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20年ぶりのMONSTER
MONSTERと聞いて、一番最初に何を思い浮かべますか?
エナジードリンク?嵐のシングル曲?シンプルに数多いる怪物たち?
この度、浦沢直樹先生の名作漫画『MONSTER』を20年ぶり2度目の読了をしました。
ドイツの病院に勤務する日本人の天才脳神経外科医である天馬賢三は、瀕死の重傷を負った双子のひとりヨハン・リーベルトを手術して命を救う。その9年後、天馬賢三は連続殺人犯として警察に追われる身となるが、その犯人は、心のなかに恐るべき怪物がいるというヨハン・リーベルトだった。
天馬賢三は警察から逃れつつ、ヨハン・リーベルトを抹殺するための旅を始める。
Red BullもMONSTERも飲んだことないです。
2度目というか、ほぼ初見
20年前の私は小学校5年生。ビッグコミックオリジナルで連載された『MONSTER』を楽しむには少し早いお年頃だったかもしれません。私には5歳年上の兄がいるので、我が家に全冊おいてあったのは、おそらく彼が買ったからだったと思います。
子供の頃に読んだ本や見た映画の内容というのは意外と覚えている人が多いのではないでしょうか。
そんな中、私は主人公のドクター・テンマが医者であることすら忘れていました。なんか、ヨハン・リーベルトっていう悪いやつを追いかけるということしか覚えていませんでした。
ヨハン・リーベルトの名前を覚えていたのも、本の記憶ではなく、インパルスのコントで板倉さんがキセル乗車をした取調べのコントでヨハン・リーベルとを自称していたからであって、漫画を覚えていたわけではありません。
そんなわけで、今回は過去の自分からのネタバレほぼほぼ0で楽しむことができました。
ちっぽけな私の脳みそに感謝ですね。
ただ一つ、なぜそんなに忘れているかの言い訳をすると、唯一覚えている記憶が、読了後に兄に言った「ぜんぜんわからかなかった」だからでしょう。
忘れたというか、そもそも何も理解していなかったのだから、今覚えていないのも納得がいきます。
ちなみに、そのときに兄は「俺は全ての話を時系列順に並べた表を作ったから完璧に理解した」と言っていました。まあ、嘘でしょう。たぶん2ちゃんねるかなんかのまとめを見たのでしょう。彼はそういう男です。
そんな話は置いておいて。
『MONSTER』はその後も20年私の実家に置いてあったのですが、なぜその後、大人になっても読み直していなかったのかというと、1つはっきりとした理由があります。
目覚めちゃった
『MONSTER』を読了してからしばらくすると、私も中学生になりインターネットを一人で使うようになりました。すると、いろんな雑念や無益な情報が脳に流れ込んできます。
その中の一つに「浦沢直樹はお話の風呂敷を広げるのはとても上手だが、畳むのは下手だ」というのがありました。
今になれば、ほとんどの受け手は、受け取ったものを理解できなかったら、作り手が悪いからだということにするのだということを知っています。ですが、当時まだプリティーでピュアピュアだった私には、なんとなくその情報が刷り込まれていたのでしょう。このボリューミーで重厚な本を読みおわってガッカリするのは嫌だなあという思いから手が遠ざかっていたのは否定できません。
単純に、ここ数年は実家にいる時間が短いというのも、もちろんありますが。
では、20年ぶりの『MONSTER』。いったいどうだったかと言いますと・・・、めちゃオモロでした。
ワカルワカンナイ
東西冷戦構造、ベルリンの壁崩壊の以前以後のドイツ社会がテーマに深く入り込んでいるので、小学校5年生には読解力どうこうよりも、単純に知識が足りなかった面もあったのでしょう。
実際読み直してみると、話として複雑すぎる部分は少なく、かなり王道な「犯人追いかける系ミステリー」でした。
一冊読み終わるごとに「え・・・?めっちゃ面白くない・・・?!」を17回繰り返し、最後のエンディングを迎えました。
