プロトタイピング・コントロールが目指すもの
若いころにUIデザイナーとして成長を目指しユーザビリティに着目し「人間中心設計プロセス(ISO13407※当時)」と出会いました。
ユーザーや利用状況を情報として扱いデザイン活動に手順をつくりコントロールすることで、デザインを管理し問題があればどの部分が間違っていたのかを特定し改善サイクルを回すことができるものでした。
それまでもデザインにおいてユーザーへの意識はありましたが、それよりもデザインする対象(デジカメとか顕微業)をいかに良くするか、新しくするか、合理的にするかという視点だったと思います。
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その後、人間中心設計は言葉の表現は変わりデザイン領域も広くなり「デザイン思考/デザイン経営」へと繋がっていきました。現在ではデザイン部門だけでなく会社全体の開発プロセスやビジネスプロセスになっています。
このプロセス全体を通して各段階でおこなわれるのがプロトタイピングです。デザイン対象をプロトタイピングするだけでなく、デザイン活動そのものの妥当性や有効性を確認するプロトタイピングも含まれます。この場遊びのように思われますがプロトタイピングのためのプロトタイピングも重要なプロセスになります。
このようにプロトタイピングをきちんとコントロールすることができればデザインプロセスが有機的に動き出し、リスクを管理しながらイノベーションを実現できるのです。
先日、各部門でおこなわれてプロトタイピングを把握し他部門とも連携して有効活用できるようにするためにCPO(チーフ・プロトタイピング・オフィサー)が必要だという記事を書きました。CPOの仕事の一つが「プロトタイピング・コントロール」になります。
プロトタイピング・コントロールとは
自動車や医薬品のような生命・安全に関わるものだけでなく、特定の効果をうたう製品やサービスを各国で販売するためには、多くの場合その安全性と効果を保証(証明)しなければなりません。例えばApple Watchが医療機器としてFDAに認証されたというニュースがそれにあたります。
そのような活動をデザイン・コントロール(設計管理)といいます。デザイン・マネージメントもほぼ同じような意味ですが、まだ市場に製品を出す前に安全・効果保証をするわけですから、あらゆるステップが厳密に評価し方向付けしなければなりません。
認証のためにドキュメントを用意するのですが、そのドキュメントに書かれるものはプロトタイピングによる証明活動の記録になります。設計意図や希望的予想ではなく実際にユーザーが利用環境の中で使えるものであることを証明することが重要になります。
つまりデザイン・コントロールを実際に成り立たせるためには「プロトタイピング・コントロール」が必要であり、各段階でどのようなプロトタプを作成し、評価と方向性の確認をおこなうかポイントになってくるのです。
勝手にやれるイノベーション発見プロトタイピング
私がプロトタイピング・コントロールを重要だと思うようになったのには、会社側で大きな予算を付けて計画的に実施されるプロトタイピングだけでなく、デザイナーが自由(勝手)に作るプロトタイピングがイノベーションにとって重要だと言うことをちゃんと組み込む必要があると気付いたからです。
製品の販売許可と同等の意味を持つデザイン・コントロールでは、会社の法務部、品質保証部など主要な部門がしっかりとした体制の中で社内ルールを作り運用していくことになります。
以前であれば比較的自由に活動できていたものが、環境問題や安全性への意識の高まりによって各国の認証条件が厳しくなり、より厳密な活動へと変わる必要がでてきているのではないでしょうか。
特に、既に市場に出て機能の有効性や製品の安全性が証明できている製品を引用する形でドキュメントをまとめることで、プロトタイピングによる新規実証を回避するなど、新しい製品やデザインへのチャレンジがやりにくくなっておりイノベーションを目指しにくくなっている現状があります。
そんな中で、メンバーが自由勝手におこなうプロトタイピング領域を、明確にコントロール下に置いて、むしろ活性化をしていく必要があると感じています。Googleの20%ルール(業務として好きなテーマの開発ができる)が近い考え方です。
2つのプロトタイピングをコントロール
これまでもメーカーでは特定のプロトタイピング(試作)を長年繰り返してきました。その目的が機能・性能の実現や強度・耐久性、または生産性といったモノ作りに偏っていましたが、そこへユーザビリティ評価のためのプロトタイピングが加わり近年では定着してきました。
しかし新しい価値や役割を見つけ出すイノベーションのためのプロトタイピングはまだ十分では無いように思います。
富士通やNECのようなデザインコンサルタントを起点としてソリューションビジネスを提供する会社では多くおこなわれていますが、逆の見方をすればソリューションを受ける会社自身では十分に社内でイノベーションプロトタイピングができていないと見ることができるのです。
環境問題、消費者保護の観点からより確実な開発管理に移行していく中で、それに対応していくプロトタイピングと、それによって失う非合理的で揺らぎの中で生まれるイノベーションのためのプロトタイピングを両立していくことがこれからのメーカーに求められます。
この記事は各分野の法規制を正しく表現したものではありません。一般的なデザイン環境を想定し個人的な考えをまとめたものです。
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