新入社員を雇うと離職率が上昇する…!?
求人難や景気回復にともない、新卒の初任給は毎年2~3千円ずつ上がり続けています。首都圏における令和5年度の大卒初任給は、平均212.5千円とかなり高い数字となり、中途採用においても、とくに技術職では上昇傾向にあります。
新規採用に力を入れるのはいいのですが、気を付けないとかえって優秀な人材を失ってしまうかもしれません。
給料の高い社員が入社するとどうなるか
ピープル・アナリティクスを専門とするアンドレア・ダーラーとテルアビブ
大学の教授ピーター・バンバーガーらは、米国、カナダ、欧州の100社近い企業の400万人以上の社員に関するデータを用いて、ある統計分析を行いました。
彼らは、自分より高い給与を受け取る同僚が職場に加わった場合、既存社員の離職率がどの程度上昇するのか、そして既存社員の給与を引き上げた場合に、離職率がどの程度低下するのかという点を調べたのです。
すると、新しい同僚が加わってから1カ月以内に、既存社員と新入社員の給与格差を調整した場合、既存社員は平均して2年半その会社に留まって働き続けることがわかりました。一方で、給与の調整が半年以上行われなかった場合には、既存社員がその会社に留まった期間は平均1年半だったのです。
優秀な社員ほど辞めていく
さらに辞めていく人たちの内訳を調べてみると、成績の良い社員の割合が思いのほか高いことがわかりました。通常の状況では、成績の良い社員が退職者全体に占める割合は約4分の1ですが、高給の新規採用者が職場に加わった後は、その割合が3分の1以上に跳ね上がったのです。
つまり、既存社員より高い給与で新しい人材を雇うと、既存社員の離職率が上昇するだけでなく、優秀な社員の離職率も上昇するということです。
理由は容易に想像がつくでしょう。優秀な社員ほど自分が十分な給与を受け取っていないと不満を感じるようになれば、モチベーションが低下し、優秀であるがゆえに転職という選択肢を模索し始めるのです。そのうえ、このような影響は社内でほかの社員たちにも波及し、さらに問題が増幅されます。会社から不公平な扱いを受け、平等に給与を支払われていないと感じれば士気が低下し、職場への思い入れも弱まるのです。
企業はベースアップを検討すべき
誰をいくらで採用したかは公にしていないからわからないはずだ、と反論するかもしれませんが、求人サイトを調べればだいたいの初任給はわかりますし、そういった情報はどこからか漏れてしまうものなのです。
上記にある問題の解決策は明白です。既存社員の給料を適正な水準にまでベースアップをすることです。もちろん、それには人件費という費用を要しますが、優秀な人材が退職することによって生じるコストと比べれば安いものかもしれません。
今回の分析は欧米を中心としたものであり、長期雇用が色濃い日本とは若干状況が違うかもしれませんが、それでも企業は考慮するのに十分値すると思います。