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デジカメUI入門:2 撮影モードの中身
撮影という行為が、撮影そのものと再生(画像の確認)のサイクルによっておこなわれていることを前回書きましたが、今回は撮影モードの役割について書いていきます。
ちょっと長目ですがお付き合いください。それだけ現在のデジカメの撮影モードは拡大化しているのです。
昔からある撮影モード
撮影モードという考え方は、自動露出(AE)が生まれたときに、絞り値、シャッター速、露出補正の中から2つの値を決めると3つ目の値が自動的に決まる性質から4つのパターンとして作られました。
その4つのパターンがこれです。
Pモード
ユーザーが露出補正を決めると カメラが絞り値とシャッター速を決める
Aモード
ユーザーが絞り値と露出補正を決めると カメラがシャッター速を決める
Sモード
ユーザーがシャッター速と露出補正を決めると カメラが絞り値を決める
Mモード
ユーザーが絞り値とシャッター速を決めると カメラが露出補正の値を表示してくれる
PASMはどれを使っても適正な露出を得るという目的は同じで、結果としてそれぞれの値が同じであれば写真としては同じ仕上がりになります。
3つの値には、作画表現をおこなう上で次のような特徴があります。
ユーザーは、自分の表現で意識したい値を直接コントロールできるモードを使うことになります。
絞り値
ピントが合っている範囲(被写界深度)やボケの大きさをコントロールでる
シャッター速
動いているもののブレや軌跡の表現をコントロールできる
露出補正
画像の明るさをコントロールできる
水の流れを表示するときはSモード、ボケを表現したいときはAモードという風にモードを切り替えて使うユーザーがいる一方で、1つのモードに固定して全く動かさないユーザーもいるようです。
さらにフラッシュ機能や連写機能、マクロ機能などいくつかの機能が出てくるとそれらをユーザーが自由にコントロールできるモード(PASM)とカメラ任せで撮影できる「AUTOモード」が誕生しました。
(この考え方は、AIなどの登場によってさらに進化して撮影モードの基本になっていきます。その辺りは後半に記述します)
デジカメになって変わったこと
フィルムカメラの時代から、スポーツモードやポートレートモード、風景モードなどいくつかの「シーンモード」がありましたが、カメラが持つ表現のパラメータはPASMと変わらないため、単にそのシーンの一般的な表現に合わせて、絞り値やシャッター速を調整するだけのものでした。
ことろがデジカメの登場によって、画像処理の方法などもシーンに合わせて最適化することができるようになり、シーンモードの意味合いが大きく変わってきました。
シーンモードを使うことで、被写体を認識しフォーカスやシャッターを動かし、適切な画像処理をほどこすことができるようになりました。
さらに、シーンに特化した表現をユーザーが調整することもできるようになっています。
シーンモードは撮影者の意思をカメラに伝え、それに応じてカメラが適切な振る舞いをするためのインターフェイスと考えられるようになっています。
インテリジェントモードとクリエイティブモード
カメラの機能が増えたことで生まれた「AUTO思想」はより拡張され、2つの方向へ進化していきました。
それが、インテリジェント系モードとクリエイティブ系モードです。
インテリジェント系モード
カメラが賢くなって自動で最適な撮影をする
失敗したくない場合や、他のアクティビティに集中しているときに利用する
クリエイティブ系モード
ユーザーが主体的に表現をおこなう
失敗する可能性が大きくなるが、撮影体験を豊かにして、撮影された写真の価値が大きくなる
2つの方向をユーザーが選ぶことで失敗のリスクと表現の幅を適切に設定できるようになります。
今後、シーン認識、物体認識、時空間認識、撮影者認識などカメラが撮影状況を認識する技術の進化によってカメラと人の関係は変化していきますが、2つの方向はあまり変わらないかもしれません。
これは写真を撮る目的として「記録と表現」が普遍的な価値観になっているからです。
デジカメUIのデザインは、これらの思想のもとで進化する技術を用いて、カメラと人間との関係を設計し、具体的なモードとして実現していくことが求められていくことになります。
モード選択のUI
ではモードを選ぶUIについて見ていきましょう。
PASMの数は変わりませんが、シーンモードやアートモードは多様な被写体や表現に対応するため数が増える傾向にあります。
これまではスポーツモードで鉄道の写真を撮っていた人も、これからは「鉄道モード」ができて、先頭車両のライトにピントを合わせてくれたり、あの金属的なボディーに合った画像処理にしてくれたりします。
さらに進化を続ければ、「レトロ鉄道モード」や「新幹線モード」などさらに細分化していくかもしれません。
アートモードも、これまでに無いインパクトのある表現が求められれば、きっと増えていくでしょう。
モードダイヤルによる選択
一方で撮影モードは瞬時に選択できなければシャッターチャンスを逃してしまうこともありますので、沢山の中からゆっくりと選択するのではダメです。
そこで重宝されるのがモードダイヤルです。
参考にOLYMPUSのE-M10 MarkIIIのモードダイヤルを見てみましょう。
このなかで、SCN(シーンモード)、AP(アドバンスフォト)、ART(アートフィルターモード)は、実際のモード選択は全てGUIで選択するようになっています。
最後に使ったシーンモードを記憶しているため、良く使うシーンモードはダイヤルを回すだけで使うことができます。
シーンメニュー/アートメニューによる選択
シーンメニューやアートメニューでは、作例を表示することでユーザーが自分の撮影したいイメージを想像しやすくしています。
モード選択がGUIになることで、後から新しいモードを追加することもできるなどメリットがいろいろとあります。
AUTOモード内からの自動呼出し(シーン判別)
シーンモードの数が多くなることで、それらの中からいちいち適切なシーンモードを選択しなければならないという問題が出てきました。
それを解決するために出てきたのが、「インテリジェントオートモード」の中でカメラが自動でシーンモードを選択してくれる機能です。
全てのシーンを識別するまでには至っていませんが、今後はAIの活用でいづれ実現すると考えられています。
Panasonicの「おまかせiA」モードではさまざまな被写体を自動認識できます。
カスタムモード
これだけ撮影モードが増えてくると、全てのモードを使う人はいなくなります。(今まででもいなかったと思います)
そこで重宝するのが、使うモードだけにしたり、モード内の設定を覚えておく「ユーザーカスタムモード」です。
カスタムモードは、登録した時の状態を覚えているため、PASMで最後の状態を覚えているのとは少し違った使い方ができます。
モードダイヤルを動かしてカスタムモードを再呼出すると、登録した状態にリセットしてくれるのです。
例えば、露出補正やホワイトバランスをいじりまくったとしてもリセットするだけでいつもの状態に戻すことができます。(レバーなど物理的なUIで変更したものは対象外になります)
今回はここまでです。長文でしたが、完全に解説しきれた訳ではありません。
説明を省略したところもありますので、興味がある人は中級クラスのカメラの全てのモードを使って撮影してみると色々と気づくことができると思います。
文章内の画像は各メーカーのホームページから引用しました。画像にリンクが張られています。