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最後までエピローグたっぷり『ロボット・イン・ザ・ガーデン』 作: デボラ・インストール

おすすめしてもらった作品その4であり、とりあえずの最後。
またお願いすることがあるかもですが。

舞台はAI(人工知能)の開発が進み、家事や仕事にアンドロイドが従事する近未来。

 法廷弁護士として働く妻・エイミーとは対照的に、仕事も家事もせず家で過ごす34歳のベン。夫婦はもはや崩壊寸前。

 ある朝、ベンは自宅の庭で壊れかけのロボットを見つける。

 「四角い胴体に四角い頭」という、あまりにもレトロな風体のそれは、自分を「タング」と名乗った。

 アンドロイドにはない「何か」をタングに感じたベンは、彼を直してやるため、作り主を探そうとアメリカに向かう。

 そこから、冴えない中年男と時代遅れのロボットの冴えない地球を半周する旅が始まった——。

https://www.shogakukan.co.jp/pr/robot/

彼が中年なら私も中年なんだなあと、このあらすじを見て気がつきました。
庭と壊れたロボットという始まりは『アンドロイドは電気羊の夢を見るか』を想起させますが、本作はそこまでSFではありません。
少し不思議でSFぐらいのニュアンスです。
近未来というよりは「もしもこの世界にロボットとアンドロイドが根付いていたら」ぐらいの世界観です。

また、日本でも劇団四季ミュージカルや、嵐の二宮さん主演で映画化されているようで、なんで知らなかったんだろうかというレベルの作品のようです。
人に色々勧めてもらうと、自分はものを知らないんだなあと改めて実感しますね。

ストーリーとしては、四季で扱われるのが納得いくぐらいに王道な部分があります。
ダメ男が、旅とロボットの成長を通して、自分を見つめ直します
このロボット、タングの可愛さというのは、間違いなく作品の魅力を根幹から支えていますね。執筆中の作者さんには幼い息子さんがいたということです。
旅をしながら言葉を覚え、成長していくダングのことを抱きしめたくてしようがなくなります。今冬なんで、後悔するでしょうが……。
ですがもちろん、その可愛さだけではここまでのヒットにはなっていないでしょう。
読後感を短く言うと、毎年夏にある子供たちが活躍する長編アニメがありますよね?あれの大当たりを引いた感じです。
物語の中で東京が、それもかなり好意的に描かれていたので、作者さんがアニメ好きなのではないかなあという偏見を持ったからかもしれません……。

あらすじにもあるように、前半はタングの作り手の秘密を探る旅を中心に話が進みます。
ですが、凄いなと思ったのは、この物語において、それは一つのスパイスでしかないということです。
その謎を解明したら物語の終わりでいいじゃん!などと思ってしまいがちですが、それは物語の6.7割ぐらいのところで判明し、方がつきます。
これにはけっこう驚きました。
基本的に物語というのは、主人公が変化するところで終われるのです。
その旅を終えて、主人公は十分な変化を遂げます。でも、この物語は終わりません。
その変化というのは、我々大人になりきれない中年男性には十分なものでも、実際の社会では決して十分ではなかったようです。
ベンはさらにもう一歩先まで、残りの数十ページをかけて進みます。タングの助けをこれでもかと借りて。

子供の時に遊んだRPGゲームは、クリア後に「つづきから」を押しても、最後にセーブしたところに戻るしかありませんでした。
せっかく魔王を倒したのに、後一歩で世界が崩壊するBGMがまたもやスピーカーを通して鳴り響きます。
ですが、少し大きくなって、ある日遊んだゲームは、その後の世界を周ることができました
あの感動は衝撃的でした。
平和な世界を喜ぶ村人の一言が、私の心を強く揺さぶりました

私たちの知っている名作は、その先はどうなったの?彼らの幸せをもっと見せてよというところで終わります。
それはそれで素晴らしいのです。大好きです。
でも、今作ぐらいにちゃんと幸せを、プロローグをたっぷりと見せてくれる作品も、今は必要なのです。
私よろしく、この世は弱い人ばかりなのです。

追記:
毎回こっそり表紙を自分で作るという遊びをしていますが、今回のが今の所1番お気に入り。


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