わからないことに耐える力「ネガティブ・ケイパビリティ」とは?
パンデミック、自然災害、世界各地でつづく戦争や紛争、AIの台頭……目まぐるしく変化する世の中で、いま「ネガティブ・ケイパビリティ」という言葉が注目されているのだといいます。初めは難しそうだと感じたこの言葉に、私はちょっとだけ心を救われました。
あらゆる人に届いてほしいという思いを込めて、ネガティブ・ケイパビリティとはどういったものなのか、私なりにまとめてみました。
ネガティブ・ケイパビリティとは?
ネガティブ・ケイパビリティとは、どうにもならない状況でも答えを焦らず、自分なりの答えが出てくるのを待つ忍耐力、といったような説明がなされます。この説明だけだと「結局どういうこと?」と少し難しく感じますよね。
私は個人的に、「わからない」ことを許す力、と解釈しました。
世の中には「答えのない問い」というものが数多く存在します。その問いに対して、「どうせわからないから」と完全シャットアウトしてしまう、あるいは物事の一面だけを見て「要はこういうことでしょ」と単純な構造に嵌め込んでしまうのではなく、「わからない」ことを「わからない」まま、宙ぶらりんにさせておくのです。
そうすると、問題が解決しないままなのでモヤモヤしますよね。そのもどかしさに耐え、自分なりの答えを待ち続ける能力こそ、ネガティブ・ケイパビリティなのです。
ポジティブ・ケイパビリティとは?
ネガティブ・ケイパビリティの逆、ポジティブ・ケイパビリティというものもあります。こちらはとてもわかりやすい概念です。
ポジティブ・ケイパビリティとは、「わからない」をすぐに「わかる」状態に持っていく能力のことです。一般的に「問題解決能力」と呼ばれるようなものでしょうか。不確かさや疑いの余地を取り除き、できるだけ早く明瞭な答えを導き出す力です。
これには、すぐにピンとくる方が多いと思います。なぜなら、現代社会においては、このポジティブ・ケイパビリティを求められる場面が非常に多いからです。
人間は「わかりたい」生き物
ネガティブ・ケイパビリティを得ることは、とても難しいのだそうです。人間の脳は、本能的に「わからない」ことを嫌うためです。
人間の脳は「わからない」ことに触れると、これまでの知識や経験を使い、どうにか「わかる」状態に持っていこうとするそうです。人間も動物ですから、情報を得たらそれを迅速に処理して、なるべく俊敏に動き出すための本能でしょうか。敵や獲物の前でぼんやり考えていたら、生きていけないですもんね。
このように、人間の脳にとって「わからないこと」は本能的にストレスになります。反対に「わかる」と感じた瞬間、快感や落ち着きを得られるのです。
たとえば、テストで難問が解けた瞬間、映画やドラマで伏線が回収された瞬間、「面白い!」「楽しい!」と興奮しますよね。反対に、限りなく「説明」の省かれた映画などを見て「えっ、今ので終わり? 結局なにが言いたかったの!?」と戸惑った経験のある方もいると思います。
そんなとき「むずかしい映画だった」「つまらなかった」と切り捨ててしまうことは簡単ですが、「どうして主人公はあんな行動をとったんだろう?」「あのラストシーンってどういう意味だったんだろう?」「あのセリフは誰に向けてのもの?」と「わからなさ」を反芻して考えてみるのが、ネガティブ・ケイパビリティなのではないでしょうか。
そこで「これだ!」という答えが見つからなくてもよいのです。むしろその方がよいのではないでしょうか。「わからない」ものを「わからない」まま楽しむ。それに苛立ったり、焦ったりしない。そうした悠然とした心構えがネガティブ・ケイパビリティということだと思います。
まとめ
ネガティブ・ケイパビリティとは「わからないものを宙ぶらりんにしておく忍耐力」でした。対して、ポジティブ・ケイパビリティとは「わからないものをすぐに理解する力」です。
現代では、教育現場においてもビジネスシーンにおいても、ポジティブ・ケイパビリティが評価基準となることが多いように思われます。では、なぜ今、ネガティブ・ケイパビリティが取り上げられているのでしょうか。
それについては、また次の記事でまとめていきたいと思います。
【参考】
VOGUE JAPAN「“ネガティブ・ケイパビリティ”とは?今、不安に駆られている人に伝えたい【ヴォーグなお悩み外来】」2023年9月7日発行
KBI EDUCATION「不確実な時代に必要なネガティブ・ケイパビリティとは」2023年6月21日発行