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うぬぼれて買った、実力の宝くじ

キナリ杯の結果発表と、講評を読んだ。
noteを書くきっかけとなったキナリ杯のことを、書いておきたかった。
あとがきのような、言い訳のような、余韻のような。


岸田奈美さんのことは知っていた。何度かnoteがバズって、誰かの賞賛とともにツイッターのRTでまわってくるのを、そのたびに拾い読みしていた。バイタリティと優しさがあふれた文章を読むと元気が出た。若いのにすごいなあ、なんて思っていた。

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ところで、ふだんの私は、めちゃくちゃ大きくてむだなプライドを抱え、過剰な自意識を持って生きている。そしてそれをなんとか他人に悟られまいとして、平気なかおをして生活している。たぶんバレてるけど。

「注目されたいけど、傷つきたくない」
身もふたもなく言うと、そういうことだ。

「絶対安全な場所で、チヤホヤされたい」
お恥ずかしい話だが、そういうことだ。


キナリ杯のことを知ったのは、5月26日のことだった。その時点で、5月31日の締切まで、一週間もなかった。
過剰な自意識を持つわたしは、書こうか書くまいか、迷った。

書いてみたい気持ちは、すごくあった。
でも、書いても誰も見てくれないだろうな、きっと。
でも、でも、もしも、受賞しちゃったりなんかしたら、ものすごくチヤホヤされちゃうんじゃない?

30代の発想か?

悩んだわたしは、#キナリ杯 のハッシュタグがついた他の投稿を、読んでみることにした。
めちゃくちゃたくさんある。とてもぜんぶは読めなかったので、上から順に、気になるタイトルだけでも読んでみた。

・・・・・・

これなら、これなら、わたし、もしかしたら、イケちゃうんじゃない?

35歳の発想か?

おそろしいうぬぼれ。失礼千万。厚顔無恥とはまさにわたしのことである。
膨れ上がった妄想は、それでも「書く」ための大きな推進力となった。



書きだしてみると、まー、ものすごくたいへん。
たまーに二次創作の小説なんかを書いているわたしは、痛感した。
「自分のことを書く」って、こんなにもたいへんなんだと。

他人が書いた文章を読むとき、とりわけ素人が書く二次創作小説なんかを読むとき、わたしは「長い」ことが嫌いだ。長すぎて面白かった二次創作小説なんてほとんどない。自分で書くときも、なんとか短くしよう、短くしようと頭を絞る。
ただ、実話を書くとなると、そうもいかなかった。
人に伝えたいことが、たくさんある。これも話したい。このエピソードも入れたい。ここの部分を書かないとオチをわかってもらえないんじゃないか。自然、文章はまたたく間に長くなる。
書こうと決めたニューヨークの話は、当日の午後の話で、実際の記事では割愛したイベントの話も書きたかった。ていうか書いていた。そうすると徐々に、確実に増える文字数、とっ散らかるエピソード。わたしは何が書きたかったんだろう。なにをいちばん人に聞いてほしいんだろう。一行目から何度も何度も書いては消した。

出来上がった文章は、それでもずいぶん長くなった。何度も何度も読み直して、読み直しすぎて、もうこれが面白い話なのかどうかも自分ではわからなくなっていた。本当は数日おいて、冷静な目で再読すればよかったんだろうけど、その時間ももうなかった。
えいやっと、投稿ボタンを押した。

選外になる可能性もじゅうぶんにあった。
ていうかそっちのほうの確率のほうがずっと高い。
プライドの高いわたしは、そうやって最初から予防線をはって、自分が傷つきすぎないように努めた。

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審査結果発表の当日、発表開始の14時までは、ドキドキしっぱなしだった。
まるで宝くじの抽選結果を待っているみたいだった。
14時、更新された記事を見て、自分の名前がないことを確認した。一時間ごとに更新される、そのどこにも、私の名前はなかった。

やっぱりなー、という気持ちと、えーなんでー!?という気持ち。なんせプライドがめちゃくちゃ高いので。

でも、なんで!?という気持ちは、受賞作を読むと、一気に吹き飛んでどこにも見えなくなった。

めちゃくちゃ面白い。
どの作品も、めちゃくちゃ面白いのだ。

もちろん、わたしの好みでない話とかもあった。それでも、ぜんぶ、もれなくぜんぶ面白かった。
こんなに面白い話が、こんなにたくさんあるんだ。
受賞者のプロフィールを見ると、既に何作もnoteで発表している人や、ライターや編集者や、書くことを仕事にしている人が多く。
そりゃー敵うわけないわ。無理だわ。ずるいわ。プロだもん。
わたしのプライドは打ちのめされた。
打ちのめされたわたしは、笑顔だった。


わたしの書いた文章は、選外だった。
実力勝負の宝くじは、みごとにはずれた。

わたしがはじめて書いたエッセイには、10個の「スキ」がついた。
今まで、二次創作の作品を発表したことはあった。同じ趣味の人から、褒めてもらえたりした。
でも、noteに書いた自分の話で、まったく誰かも知らない、共通の趣味もないだろう人からもらえた「スキ」は、それまでとはちがう特別感で輝いていた。

宝くじは10枚通しで買うと、かならず1枚、300円が当たるようにできている。
買わなかったら、10億だって当たらない。
わたしの書いた文章は、勇気を出して買った宝くじだな、とおもう。
300円以上の価値が、わたしを迎えてくれた。


うぬぼれてでも、書いて良かったな。

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