秘境で過ごした贅沢な2日間
タイは多くの島に囲まれています。
サムイ島、ピピ島、タオ島などなど、日本人にもリゾート地として有名なものが多いです。
その中で、クラダン島はあまり知名度がない気がします。
タイ人すら、え?って聞き返してくることがある(笑)
よく知ってるね、行ったの?と必ず驚かれるこの島。
タイの南部のトラン県に位置しているこの島は、タイ最後の秘境と言われ、環境保全のために毎年6月から10月には一時閉鎖が行われているところです。
私が勝手にタイマスターと呼んでいる友人が、本帰国をすることになったとき「最後に行きたいのはクラダン島だな」というので、早速リサーチ開始。
バンコクからのアクセスは、飛行機で1時間半でトラン県まで行き、そこから1時間バスにゆられ、フェリー乗り場まで行く。スピードボートに乗り換えて1時間でようやく到着。
おお、これはずいぶんと冒険だなあ、なんてワクワクしながら航空機やホテルの予約を完了させました。
当日、早起きをして自宅からドムアン空港へ。そこで友人と待ち合わせ。
朝ごはんを適当に食べて、エアアジアの飛行機に乗り込む。
1時間半後、トラン空港に到着。とても小さな空港でした。
空港の前でタクシーを捕まえて10分ほど走ったところにバスターミナルが。
「フェリー乗り場に行きたい」と伝えると、ひとり100バーツとのこと。1時間もバスにゆられるので、お菓子や水を売店で購入。
乗り合いバスで、タイの田舎道をどんどん進みます。
私は、バスや電車で車窓を眺めるのが大好きです。
洗濯ものが揺れていたり、屋台を切り盛りしているおばさんがいたり、牛が歩いていたり。犬がお昼寝している横で、上半身裸のおじさんがタバコをぷかぷか。私にとっては一瞬で過ぎ去る集落でも、そこには確かに人々の日常があり、それを観察する時間が私は好きです。
みんなの日常をのぞき見ながら、ようやくフェリー乗り場に到着。
「クラダン島」というと、片道100バーツ、ボートはさっき出たところで、次は1時間後とのこと。確かに少し沖にボートが見えて、どんどん小さくなっていく。
えええ??なんでさっき出すのよ?バスのダイヤ絶対把握してるよねえ!待っててよ!こんな暑いところで1時間も待つのぉ?無理!!
いやいや、こんなのタイあるあるだろ。これくらいでイライラしない、しない。それに騒いだところで、ボートは引き返してこないよ。
そうやって友人になだめられ(いつもそう)諦めてアイスを食べていると、子犬が足元に寄ってくる。
ちょっと私が落としたアイスをペロペロ食べていて、かわいい。
かわいい、かわいいと騒いでいると、子犬が母犬を連れてきた。
「ママ、アイスもらえたよ」とでも言ったのだろうか。
母犬の目は私のアイスにくぎ付けになっている。
そして結構狂暴系。吠えている。人にアイスをねだる態度ではない。
絶対嚙まれてはいけない。旅が台無しになっちゃう。目を合わせてはいけない。あんなにほっこりした時間だったのに、急に緊張が走る。
アイスの味ももう分からない。
「わたしキャスパーになりたい、消えたい」
友人にそう言ったときに、ボートが到着しました。
100バーツ支払って、素早く乗船。友人と一応酔い止めを摂取して出発です。
大小さまざまな島を見ながら、大海原を進むのはまるで映画ジュラシックワールドの主人公の気分。
「恐竜出てきそうだねえ」なんて言いながら、ぐんぐんボートは進む。
40分ほど経過したころ、遠くに目的地クラダン島が見えてきた。
もうすぐだ!と思ったとき、急に空が暗くなりいきなりの豪雨。
心もとない屋根があるだけのボート。私たちは到着前に見事にびしょぬれになりました。
ようやくクラダン島に到着するも、桟橋のようなものはない。
荷物を頭の上に掲げて、そのまま海に飛び込んで歩いて上陸。映画パイレーツオブカリビアンの気分。
「ジャックスパロウみたいだねえ」という私に「さっきから映画にばっかり例えるよな」と友人。
ホテルは、すべてヴィラになっていて、プールやスパはもちろん、プライベートビーチもあるのでここに決めました。食事も併設のレストランで食べることができ、すべてがホテル内で完結できるところが魅力です。
チェックインして、早速ホテルのバーでカクテルを購入。
波の音を聞きながらゆっくりした時間。長距離移動の疲れも吹き飛びます。家を出たのは明け方4時。
いろいろ乗り継いで、時には犬にアイスを偉そうにねだられ、雨にも降られながらでもここまで来てよかった。
友人はプールに行くというので、私は本をもってビーチへ。
真っ白な砂浜に、エメラルドグリーンの海。秘境と呼ばれるだけある景色が広がります。
観光客はほとんどが欧米人、それもシニア層が多く騒がしくないのもよかったです。
しばらくビール片手に読書をして、そのあと少しお昼寝。