そして、そこで辿り着いた終わり方も私はすごく好きでした。
ネットの彼らが『MONSTER』のことを指していたのか、別の作品を指していたのかはわかりませんが、全然尻すぼみの感じはせず、最後の最後まで「わけわからん!」ってなることもなく、物語が結末を迎えました。かなり納得のいく幕引きでした。
ただ、私は物語に対して「わからんっ!」となることがあまりないので、そこは参考にならないかもしれません。
例えば、千と千尋以降の宮崎駿映画などでもよく「途中でよくわかんなくなった」という感想を見かけますが、私は何がわからなかったのかわからないと思うことの方が多いです。
これは、決して私が物語を理解する能力が高いわけではないです。むしろわからないとなる人の方が、きっちりと一つ一つを理解しようと頭を使い、考えながら見ているのでしょう。だからこそ、ここって繋がってないんじゃないかとか、ここにあったこの話って具体的にどうなったのかとかに引っかかってしまうのではないかと思います。
そんな脳みそのない私は、ただ起きたことを追うしかできません。そのライブ感と、起こることへの登場人物の反応が楽しみのメインです。
『MONSTER』読者史上一番頭を使っていないと言っても過言ではないかもしれません。
全体的な重たい雰囲気や、少し複雑に見える会話とは裏腹に物語はわかりやすくはっきりと善悪の対峙構造となっています。
主人公の天馬賢三/ドクターテンマはただ医師として卓越した技術を持っているだけでなく、人々への圧倒的な愛と優しさを持ち合わせています。
真犯人のヨハン・リーベルトを探し回る中で多くの人との出会いと別れを繰り返すのですが、その誰もがテンマに心惹かれます。
出会った人の多くが、たとえ全ての証拠が彼を犯人だと言っていても、彼だけは殺人犯ではないと言い切ります。そして、彼がヨハン・リーベルトを手にかけないことを願っています。
『うしおととら』とか好きだったら、好きだと思います。
フランケンシュタインとヨハン・リーベルト
*多少のネタバレを含みます。
モンスターといえば、世界三大モンスターの一体であるフランケンシュタインの怪物がいますが、ヨハンはその怪物のある意味対極に位置する存在です。
愛に飢え、愛を求めた優しい生き物が、ただ醜く作られたという理由で排他され、怪物への道を歩んでいくのを描いた『フランケンシュタイン』。
一方のヨハン・リーベルトは自分への愛に疑いをもったことから完全悪のカリスマとしての道を歩み始め、その卓越した知能と美しい容姿を利用して周囲の人間を巻き込みながら、それを破壊し、完全なる孤独を追い求めます。
漫画内で、この時期多くの地域で恐ろしい殺人事件が起きます。それらを辿っていくと、そこには常にヨハンの影があります。
その悪のカリスマ、つまりはモンスターがどのように生まれたのか、彼は生まれながらのモンスターなのか、それとも彼にとってのフランケンシュタイン博士が存在するのか、それもまた一つのお話の軸になっていきます。
モキュメンタリー
『ANOTHER MONSTER-The investigative report-』という『MONSTER』の後日譚となるお話をヴェルナー・ヴェーバーというジャーナリストがヨハン・リーベルトの関わった事件をインタビューから解き明かすドキュメンタリー風に書いた小説が出版されているようです。
まだ読んでいませんが、これのリアルさや「ヴェルナー・ヴェーバー 浦沢直樹共著 長崎尚志訳」という表紙から『MONSTER』は本当にあった話が基になっているんだ!という都市伝説のような勘違いが生まれています。
本編の中でその犯罪の完全生から現実には「存在しない」と思われていたヨハン・リーベルトが、本当の現実では「存在した」と思われている。その逆転現象も含めて、してやられているというか、お見事な作品だなと言わざるを得ません。
こちらはまだ読めていないので、ぜひ、読んでみたいですね。