名前は忘れたけどお前のことどう嫌いだったかは忘れないよ

高校で同じ学年だった野球部の身体と声がデカかったお前は、面識もない俺が休み時間の廊下でしたちょっと変な言動を、通りすがりで見て、通り過ぎてすぐその真似をした。

あまりにも他人に敬意を欠いた行動、馬鹿にしていないとそんなことはしない。
お前のことは元からあまり好きではなかったが、野球部の陽キャをただその属性だけで嫌うほど俺の魂は落ちぶれていない。
お前が俺を明確に見下したから嫌いになったのだ。恐らく吹奏楽部のヒョロガリという面だけで見下したのだろう。いやそれすら知らなかったかもしれない、ただいわゆるトップの運動部じゃないことはわかっていただろうから、それだけでお前が重んじる人間のリストからは外れたんだろう。

お前のことは交通安全の講習でより嫌いになった。
学校の駐車場で、実際の車やマネキンを使って自動車の危険性について、警察の方から教わる機会があった。
そこで生徒の誰かに実際に事故の怖さを体感してもらう、みたいなのがあり、その代表者として彼は手を挙げて立候補をした。
こういうときに手を挙げられる人はあまりいないから、積極的に手を挙げるのは結構だが、彼はとにかく目立ちたくて手を挙げただけだということがすぐに分かる。
その体験の後、感想を求められるときにずっとふざけていた。
本当にそれが許せなかった。
警察への敬意もなければ、交通安全講習を意味のあるものにしようという気持ちも感じられない。
目立つためにこんな機会を使うなよと思った。

3年の終業式、校長がスライドを用いて、私たちに天賦の才があると説いてくれた。変な校長だな、ねえよそんなもん、セミナーじゃねえんだから、鴨頭(当時鴨頭を知らなかったのでこれはコメディパラドックス)かおまえは、と思った。ただ、校長のやりたいことは分かったし、実際良いことを言っていたし、要は限界決めずにもっと頑張ろうぜ!って話で、校長が1年の時にいたら俺は東大だって目指していたかもしれない、とすら思う。
そして校長は最後に、2枚のTシャツを取り出した。
なんか「PRIDE」的な素敵なことが書いてあった。魂とか天賦の才とか、まあそんな方向のいわゆる痛いことが書かれていた。
このTシャツをジャンケンで勝った人にあげると言い出した。
そのじゃんけんに参加する人を募ると、例の如くあいつが立候補した。
それを見て、俺も手を挙げた。
別に校長の意見に賛同したわけでも、感銘を受けたわけでも、もちろんTシャツが欲しいわけでもなかった。ただ、この校長の話を馬鹿にさせちゃいけないと思った。
あいつが勝ったら、またあいつがふざけて、笑いを取る。
そんなふうに校長の話を終わらせていいわけがない。
校長になるぐらいだから多分そんなにパソコンも得意じゃないだろうに、俺らのために頑張ってスライド作って、話も準備して、周りの先生からも少し冷めた目で見られてたかもしれないのに、俺らのためを思って用意した話を無駄にしていいわけない。
多分俺だけ、目つきが違った。
俺が参加した時点で勝敗は決まっていた。
本当に自然に俺が勝った。結構参加人数いたのに、普通に勝って、Tシャツをゲットした。
淡々と、手に入れた。校長の話を邪魔せず、くだらない野球部の人気者のおふざけでみんなの記憶を塗り替えさせず、終業式を終わらせた。

その後、校長室に飾りたいかなんかで校長にTシャツを渡したらなんかアイロンやりすぎて焦がされちゃったり、そういう出来事があったから覚えてもらえてるかなと思って話しかけたら忘れられていたり、そんなこともあったから校長のこともそんなに好きじゃないけど、お前の終業式の話を、俺は真面目に聞いていたよ。

野球部で身体と声と態度がデカかったお前、お前のこと嫌いだったこと、ずっと忘れない
いいところ、たくさんあると思うけど、そんなの知らない
お前の悪いところだけを俺は覚えといてやるから、忘れないでいてやるから安心してこれからも無配慮に人気を得てろよ

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