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ガッツとパッション〜中級スキーヤーでもバックカントリーが滑りたい〜

「もう戻れないねー!」

 遮るものは何もない。永遠に続くかのような青い空。
 滑った跡はどこにもない。ふわっふわでまっさらな白い雪。

あぁどこを滑ろうか。右側のメロウな尾根沿いか。それとも左側の少し急な斜面か。と、頭では考えつつも、体はすでに動いていた。

スキーの先端を下に向ける。滑り出した途端にフワッと体が浮く。きたきた、この感触。滑っているはずなのに浮いている。ふわふわと漂いながら、板が進む方向に体を預ける。あぁ、どこを滑ろうかなんて考えるだけ野暮だった。ただただ心のままに、まっさらな雪を切りながら進む。

あちらこちらで楽しげな、「ひゃっほー」「ふぅぅうぅ!」という声が聞こえる。だよねだよね!ギアが一段上がる。グッと踏み込んでターンをする度に粉雪が舞う。舞った粉雪で前が見えないのに、嬉しくてニヤニヤしているのが自分でもわかる。足からじわじわと喜びが込み上げてくる。

気付けば滑り終わっていた。いつもそうだ。一生続けばいいのにと思った斜面は、ものの2分ほどで終了した。

「いやー最高でしたね」「本当、最高でした」「もう1回滑りたい!」
「よだれが出そうでした!」「いやいや、私はもう出ちゃってましたよ(笑)」口々に感想を言い合い、グータッチ。初対面の人とだってグータッチ。全員笑顔だった。その瞬間、パーティ全員が仲間になる。

ある女性が「もう戻れないねー!」と言って笑った。バックカントリーを知らない自分には戻れない、という意味なのだろう。そうだよなぁ、もう戻れない私。新しい扉開けちゃったよ。

16年前に聞いたこの言葉を、私はずっと、心の奥にしまってある。ことあるごとに思い出しては、大切にかみしめながら、あのとき扉を開けてよかったぁとつくづく思う。

バックカントリーを本格的に始めてから16年が経つ。16年間、飽きもせずバックカントリーを続けてきたにも関わらず、私はスキーが下手だ。上級者に憧れ続ける、万年中級レベルのスキーヤーだ。ゲレンデだと上級コースを滑ることはできるが、コブ斜面はできれば避けたいし、荒れたボコボコの不整地なんて、とりあえず下まで降りることができればいいとさえ思っている。バックカントリーにいたってはさらにへっぽこだ。自分の身幅くらいしかない狭い木々の間を華麗にすりぬけて降りていく上級者がいる一方、私はできるだけ広い場所を選んで滑る。スピードを落としたい時は、ボーゲンを駆使するし、この場所ではターンできないと思ったら、いったん止まって、一歩一歩歩いて滑れるとこまで移動する。そう、私、全然華麗ではなくてバタバタしてるんです。

ただ、バックカントリースキーは上級者でないと滑れないのか?というと、意外とそうでもない。これは一番言いたいことなのだが、うまく滑れなくてもいい。必要なのは安全に自力で滑り降りてくることで、そのために1番必要なのは、実はガッツとパッションだと私は思っている。
たとえば、冒頭に書いたような青い空の中、ふわふわの新雪を滑ることができる日は、意外と少ない。私の体感だが、厳冬期は5%くらいではないだろうか。霧が立ち込めて視界が悪く、2m前を滑っている仲間の姿が見えない。見えないから斜度がわからず、足裏の感覚を頼りにそろりそろりと滑る。見えないだけならまだしも、雪面と空が同じ色なんて日には、上下感覚さえもわからない。こけたら最後、どこを向いて立てばいいのかもわからない。そんな状況でも、めげないパッションがあるか。そして、こけてもへこたれずに立ち上がり、下まで安全に、なんとしてでも滑り降りようとするガッツがあるか。実はこの、ガッツとパッションが何より大切なんじゃないかと私は思っている。

というと、多くの人は「そんなガッツとパッションは持ち合わせていません!」と思うかもしれない。私も最初は持ち合わせてなかった。でも、スキーが好きだ、滑るのが楽しいというシンプルな気持ちさえあれば、どこだって滑ることができる。少なくとも私はそう信じている。苦行とも思える状況を仲間との会話のネタにしたり、その先にある粉雪を想像してワクワクしたり。周りを見渡せば、上級者であれ、中級者であれ、その気持ちを持ち続けている人が、バックカントリーを続けているような気がしてならない。

とはいえ、バックカントリーはゲレンデとは違う点も多い。1番の違いは、リフトがない山の中に入っていくため、基本的には自力で山を登らないといけないことだ。普段のスキーでは必要のない、登るための用具や登り方のコツ、それ以外に必要な持ち物など、知っておいた方が良いことも多い。バックカントリーを始めた当初、私はその知識がほとんどなかったため、調べたり、体験したり、教えてもらったりしながら、自分なりの形が出来上がってきた。

このサイトでは、バックカントリースキーを始めた当時の私が知りたかったことをアップしていきます。誰とどのようにして山に入っていくのか?いつがベストシーズンか?必要な用具は?服装は?などを、経験談を基にお伝えします。具体的な滑り方などのスキルは技術本に頼るとして、中級スキーヤーの方がバックカントリーを始めたい!と思ったときにお役に立つ内容になっています。
この本を読むことで、みなさんがバックカントリーライフを始めてもらうきっかけになれば、こんなに嬉しいことはありません。

最後に1つだけ。The Day、1回当ててみて。絶対戻れなくなるから!

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