友人が帰ってきて、フィンを抱えて今度は海に行くとのこと。
アクティブだなあ、と思いつつ私も一緒に行くことに。
海はかなりの遠浅で、歩いても歩いてもひざ下までしか浸かりません(笑)
ようやく、泳げるくらいの深さになり、下を見ると色とりどりの魚たちが優雅に泳いでいます。感動。イソギンチャクの間にはニモ(カクレクマノミ)までいるじゃないですか。
これは、苦労してダイビングのライセンスを取らずともよかったかも…なんて少し後悔したほど(笑)
そうこうしているうちに、もうすっかり夕食の時間。
淡い光につつまれるこの夕方と夜の間の時間が大好き。
せっかくだからと砂浜にテーブルを作ってくれて、そこでディナー。
60代後半くらいだろうか、欧米人のご夫婦が隣のテーブルに座る。
あなたのサンダル素敵ねと声をかけていただく。嬉しい。
周囲を見回してもパートナー同士で来ている人ばかり。
たしかに、ふたりでゆっくりするのには最適な場所かもしれない。
シーフードを食べようと、魚の丸揚げ、イカの炒めもの、エビのパッタイ、空心菜のバターソテーなどを注文しました。
このロケーションも相まって、ほんとうに美味しい。お酒も進む進む。友人の帰国後のプランや、私の将来の夢なんかを語っていたらあっという間に
あたりは暗くなり、スタッフがやってきて、もうラストオーダーですとのこと。
お腹もいっぱいだし、部屋に戻ってまたゆっくり話そうかと、自分たちの棟までお散歩していると雨が降り出しました。急いで部屋に帰ったとたん、バケツをひっくり返したような大雨が。4月、バンコクはまだ雨季ではないけれど、こちらはマレーシアと同じ気候なんだとか。雨季と乾季が逆転してるのですね。
雨の音を聞きながら、またふたりでいろいろと話して。
なんだか、青春時代に返ったような気分になりながら、夜はどんどん深くなっていきました。
次の朝、5時半ごろ。
友人に朝日がきれいだよ!と起こされました。
今までゆっくり朝日を見たことがなかったのですが、とても素晴らしかった。みんなヴィラから出てきて、ストレッチをしたり、コーヒーを飲んだりタバコをふかしたり、思い思いに日の出を楽しんでいました。
こんな素敵な時間が流れるクラダン島ですが、この日の11時にはもう出発しなくてはいけません。
朝ごはん前にプールで遊び、水着のまま朝食を食べて、また海へ。
今日はカヌーを借りてすこし遠くまで漕いで見ました。
上からでもサンゴ礁や泳いでいる魚が見えるほど透明度が高い。
昨日あんなに雨が降ったのに、それでもこの透明度は感動ものです。
1時間ほど遊んだ後は、部屋に戻り身支度を済ませ、またジャックスパロウ状態になりつつ乗船。
帰りは雨に降られることなく海を渡ることができました。
空港でビールを飲みつつ飛行機を待って無事にバンコクに帰還。
あー楽しかった。
バンコクの喧騒を離れてデジタルデトックスもできました。気が付けば、いろいろな連絡が来ていて、空港で突然現実に。
何かしたわけじゃない。分かりやすい観光地に行ったわけでも、ご当地インスタ映えグルメを食べたわけでもない。ただ、目の前に広がる美しい景色を眺めて、大切な人と語り合う。シンプルな旅。どうせ写真もろくに撮らないからと、メイクもしない。それでも、とても贅沢な時間でした。30代になってこういう時間も贅沢なんだと、分かるようになってきました。
新しい旅の楽しみ方を見つけた私は、次はどこでゆっくりしようか考え中です。
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短い短い2年間の駐在期間を終えて日本に帰る友人。
最後にこのような時間を2人で過ごすことができてよかった。
思い返せば、タイに来て右も左も分からない私に、タイと日本の関係について、ムエタイ観戦の楽しさも、美味しい日本食のお店も、サウナのおすすめも、寺院の参り方も全て教えてくれた人です。最後にクラダン島まで教えてくれて、本当にありがとう。
出会ったばかりのころ、友人が私に言ったことがある。
「最初タイに来る時は、根無し草になる気分で。不安しかなかったんだよ」
友人がそんな気持ちを抱えてタイに降り立った翌年の同じ月。
私もまったく同じ気持ちでタイに降り立った。
この人なんでも知っててすごいなあと思った出会いから1年たって、私だっていろいろ学んだ。その中から、大切な君に私からも教えたいことを。
「スワンナプーム空港の滑走路ってね、日本がODAで作ったんだよ。あんまり知られてないけどね。私たち、タイに初めて来たときには日本が作った滑走路に降り立ってたんだね。着任前にそれ知ってたら、根無し草だなんて思わなかったかも」
少し目が潤んでいたのには気が付かないふりをして、これからもよろしく。