ビジョンを語って理想が実現するための道筋を作る
現時点のユーザー要求に基づきそれを達成するだけではなく、その先ではどのような状態になっていることが理想なのかを想定することは、ユーザーだけでなく社会や環境といった長期的で広範囲の体験設計には不可欠である。
理想やそこに向かうための道筋としてビジョンを表現することは体験設計にとって重要なプロトタイピングである。
ビジョンは言葉や絵、さまざまな活動を通して表現することができ、共感を得ることで仲間が集まる。
ビジョンへの共感が製品の体験価値に繋がる
ビジョンは「ブランド」と言い換えることもできます。何のために体験設計をおこなうのか、そして製品をデザインするのかということです。
ビジョンは製品開発の後にマーケティングとして作るものではありません。製品開発を始める前にどのような価値を提供するのかどのような世界を作っていきたいのかという目的になるものです。
またユーザーにとってその企業が持続し将来に夢や理想の実現に投資する意味合いも持ちます。そのことによって今現在に製品を使うモチベーションになったり、自分の姿を投影することで体験価値を上げることができます。
つまりビジョンを描くことで製品開発を開始し、ビジョンを自分に当てはめてユーザーは製品を購入し、ビジョンによって製品を変化させていき長期間に渡って体験価値を提供し続けることができるようになるのです。
具体的なアイデアの前に価値の本質を見つける
ビジネスや製品の目的と手段の関係をずっと上位まで遡っていくと最後はビックバンの前の状態、すなわちビジョンや理想にたどり着きます。会社で言えば企業理念がそれにあたります。何のために製品開発をするのか、メンバーが集まり働いているのかということがそこに集約されています。
プロトタイピングの目的の一つに、考えを外在化して自己確認や他者共有をおこなうことがあります。より具体的で詳細なプロトタイピングであれば良いように考えられますが、ある段階ではむしろ抽象的・概念的である方が良いことがあります。
特にこれからプロジェクトを始めていこうという超上流では、ビジョンの実現手段は社会環境・技術環境によって柔軟に変化していく必要があるため、何にでも変化できるiPS細胞のようなものが求められます。
ビジョンの価値を見極めるためのプロトタイピング
ビジョンは最初頭の中でひらめき考えられますが、ビジョンが正しいかどうかを評価するためのプロトタイピングも必要です。
まずビジョンを言葉やビジュアルで外在化して、多くの人が興味をどのように示すのか観る方法があります。その人に関連するものと結び付くことで興味が湧いてくるかどうかが分かります。
機能する製品ではなくアート作品として抽象的なイメージを提示することで刺激を与え社会に変化をもたらすのと似ているところがあります。
技術者であればつい具体的な機能や形態に落とし込んでしまいそうですが、そこはぐっと我慢して抽象的なイメージに留めておくことがビジョンプロトタイピングのコツになります。
ビジョンは短い言葉やイメージで
ビジョンが具体的であればそれだけ共感してくれる人が少なくなります。同時に集まるメンバーの多様性が失われます。「速いバイクを作る」と言えばバイクに興味を持つ人しか集まりませんが、「早い乗り物を作る」と言えば自動車や飛行機などさまざまなモノに興味を持つ人が集まれます。
ビジョンは具体的な体験設計でもモノ作りの設計図でもありません。これからおこなう活動の本質や根幹であり、みんなが集まる理由です。
ビジョンはそれを実現するための道筋を作ることが目的ですので、糊代(のりしろ)として、人や技術を集めてつなぎ合わせる役割を持つだけで良いのです。つまり短い言葉で様々なものをイメージさせ多様な人を結び付けられれば、それだけ良いビジョンだと言えます。
社員がビジョンを語れるか
スタートアップやベンチャーは別にして、既に企業してから時間が経っている場合には企業理念を考える意識は無くなってしまいます。
CI(コーポレートアイデンティティ)やスローガンを考えるだけでなく、普段の広告宣伝などでも、ビジョンに立ち戻ったりビジョンを新しくすることを意識してデザインすることができれば、ビジョンは生きたものとして機能していると言えます。
スタートアップであればまだ何もない状態でビジョンを考えることができますが、既存の企業ではまさにiPS細胞のように出来上がった製品から、もう一度その価値の本質に巻き戻し、新たな実現手段によって作り直すためにもビジョンを描くと言うプロトタイピングは重要なものなのです。
創業者や社長だけがビジョンを持っているのではなく、社員ひとりひとりが抽象的なビジョンをプロトタイピングによって表現し、再確認・再設定することができれば、ビジョンを語ることで体験設計においても多様性と柔軟性を持ったアイデアが展開できるようになるはずです。
この記事は「体験設計のためのプロトタイピング<11箇条>」の中から個別の項目についてより詳細に解説をおこなったものです。是非全体の項目もご確認ください。
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