love letter from K. Season3「食べること」2.楽しんだもん勝ち
シーズン3のテーマは「食べること」。前回はロンドンへ行った時の出来事をつらつらと書きました。その旅はオランダへと続きます。今は海外旅行へは行けませんので、年末年始の忙しい中で少しでも旅行気分を味わっていただけたら嬉しいです。
フラットランド
オランダという国は国土の4分の3が海に沈んだ過去がある非常に珍しい国です。長年の干拓作業により国土は戻ったのですが、この出来事がオランダ人の気質に大きな影響を与えています。現地に行くとよく聞く言葉に「地球は神が創造したかもしれないが、オランダはオランダ人が作った。」がある。国土を取り戻したという経験から、変えられない事はないという気丈な精神性が生まれました。
例えば、法律を変えたりすることは、政治家の仕事ではなく民衆が動けばいとも簡単にできることだと思っている。これは超民主主義と言われ、王族も一般人も身分の差がなく、運が良ければ国王がスーパーマーケットで買い物をしているのを目撃できるとも言われています。
食とデザイン
そんなオランダ人にとって、食への考え方もまた日本とは異なります。小さな国にも関わらず、農産物輸出額は世界2位(2019年)。テクノロジーをふんだんに注ぎ込んだ野菜工場や、乳牛にセンサーを付けクラウド上で健康管理をしているようです。自然の恵みとしての農業というよりは、製品開発のような工業として捉えられています。
これはbulboという家庭菜園のためのプロダクトブランド。間接照明のようなスタイリッシュなデザインでインテリアとして楽しめるようになっています。
2015年当時でこういったアプローチができるのはさすがだなぁと。「どこで育てよう?ではなくどこに飾ろうか?」という会話が聞こえてきそうで、照明を飾っているのと何ら変わらないですよね。
これは食材ではありませんが、青い胡蝶蘭のデザイン。オランダでは胡蝶蘭は葬儀で贈られることが多く、悲しみの花というイメージがあります。VG colorsとBIG Impactという企業がタッグを組み、白い胡蝶蘭に成長過程で青い水を与え続ける事で青い花を咲かせる事に成功したのです。
「悲しみはそんなに早くは消えない」というコンセプトの通り、真っ青な花が日に日にすこしづつ薄くなっていき、最後には白い花を咲かせます。これを見た時は「なんと美しいデザインなんだろう」と驚きを隠せませんでした。
確かに、弔いの気持ちが晴れていくには時間がかかり、それもちょっとづつしか変わっていかない。その気持ちを花を通して目で見て感じとることができる。そしてそれが美しい。どんな製品のデザインでもなく、花をデザインしてしまうというオランダ人の感覚に脱帽です。
このライトは、僕のお兄ちゃん的存在のデザイナーBertjan Potの”Old Fruit Versatile”という作品。古くなったドライフルーツを半分にカットし、25ワットの電球をつけて、シンプルなランプシェードに。内側は、できるだけ多くの光を反射するように白いコーティングが施されています。外側は黒でコーティング。2個(上が1個、下が1個)で無駄を出さないように販売されているようです。このライトもまた、プロダクトデザインと食べ物を食べるときの両方のプロセスを混ぜて作る事で、それがユニークなデザインを生み出しています。本人に曰く元々1つだから切っても離ればなれにしちゃうと可哀想でしょ(笑)」ですって。
つくることも、たべること
旅の途中で、あるデザインスタジオにお邪魔した際「よかったら健司も一緒にランチしていかないか?ダッチスタイルだけどね。」と誘われました。食卓に来てみると、そこに見えたのはパンと包丁、まな板に、ハム、チーズの塊、数々の調味料の瓶、チョコレートディップ、ボウルに入った野菜。調理されたものはひとつもありません。食卓というよりこれは料理する前のキッチンの光景では!?
「好きなように作って食べて。」とスタッフ達がお手本を見せてくれます。各々がそれぞれサンドイッチを作り、バクバク食べています。なるほど、クッキングしながら食べるスタイルか。でもこの雑然とした感じがなんだか楽しくなってしまい、結構お腹一杯になるまで何枚もサンドイッチをご馳走になりました。どうやらダッチスタイルとは、自分で作って自分で食べるDIYランチの事のようです(笑)。
ラディカルに
決められたレールの上を何も考えずに歩くのが嫌いなオランダ人は、食べることに対しても正直でダイレクト。時には面倒くさがって、時にはとことん拘ります。そこに真面目な様相はあまりなく、「楽しんだもん勝ち!」的な雰囲気が色んな場面で垣間見える。そんな国に来ると、いつも元気をチャージして帰っている事に気づかされます。
「食べることはお腹を満たすことだけじゃないし、美味しさを追求するだけでもない。もっと楽しい何かがあるはず!何にだってそれは言えるでしょ、きっと。だったらルールなんて無視して変えてみちゃえ。」ハハハと微笑みながら背中をポンと押してくる。結構大事だと思うんですよね、この感覚。
つづく