をしますと、タバンとは漢字で書くと「茶房」。
つまり喫茶店のことを指します。
ただ、タバンと検索すると二通りの結果が出てくるので少々混乱します。
一つは、ソウルなどにある歴史と趣のある純喫茶。
もう一つは私たちが行ったようなタバン。
インスタコーヒーと砂糖を混ぜたコーヒーをタバンコーヒーと呼んでいたそうです。
「農家」と言っても、自ら農業を始める農家、半農半Xで別の仕事と兼業する人達のような選択的農家もいれば、別に農業に強い関心があるわけではない代々の家業を継いだ農家、と様々です。
農協とつながりがある、農薬を使う、無農薬で頑張る、自然農やバイオダイナミクスを取り入れる。
考え方も様々です。
この地域は、農業をやりたくて移住して来た人よりは代々家を継いでいる地元の農家が圧倒的に多い農村のような場所です。
この様な場所は韓国の至るところにあるでしょう。
私も30を過ぎた立派な中年です。
農作業が終わり家路につき、誰と会話する事もなく1人長い夜を毎日過ごす中年男性に勝手に思いを馳せ、少しだけ胸がギュッとなったのでした。